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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
53/92

いざ、門へ

「…以上が僕の…嘘偽りない過去のすべてです…セシリオ様、あの時は本当に―」

『もうあの時のことは良い。何度謝るつもりだ』

 この流れでフィミリーが刺した時のことを謝罪してくることが予想出来ていたセシリオは、素早くそう書いた紙を差し出した。

「…まだ463回目です……」

 フィミリーはしょんぼりと俯いた。


「…そっか…ファー…フィミリーちゃ、くん……」

 フィミリーから衝撃の事実を聞かされたテリードは、ショックで顔を青くしている。動揺のあまり口もまわらない。

「…でもオレだって、本当にフィミリーくんのこと、大切に思っていたんだよ!」

「あなたが大切に思ってくれていたのはあくまでファーミィ。ただの幻です」

 フィミリーは冷たく切り返し、その場の空気は再び凍った。


「…さ、もう良いでしょう。さっさとアウラークに…」

「…あの、もう閉まっちゃったみたい…です……」

 気が付けば数時間話し込んでいたために、辺りはすっかり暗くなってしまっている。一行はがっくりと肩を落とした。

「…あ、この施設の管理、オレん家がやってるんで…お詫びにひとつ(ゲート)を開けます…」

 テリードはよろめきながら立ち上がり、すっかり閑散とした施設内に向かって歩き出した。


 ―――


「このプライベート用なら…他のと比べて時間も少しかかりますし二人ずつしか行けませんが、オレでも動かせるんで」

 それは先ほど並んでいたものや、セルディアで通った(ゲート)と違ってずいぶん小さなものであった。

 慣れた手つきでそれを起動させるテリードの様子を見るに、完全に彼の私物なのだろう。


「では…アウラークまでオレもご一緒します…フィミリーくん、オレと乗ってくれるよね?」

 テリードはおそるおそるではあるものの、しっかりとフィミリーの目を見てそう言った。

 フィミリーは一瞬躊躇したものの、静かに頷く。


「ではあとの皆様も二人一組で入って下さい」

 そんなテリードの声に一番に動いたのはサクリーシャだった。

「ありがとうございます!セシリオ、行きましょう」

 サクリーシャはセシリオの手をぐいと引くと、チユキに少しだけ目線を送って笑った。


 テリードとフィミリーが初めに(ゲート)をくぐるのを見届けてから、セシリオとサクリーシャ、キサとチユキといった組に分かれてそれぞれ続いた。


 ―――


「わあ~っ!すごい!これが(ゲート)!!」

 セルディアからピナシェへの使用時はほぼ一瞬だったため何とも思わなかったが、テリードの言うようにプライベート用ではそうはいかず貴重な“(ゲート)体験”をすることになった。

 辺り一面、まるで異空間に飛ばされたかのような風景である。

 何色とも言い難いねじれた空間に、目には見えないが自動で流れて行く道路がしかれており、勝手にじわじわと進んで行くといった感じだ。

 憧れ続けた(ゲート)とあってサクリーシャの興奮は最高潮に達しているようだ。鼻息荒くあちこち動き回っている。


「…あ、それよりね、遅くなったんだけど…ジャジュの時、ありがとう」

 突然我にかえったサクリーシャはセシリオの方を向き、照れたように笑う。

「…何のことだ?」

 ジャジュでは確かに色々あったが、サクリーシャが何の話をしているのかピンと来ない。


「あのほら、村長の試練で…セシリオが助けてくれたんでしょ?」

 その瞬間、セシリオはあの時のことを鮮明に思い出して赤面するが、とっさに横を向きなんとか気付かれないように取り繕った。

(な…まさか…あの時どの程度意識が―!?)

 意識を失ったサクリーシャを助けたい一心で、何かとんでもないようなことを口走った気もする…


「あの時…すごく暗くて寒い所にいて…とても怖くて…でもセシリオの声がして」

 奇妙なこの空間は薄暗く、お互いの顔が分かりにくいことが救いだ。

「そっちへ歩いて行ったら……よく覚えてないんだけど、助かったの」

「…そ、そうか。俺もあまり覚えてないんだ」

「セシリオのおかげよ。本当にありがとう!」

 サクリーシャはそう言うと満面の笑みを見せた。心なしか彼女の頬も紅潮しているようにも見える…


「デュアン…」

「えっデュアン?」

 様々な思考を巡らせた結果、何故かデュアンの名を口にしたセシリオは激しく後悔する。

(何を言っているんだ俺は!!)

「…デュアン…とのなれそめは何なのだ?」

 ここは適当な話題をぶつける他ない。


「…?…んー、実はよく分からない…小さな頃からずっと一緒だったから…」

 突然の話題転換に戸惑うサクリーシャだが、しっかりとした回答をすべく頭を悩ませているようだ。

「…あ、でもひとつ!子供の頃に行ったお屋敷で親とはぐれて迷子になったんだけど―」

 うまく話題を変えることに成功したのに安堵しつつセシリオは相づちを打つ。


「その時にデュアンが案内してくれたの!初めて会った時の話だけど…今思えば一目惚れかなあ…」

 うっとりと遠くを見つめるサクリーシャの姿を見て、この話題を振らなければ良かったと少し後悔するセシリオであった。


 ――


 サクリーシャの計らいでキサと(ゲート)に入ったチユキだったが、キサと二人きりだという事実と、初めての(ゲート)使用による緊張で限界寸前である…


「うっひぇ~!すげえなあ~前乗った時はこんなじゃなかったぞ!」

 チユキの思いも知らずに、初めての(ゲート)の裏側(?)にお構い無しにはしゃぐキサ。

「……あ…は、はい、すごい…ですが少し怖いですね…」

 チユキのような普通の少女が恐れるのは無理もない。

 足下は異空間のようになっており、歩いている訳でもないのにゆっくりと進んでいるのだから…


「こわいか?変だけど…ほら、走ったりも出来るぞ!」

 そう言ってキサは異空間を走り回る。

 地に足を着けているとは思えないぐにゃぐにゃとした感触が面白いのか、笑いながらあちこち動き回る。


 すると突然、キサの姿が見えなくなってしまった。

「…えっ!?き、キサさん!やだ、どこですか!?」

 緊張で一歩も動けないチユキだったが、キサが消えてしまったとあってはそうもいかない。

 おそるおそる一歩踏み出し、周囲を捜索する。


(…どうしよう……変な次元に入り込んだ…とか…!?)

 チユキの中に恐ろしい仮説が立つ。それにしてもここは薄暗く、本当に奇妙すぎる景色だ―

「わっ!」

 暗がりから突然キサが現れた。

「きっ、きゃああ…!!」

 驚きのあまり大きな声すら出せないチユキは、その場で姿勢を崩ししりもちをついてしまった。


「うわ、ごめん!そんな驚くと思わなくてさ~」

 キサはへらへらと笑いながら涙目のチユキの手を引いた。

「…う……う…」

 かなり混乱している状態のチユキは、キサに手を取られているという事実にすら目を向けることが出来ていない。


「…チユキ?おまえさ…」

 そんなチユキの様子を見て、ふとキサは真剣な表情になり彼女の顔を下から覗き込む。

「熱、あるんじゃね?」

 キサはそう言って両手でチユキの頬をぐっと持ち上げた。

 暗がりの中で相手の顔色を窺うために、唇が触れてしまいそうな距離にまで―


 ―――


「……」

「…あの…フィミリー…くん……」

 この奇妙な異空間だとか個人的に(ゲート)を所有しているだとか、気になることはたくさんあった。

 だが自分が今さらテリードに、何を言うことが出来るだろうか。


 本当はテリードに対してまったく何も感じていないなどと言う訳もなく、ずっと申し訳なかったという気持ちがあった。

 八つ当たりでテリードの人生を狂わせたことや利用したこと…仮にも命の恩人であるにも関わらず…

 それでも彼はこうして歩み寄って来てくれている…


「…この(ゲート)はね、君のために造ったんだよ」

 突然テリードが口を開いた。

「あっ造ったって言ってもオレ一人でじゃないけどね……これ、酔わないでしょ?」


 …そう言われて初めて気が付いた。

 極度に乗り物酔いのひどい自分が、このような気味悪い空間で摩訶不思議な移動をしているのに…身体は何ともない。


「…う…うん…何とも…」

「…!良かったー!…いつか君が戻って来た時のために、酔わない移動方法を考えて、色々試して…」

 テリードは両手を広げ、とても嬉しそうに言った。

「…水を差すようで悪いですが、普通の(ゲート)なら一瞬なのでそもそも酔うこともないですよ」

「…あ…そっかぁ…」

 フィミリーの冷静な突っ込みに、テリードは照れくさそうに笑った。



「……あの…僕のこと…恨んでないのですか…?」

 真実を話せばさすがのテリードにも恨まれる覚悟はしていたし、この場で二人きりになることが危険だとすら思っていた。

 しかし彼の様子は再会した時と変わっていない。


「…んー…色々ショックだったけどさ…オレは君を想ってる時がいちばん幸せだったからね」

 少しだけ考えた後、テリードは微笑んでそう語った。


「たとえ君が男の子だったと分かっても、ね…これからは…友達だよ」

 テリードが優しく自分の背中を叩いた時、フィミリーは頬に大粒の涙がつたうのを感じた。

「…ごめんなさ…い…本当に…ごめ…」

 泣きじゃくるフィミリーをそっと抱き寄せたテリードは、この少年の辛すぎる過去と彼が女性ではないということだけを心底恨みつつ、諦めたように笑った――


 ―――


 ポンッ


 何かが弾けたような音がしたかと思えば―

「さっ寒うっ!!」

 辺り一面銀世界…そう、ここがアウラークの地である。


「寒いーっ!きょ、きょんな格好じゃもたないわわわ…」

「すぐ近くに本来の(ゲート)がありますから、全員揃ったら向かいましょう!もう来るはずです…」

 テリードは着ていた上着を特に薄着であるサクリーシャにかけようとするが、上着は強風に煽られ飛んで行ってしまう。


(…寒い…ここは相変わらず大雪だ…)

 最後に乗り込んだキサとチユキがまだ出て来ない。

 早く建物内に逃げなければ凍死してしまいそうなほどの寒さだ…


 ポンッ


 セシリオがそう考えた矢先、目の前にチユキを抱き抱えたキサが現れた。

 一同はほっとした表情でキサ達を迎えたが…なにやら様子がおかしい…


「チ、チユキが倒れたー!!ごめん、先行くわー!!」

 顔面蒼白のキサは大声でそう叫びながら、チユキを抱えて猛ダッシュで駆けて行く。

 しかしそれは(ゲート)とは反対方向だ…

「きき、キサー!!そっちじゃ―」

 慌てて呼び戻そうとするサクリーシャをセシリオは制した。

「アイツはここ出身で土地勘がある。直接アウラークへ向かったのだろう…!」


 同じくあたふたするテリードにも簡単に説明し、一行は暖を求めて(ゲート)へと向かった。

 それにしてもサクリーシャ以上に薄着にも関わらず、寒さをものともせず走り去るキサには驚くばかりである…

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