7話 モンスター出現イベント
巨大な建造物、体育館を抜け出して学校敷地内へ足を踏み出した所で流れ出した緊急事態を知らせる、けたたましいサイレンと共に真っ赤な光が辺り一面を照らす。
新入生達が恐怖心と共に身を寄せ合う中、在校生は慣れた様子で素早く武器を取り出すと構えをとる。
「ときどきですが、学園内に低レベルのモンスターが現れます。在校生や教師がモンスター討伐のお手本を見せますので新入生は良く見て学んでください」
地面に現れた複数の魔法陣は漆黒。
闇属性のモンスターが複数現れることを表しており、落ち着いた様子で学園内にモンスターが現れる事や、今回は在校生達がお手本を見せる事を口にした理事長が、魔法陣の色を見るとすぐに言葉を訂正する。
「今回出現するモンスターは闇属性のようです。シエル先生お願いします」
出現する闇属性のモンスターが10体以下であれば討伐を生徒達に任せていた。
しかし、見た感じ地面に現れた魔法陣は100を越える。
「任せてくださいと言いたいところですが、複数体相手に手が行き届くか正直なところ自信がありません」
出現するモンスターのレベルにもよる。
生徒達でごった返している空間内で全力を出して戦うことが出来るとも思えない状況の中で、シエル先生が素直に不安であることを口にする。
不安を抱くシエル先生の背後で武器を手に取ったアヤヒナが構えをとる。
「現れるモンスターのレベルにもよりますが、低レベルのモンスターは任せてください」
シエル先生と同じ光属性のアヤヒナは範囲攻撃魔法を得意とする。
「分かりました。頼りにしますよ」
シエル先生の返事と闇属性モンスター、ゴーストが現れたのはほぼ同時だった。
瞬く間に学園敷地内は生徒達とモンスターが入り乱れ、人の姿に擬態することの出来るゴーストが生徒達の身形を真似る。
突然のゴーストの擬態に戸惑い不安と共にパニック状態に陥りかけた生徒達の視線に、ふとそれは入り込んだ。
ゴーストの頭の上にはヒットポイントを表すゲージがしっかりと表示されており、見分けがつかないだろうと悠然と学園敷地内を移動するゴースト達は、自分達の頭の上にヒットポイントを表すゲージが表示されていることに全く気づかない。
ゴーストのレベルは18~50。
ざわざわと騒がしかった学園敷地内が瞬く間に静まり返る。
声を出したらゴーストに襲われるかもしれないという不安が頭をよぎる。
生徒達はゴースト達に目をつけられたくない一心で口を噤み体を小さくして縮こまる。
「範囲攻撃魔法、光属性リング魔法を発動します。皆さんは頭を引っ込めてください」
シーンと静まり返った学園敷地内に会長の声が良く通る。
素早く地べたに這いつくばった生徒が半数。
女子生徒達は両膝を地面に付き体を丸めて身を伏せる。
教師達は膝を付き生徒達が身を伏せたことを確認する。
刃に光属性の魔力を纏わせて、呪文を唱えると共にその場で、右足を軸に一回転二回転三回転と体を回転させる。
剣を横一線に振り切った会長を中心に、複数のリング状の攻撃魔法が四方八方に放たれた。
悠然たる態度で周囲を動き回るゴースト達とは対照的。
素早く身を屈めて会長の放った攻撃魔法から逃れようとする生徒達は、予想外の攻撃魔法を視界に入れてあわてふためく。
必死になって地べたに額を擦り付けるのは、リング状の攻撃魔法に少しでも振れると肉を抉りとられてしまうため。
ざわめきたつ学園敷地内で、教師達が複数同時に放たれた範囲攻撃魔法を見渡して感心する。
迫り来るリング状の攻撃魔法を背後へ身を引くことにより避けて、素早く右足を引く。
体を横に一回転させることにより右方向から迫り来る攻撃魔法を避けたシエルは、しっかりと両手で握りしめていた剣を横一線に凪払う。
会長の放った範囲攻撃魔法で倒しきることの出来なかった高レベルのゴーストにシエル先生がとどめを刺す。
ゴーストと同じ闇属性を操ることの出来るユキヒラ先生は、人の姿に擬態するモンスターの中から頭上にヒットポイントゲージのあるゴーストだけを選び、その顔を鷲掴みにする。
ゴーストから強引に魔力を奪い自分の物に変換していくユキヒラ先生は容赦がない。
魔力を強引に奪われて、元気を失い萎れていくゴーストから手を離すと次から次にターゲットを変えていく。
逃げ送れた生徒に防壁を張り巡らせる教師の姿や、校舎を包み込むようにして結界魔法を張り巡らせる理事長の姿。
新入生をゴーストの攻撃から守る在校生の姿や怪我をした生徒の回復につとめる前年度の副会長の姿。
人々が入り乱れ、足元にも大勢の生徒がアヤヒナの放った攻撃魔法から逃れるため身を伏せている中、ゴーストを倒すことによりレベルアップを行っている生徒達の姿もちらほらと目にするようになってきた。
アヤヒナの放った攻撃魔法がゴーストの数を減らしたため、SクラスやAクラスに配属されるような高レベルを持つ生徒達が戦いやすくなる。
レベルアップを目的として魔法を放つ生徒や剣を振るう生徒達で場が賑わう中、一際生徒達の注目を浴びる女子生徒が一人。
「焼きつくせ!」
クリーム色のツインテールが印象的な女子生徒アヤネが炎属性の攻撃魔法を連発する。
「このように、学園内にモンスターが現れることがあります。モンスターは人が大勢いるところを好みますので、もしも遭遇をしたときは落ち着いて挑むようにしてください」
穏やかな表情を浮かべて学園内に出現するモンスターの説明を行った理事長の話を、地べたに顔を伏せて身を守ることで精一杯になっている新入生達は全く聞いていない。
ゴーストの数が減って余裕が出来たのはSクラスとAクラスの生徒のみですかと苦笑する理事長は言うタイミングを間違えたと反省、一人で苦笑する。
「よっしゃ! レベルが上がった」
「おい! 気を抜くな」
レベルが上がり喜ぶ者や、油断したがために背後からゴーストに串刺しにされそうになっている生徒がいることに気付き、慌てて注意を促す者。
穏やかな表情を浮かべたまま水属性の拘束魔法を唱えた副会長は、ゴーストを水で包み込みその呼吸を妨げる。
アンデッド系モンスター。それも、ゴースト達が肺呼吸をしていることに驚きつつも次から次へとゴーストを水で包み込んでいく副会長もまた、ユキヒラ先生同様容赦がない。
大勢の生徒達がいる中で、著しい成長を遂げる副会長と会長の体を包み込む淡い光は途切れることが無い。間隔を開けること無く次から次へとレベルアップをする。
「焼きつくせ!」
広範囲のゴーストを複数同時に焼きつくすアヤネは元々のレベルが60を越えるため20レベル前後のゴーストを倒しただけでは、なかなかレベルが上がらない。
レベルアップが出来ないまま学園敷地内で発生したイベントは達成してしまうのかなと考えるアヤネの視線の先で、レベル50のゴーストが灰となって消えていく。モンスター出現イベントでのレベルアップは出来そうもないかなと考えていたアヤネの体が淡い光に包まれて、望んでいたレベルアップをすることに成功をする。
久しぶりのレベルアップにピョンピョンと跳び跳ねて喜ぶアヤネは、すぐ背後にゴーストが迫っていることに気づいてはいなかった。
レベルアップをしたことに対して完全に気をとられているアヤネは有頂天になっている。
きゃっきゃと、はしゃぎ声を上げて喜ぶアヤネに迫るゴーストに気付き真っ先に反応を示したのは、範囲攻撃魔法を発動し終えてモンスターの数を把握するために周囲を見渡していた会長アヤヒナだった。




