3話 再会
パタパタと慌ただしい足音を立て、入学式の会場である体育館へ向け足を進めるアヤヒナは気づいているのだろうか。
向けられている沢山の視線に……。
足早に廊下を突き進むアヤヒナに向けられた熱い視線は全て女子生徒のものである。
「誰かしら?」
白色の制服を身に着けた、上品な身なりをした女子生徒が友人に声をかける。
「誰だろう。黒い制服を身に着けているね」
友人と同じように白い制服を身に着けた女子生徒が小さな声で呟いた。
「おい、黒い制服を身に着けてるぞ」
「あぁ、珍しいな。Sクラスの生徒は先に体育館に移動しているはずだろ?」
男子生徒がアヤヒナを話題にして友人と共に話をする。
「そう言えば、さっき黒い制服を身に着けた中等部の生徒が勢い良く私達を追い抜いて行ったな」
「あぁ、そう言えば……」
男子生徒達の会話を耳にしていたアヤヒナが足早に生徒達を抜き去った。
父から受けた説明によると、学園はAクラスからFクラス。
そして、アヤヒナの所属するSクラスに分かれているらしい。
AクラスからFクラスに所属する生徒は白い制服を身に着けている。
しかし、Sクラスの生徒は黒い制服を身に着けて学園生活を送るらしい。
街の中央に位置するギルドでクエストを受けて、モンスター退治。又は素材を集める事によりギルドランクを上げる事が出来るのだけれど、そのギルドランクによってクラスが決められる。
ギルドランクAであるアヤヒナはSクラスに分けられた。
銀騎士団入りを決意してから、たった数日でギルドランクをAまで上げたアヤヒナは、見事に男子生徒を演じる気満々である。
そのためには、極力学園生活を送る中で生徒達と関わり合いにならず目立つことも禁物。
既に沢山の生徒達からの視線を集めている事にアヤヒナは気づいていないのだろう。
足早に体育館内に移動をすると指定された席を探しにかかる。
体育館の正面側。
左隅にズラリと並んでいる黒い制服を身に着けた生徒達は既に、席に腰かけて友人達と共に会話を楽しんでいる。
外部からの編入はアヤヒナだけのようだ。
一つだけ見つけた空席は一番正面。
一番左側である。
出来れば後ろの方が目立たなくて済むから良かったんだけどと、内心考えているアヤヒナはこれが父が考えた策の一つだとは気づかない。
どうやら、足音を聞き生徒達がアヤヒナの存在に気付いた様子。
ステージ側を向いていたはずの生徒達の視線が体育館出入り口へと向けられる。
「うわ……」
漏れるようにしてポツリと呟かれた言葉は一体どのような意味を含んでいるのか。
「まじか……」
続けてポツリと言葉を漏らしたのは、アヤヒナから見て一番近い距離。一番後ろの席に腰かけている男子生徒だった。
「レベルが違う」
またも、男子生徒がポツリと声を漏らす。
これは喜んでいいのか、それとも悲しむべきなのか。
何とも中途半端なリアクションを受けたアヤヒナが表情には表さないようにしているものの、内心戸惑っていれば
ぎゃぁあああああ!
黄色い声を通り越して耳に突き刺さる様な叫び声が体育館内にこだまする。
「ちょっと!」
続けて隣に腰を下ろしていた友人の背中を力任せに叩いた女子生徒が目を輝かせた。
「やばい。かっこいいんだけど」
力任せに背中を叩かれた生徒が激しく咳き込んでいる事にも気づかずにいる女子生徒は、アヤヒナに視線は釘付けである。
「話しかけるなオーラ半端ないけど、話しかけに行く?」
胸元のリボンをくいくいっと指先で引っ張って、身なりを整えようとしている女子生徒が友人に声をかけるものの
「吐きそうなんだけど」
背中を強く叩かれた生徒はそれどころではない。
目を輝かせる女子生徒とは対照的。おえっと嗚咽する女子生徒はアヤヒナの姿を視界に入れる事すら叶わない。
どうやら高校の入学式には中等部の生徒も参加するようで、黒い制服を身に着けた高校生に比べたら一回り小さな生徒達がポカーンとした表情を浮かべてアヤヒナを見つめている。
変な目立ち方をしてしまっている事に気づいたアヤヒナが空席に向けて足を進め始める。
出来れば目立ちたくは無かったものの、理事長室へ寄っていたから見事に出遅れてしまったようで、Sクラスの生徒達が席に着いた後に体育館に到着をしたものだから変な目立ち方をしてしまった。
これ以上生徒達の視線を集めないためにも空席目指して一直線に足を進めていれば、ふと……見知った顔が視界に入り込む。
クリーム色の髪の毛を耳の上でまとめ上げている。ツインテールが印象的な少女は、つい数日前に危ない所を助けてくれた人物である。
本来なら今すぐにでも駆け寄って、お礼を言いに行かなければならないのだろうけど……。
礼を言いに行ったら瞬く間に男子生徒と姿を偽っている事がばれてしまう。
ここは、今すぐにでも駆け寄りたい気持ちを我慢してアヤネのすぐ隣を通過する。
実は理事長、アヤネが学園に通っている事に気付いていた。
銀騎士団に入隊するためにアヤヒナに男装をさせる事を決めたのは、どうせすぐにアヤネの前でボロを出すと思っての事。
そうとは知らずにアヤヒナは何の疑いも無く父親の提案を受け入れてしまったのである。




