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17話 ウルフの群れ

 ウルフの群に戦いを挑む気満々のユタカを前にして自分だけ身を翻すことは出来ない。

 恐怖心が(まさ)っているため、ぎこちない動きを見せるアヤネが杖を両手で握りしめて構えを取る。

 アヤヒナと副会長は剣を手にしてユタカの指示を待っていた。

 瞬く間に緊迫した雰囲気に変化した隠し通路内で、ユタカが口を開く。


「アヤネさんはレベル60から80のウルフを優先的に狙ってほししい。ユイト君とアヤヒナ君はレベル1から50レベルのウルフの攻撃を優先的に行ってほしい。向かってくるウルフを片っ端から討伐していこう」

 穏やかな口調で指示を出したユタカに向かってユイトやアヤヒナは頷き合図ちを打つ。


「大丈夫?」

 険しい表情を浮かべながら、杖を構えるアヤネの身体は小刻みに震えていた。

 顔面蒼白、涙を溜め込むアヤネに向かってユタカが首をかしげて問いかける。


「だ、だ、だ、大丈夫」

 全く大丈夫には思えないけれども、奇妙な笑みを作ったアヤネが絞り出すようにして声を出す。


「接近戦に持ちこまれてはいけないよ。ウルフは気性が荒いからね」

 真面目な顔をするユタカの声かけに対してアヤネは小さく頷いた。

 

「もしも、私が危険な目にあったら守ってくれるよね?」

 プルプルと小刻みに揺れ動く杖の先端をウルフに向けたまま、アヤネは怯えた様子で視線だけをユタカに移して問いかける。


「もちろん。絶対に守るよ」

 即答だった。

 微笑を浮かべるユタカの視線はウルフに向いたまま。

 

「アヤヒナ君とユイト君は私に続いて」

 接近戦を得意とするアヤヒナとユイトに向かって声をかける。

 

「気を引き締めましょう」

「緊張する」

 会長と副会長は、それぞれに考えを口にしてからユタカに続いて全力で駆け出した。

 

「レベル60からレベル80のウルフは範囲攻撃魔法と共に遠距離攻撃魔法を自由自在に操るから気をつけて」

 事前に注意事項を口にしたユタカに向かって、アヤネは頷き返事をする。


 レベル60からレベル80のウルフを優先的に狙うユタカは、アヤネの発動した炎属性の攻撃魔法によって僅かに動きを制限されたウルフのヒットポイントゲージを削る。

 続けて剣を横一線に振り払うことによって複数同時にウルフにとどめを刺す。それは、瞬く間の出来事だった。

 

 属性魔法攻撃を使うことなく物理的な攻撃を繰り返すユタカの体力は化け物並み。

 呼吸を乱すことなく迫るウルフを華麗に避ける。

 時には蹴りや拳を使いながら、懐に入り込んだウルフを討伐するユタカは余裕を見せる。


 アヤヒナとユイトは50レベル以下のウルフに剣を振るう。

 水属性の攻撃魔法を扱うユイトが複数のウルフを同時に、水を囲んだ膜を張り巡らせて窒息させる。

 光属性を扱うアヤヒナが範囲攻撃魔法である巨大な光のリングを発動して、複数のウルフの胴体を真っ二つにする。ヒットポイントゲージを削るアヤヒナとユイトのレベルが次から次へと上がっていた。


 ウルフの爪がユイトの頬を掠めて真っ赤な血が流れ出る。

 攻撃を行うのと同時に、ユイトの負った怪我に向かって回復魔法を発動するユタカは複数の敵に囲まれながらも周囲を見渡して余裕を見せる。

 アヤネのレベルも少しずつ上がっていた。

 しかし、ユタカのレベルは一向に上がる気配がない。


「レベル60から80のウルフを含めた100体ほどを一斉攻撃しているのにレベルが上がらないのは何故ですか?」

 四方八方から迫り来るウルフに剣を振るうアヤヒナは疑問を抱いてユタカに声をかける。

 人間界を統べる王様、国王は198レベルだと聞いたことがある。

 198レベルであっても100体以上のウルフと対峙しているため、1レベルや2レベルは上がっても可笑しくはないだろう。

 レベル80のウルフを既に2体討伐しているのにユタカのレベルは上がらない。

 アヤヒナの問いかけに対して苦笑するユタカは首を左右に振る。


「答えることが出来ないんだ。せっかく興味をもって聞いてくれたのに申し訳ない。ごめんね」

 ユタカのレベルが上がらないのには訳がある。

 しかし、それは気軽に口に出すことの出来る理由ではないため苦笑するしかない。


「秘密の多そうな人だなと思ってはいたけど、まさかレベルが上がらないとは……思ってもいなかったです。呪術を受けていたりしてと思ったのですが、まさかそんなことは無いですよね」

 冗談を交えながら考えを口にしたアヤヒナは小刻みに肩を揺らして笑う。

 アヤヒナの笑いにつられて小刻みに肩を揺らして笑うユタカは笑って誤魔化していたけれども、アヤヒナの想像通りである。

 

 朝起きたらレベルの封印を受けていた。

 本来のレベルは1000や2000と高レベルを持つボスモンスターをスキルも使わずに、剣を振るうことだけで討伐することが出来てしまうレベルを持つユタカは事実をアヤヒナに伝えることが出来ずに口ごもってしまう。

 

「ユタカお兄さん、とどめを刺して!」

 アヤヒナに視線を向けていたユタカは背後で業火の炎に包み込まれているウルフに気づかない。

 見かねたアヤネが大声を上げてユタカに指示を出す。

 

「ごめんなさい。俺が戦っている最中に声をかけてしまったから……」

 ユタカの集中力が散漫になってしまったのは自分が声をかけてしまったせいだと考えたアヤヒナが、慌てて謝罪をする。

 

「多分アヤヒナ君に声をかけられなくても、背後に迫ったウルフには気づかなかったと思うよ。死角に入り込んでいるわけだし、アヤネさんの発動する業火の炎は無音だからね」

 ウルフの腹部に剣を突き刺してとどめを刺したユタカが苦笑する。

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