12話 衝撃的な事実
見事に目が合った。
長い年月をかけてアンデッド系モンスターに変化したリッチは元は人間。出来れば戦いたくない相手ではあるものの、リッチはユタカやアヤヒナに向かって杖を構えているため戦う気満々のようで、敵意を向ける相手には容赦をしない。
一方的にやられるわけにも行かないため、ユタカは小さなため息を吐き出して覚悟を決める。
「やっぱり、気付かれるよね。レベルは120か。剣術や武術だけでは倒すことの出来ない相手か。困ったな」
力なく考えを漏らしたユタカはアヤヒナに向かって防壁を張り巡らせる。
アヤヒナを防壁の中に包み込むと、再び小さなため息を吐き出した。
「嫌なんだよね。スキルを発動すると属性が知られてしまうから。氷属性を扱う事が出来るのは人間界では一人しかいないから身元も知られてしまうことになる」
思わず本音を漏らしたユタカが、再び小さなため息を吐き出すと目蓋を閉じる。
120レベルのアンデッド系モンスター、リッチ相手に魔力を温存している場合ではなくなった。
スキルを発動しなければアヤヒナ共々、リッチの餌食になるだろう。
ユタカが頭の中で武器の出現を唱えると、右手の平と左手の平それぞれの手の平に添うようにして2本の氷の剣が現れた。
氷属性のスキルを扱うことが出来る人物は現在、人間界では一人しか確認されていない。
国を統べる王様、国王である証であるためユタカはスキルを使った攻撃魔法を放つことを出来るだけ避けていた。
しかし、そうも言っていられない状況の中で、特殊武器の出現に成功した国王は身構える。
剣を囲むようにして無数の氷の粒が渦巻いている。
刃先から柄へ向かって、ぐるぐると回る氷の粒は水色の光を放ち周囲を照らす。
国王の足元に現れた水色の魔法陣は彼の体を身軽にする、敏捷性を高める効果があった。
剣の出現と共に現れた赤を基調とした衣は、国王の体を包みこむ。
足首まであるしなやかな赤いドレスには高級感を思わせる細かな刺繍が施されている。
膝下まである長い黒色の上着を羽織り佇んでいる。
次から次へ溢れ出す涙を拭うこともなく、目の前に浮かぶ青年を見つめているアヤヒナは息を呑む。
本来なら関り合いになるどころか、姿を見ることも叶わない相手である。
ひれ伏し頭を下げなければならないだろうかと浮かんだ疑問をスルーして、アヤヒナは目の前に浮かぶ国王の姿をしっかりと目に焼き付ける。
今後行動を共にする機会は無いだろう。
国王の戦っている姿や、発動する術を間近で見ることの出来る時間は長くはないと思う。
どれ程の時間でリッチを倒すことが出来るのか予想はつかないけれど、アヤヒナは国王の勝利を確信していた。
国王が負けるはずがないと考える。
瞬きをすることも忘れて、まじまじと氷属性を扱う青年の姿を見つめているアヤヒナは恐怖心よりも好奇心の方が勝っている様子。
アヤヒナに背中を向けている国王はアンデッド系モンスターであるリッチに気を取られているため、アヤヒナの熱い視線に気付かない。
瞬く間に国王の懐に入り込んだリッチは杖を振るうことによって、国王の横腹に杖の先端を打ち付けた。
全く予想外の光景を目にすることになったアヤヒナは息を呑む。
「あ……接近戦なんだ」
てっきり、魔術か死霊術を発動するかと思っていれば杖を国王相手に振るリッチは力自慢をしたいのだろうか。
思わず本音が漏れたアヤヒナの目の前で、国王がリッチを力任せに蹴り飛ばした。
距離を取らなければ戦いづらいのだろう。
リッチと距離が出来た途端、複数の氷の刃を放った国王は遠距離攻撃も可能なようで、国王の放った攻撃魔法を防壁を張り巡らせることによって防いだリッチは素早く死霊術を発動する。
死者の霊を呼び起こしたため周囲は瞬く間に騒がしくなった。
国王を囲むようにして現れた死者の数は不明。
過去に洞窟内で死亡した者達が国王に釘付けになっている。
弓を扱う者や、杖を扱う者や、剣を扱う者と扱う武器は様々で中には魔法や剣術を同時に発動することの出来る死霊もいる。
死霊が武器を構える前に先制攻撃を仕掛けた国王は手当たり次第に死霊相手に回復魔法を発動する。
回復魔法はアンデッド系モンスターに取っては攻撃魔法になるため、遠距離攻撃を行う死霊から優先して回復魔法を施す国王は必死。
リッチの発動した影縛りの術から素早く逃れることに成功した国王は指をパチンと鳴らす。軽快な音と共に100を越える複数の細い氷柱が死霊達の頭上に現れた。
国王が腕を振り下ろす合図と共に複数の氷柱が死霊やリッチに襲いかかる。
国王が圧勝すると思った矢先の出来事だった。
アヤヒナが見守る中でリッチの発動した魔法陣が国王の行く手を阻む。
四方八方を取り囲まれた国王に複数の闇属性攻撃魔法、漆黒に染まった槍が放たれた。
続けて影縛りの術が国王の足元に広がる大きな魔法陣から放たれて、槍に気を取られていた国王の体を縛り付ける。
見事などんでん返しである。




