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11話 転落

 アヤネの背後に迫ったドワーフは、ユタカの振るった剣が胴体を貫くことによってヒットポイントゲージが0になる。

 アヤヒナの発動した光のリングが遠距離で武器を構えるドワーフを攻撃。アヤネが範囲攻撃魔法業火を唱えてドワーフにとどめを刺す。


 ユタカの指示通りにとは行かないけれど、何とかレベル60のドワーフを1体ずつ倒すアヤヒナは激しく息を乱していた。

 全く気を抜くことが出来ない状況である。

 迫るドワーフは40レベルから63レベルまで。

 周囲を囲まれているため攻撃の手を休めることは出来ない。

 

 ユイトがドワーフに向かって防壁を張り巡らせる。

 複数のドワーフを防壁の中に閉じ込めると、瞬く間に防壁内を水が埋め尽くす。

 ユイトの発動したスキルによって窒息したドワーフは、たちまち砂となって消滅した。

 

「後50体だよ」

 ギルドカードを手に取ってクエストの進行状況を確認したユタカが声を上げる。

 疲労感に苛まれながらも、攻撃の手を休めることの出来ないアヤヒナは泣きたい気持ちを堪えつつ、目の前に迫ったドワーフを薙ぎ払う。

 

 ユタカは魔力を温存しているのか、属性を使った攻撃魔法を発動しない。

 慌ただしく動き回っているドワーフは既に陣形が崩れているのだろう。

 時にはドワーフ同士がぶつかり合い消滅する。


 アヤヒナの放った光のリングが中衛のドワーフに直撃する。

 

「会長! 後ろ」

 立て続けに攻撃魔法を放っていたアヤヒナは体力と共に魔力も激しく消耗していた。

 アヤネの叫び声に咄嗟に反応したものの、背後を振り向く前にドワーフの放った闇属性の攻撃魔法、槍を背中に受けたアヤヒナの体が大きく傾いた。

 背中に走った激痛に気を取られているためアヤヒナはドワーフが間近に迫っていることに気付かない。


「ユイトとアヤネは撤退して。私達もすぐに後を追うから」

 アヤヒナの腕を手にとって引き寄せる。同時にレベル63のドワーフに向かって剣を振るったユタカが身体のバランスを崩したため、アヤネが甲高い悲鳴を上げる。

 

「背後は崖ですよ!」

 東の森の洞窟内には所々、崖になっている場所がある。

 底は確認することが出来ないため川になっているのか、それとも岩山になっているのか分からない。

 副会長の言葉を耳にして、背後が崖になっていることに気付いたけれど時既に遅かった。

 恐怖心から身動きを取れずにいるアヤヒナの腕をつかんだままの状態でユタカは崖下に向かってまっ逆さまに落下する。

 

「ユイトとアヤネは逃げて! クエストは失敗だよ。アヤヒナは痛いから爪を立てないで血が出てしまうからね」

 どのような状況に陥っているのか分からないけれど、ユタカがアヤヒナに向かって注意を促している。

 悲鳴も上がらないところを見るとアヤヒナ会長は、パニック状態に陥っているのだろう。

 

「私達のことは心配しないで。大丈夫だから」

 最後にユタカが大声を出すことによってアヤネとユイトが表情を引き締める。


「洞窟の外で待ち合わせしようね。絶対だよ!」

 アヤネがユタカに向かって大声を出す。

 約束だよと言葉を続けたアヤネは戸惑っているユイトと共に素早く身を翻して、全速力で洞窟の中を駆け抜ける。

 

 迫り来るドワーフの群れを強引に薙ぎ払うユイトは、困ったように眉尻を下げる。

 助かるわけがない。助かったとしても、崖を這い上がれるわけがない。


「底の見えない崖から落ちて無事に生還出来るわけが無いですよ」

 弱音を吐くユイトは迫り来る60レベルのドワーフを真っ二つにしたところで、クエスト完了の文字が浮かび上がる。

 アヤネとユイトの身体が目映い光に包み込まれることによってレベルアップをした。


 


 ユタカの腕を力強く掴んだままの状態で目蓋を閉じていたアヤヒナの身体が目映い光に包み込まれる。

 恐怖心から泣きべそをかくアヤヒナはレベルアップをした事に気付くことが出来ないほど、気持ちに余裕がない。

 

「大丈夫。大丈夫だから泣かないでよ」

 困ったように眉尻を下げたユタカは、今にも泣き出してしまいそうなアヤヒナに泣かないでと声をかける。

 大丈夫だよと言葉を繰り返すユタカには何か策があるのだろうか。


「死にたくないよ。銀騎士になるためにお父さんに無理を言って学園に編入したのに、底の見えない崖の下に転落して遺体も見つけて貰えないなんて想像しただけでも……」

 男子生徒を演じているどころではない。

 声を作っている余裕もない。鼻を(すす)るアヤヒナの目には涙がたまっている。

 

「銀騎士団に所属することが夢なの?」

 ユタカの問いかけと共に、アヤヒナは奇妙な感覚を覚えて閉じていた目蓋を開く。

 まるで浮いているような感覚に見舞われて、周囲を見渡したアヤヒナの思考が停止する。


 きょとんとするアヤヒナは上手いこと思考が回らない状況の中で小さく頷いた。

「うん」

 顔を俯かせたアヤヒナの目から涙が頬を伝って流れ出る。

 ユタカは飛行術を使うことが出来たから急降下している最中でも余裕を見せていたのだろう。

 初めて宙を浮かぶ体験をしたアヤヒナは沢山の宝石や人の骨が散らばっている地面に釘付けになっている。 

 宝石を守るようにして巨大なアンデッド系モンスター、リッチが飛行術を使って空中をさ迷っている。

 リッチに気付かれてしまうと瞬く間に争いになるだろう。

 アヤヒナは激しい恐怖心に苛まれて息を呑む。

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