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1話 夢は銀騎士団特攻隊

 左右対称に並んだ建物を隔てるように、大通りが街の中心部を貫いている。

 人通りの激しい大通りから脇道にそれると、建物が日の光を遮るため辺りは途端に薄暗くなる。

 人気(ひとけ)の無くなった脇道を溢れでる涙を袖で何度も拭いながら足を進めている少女の姿があった。

 長い金色の髪の毛と金色の瞳が印象的な少女である。


 薄暗い通路には物取りを目的とした男達が(たむろ)する。

 みすぼらしい格好をした青年達である。

 涙で歪んだ視界に男達が映り込むと少女は素早く身を翻して、この場を立ち去ろうとした。

 しかし、素早く腰を上げた男達が少女に詰め寄ると瞬く間に周囲を取り囲む。


「何処へ連れこむ? 廃屋か?」

 恐ろしい相談を仲間に持ちかけた青年は20代前半か。

「そういやあ、近くにあったな。廃屋」

 少女の腕を掴みとり、身体を拘束した青年が淡々とした口調で呟いた。


 逃げ出さなければならない状況なのに、恐怖心に支配されて身動きをとることが出来ない。

 例え身動きをとることが出来たとしても男達に力ではかなわないだろう。

 

 少女の顔から瞬く間に血の気が引く。

 黙って連れていかれるわけにはいかないのは分かっている。

 隙をつく事は出来るだろうかと前向きに考えてみるものの、体が思うように動くかどうか。

 

「来い」

 強引に腕を引かれたため、意思とは関係なく前進してしまう。

 男達が背を向けた所、背後から力任せに襲い掛かってみようか。

 それとも急所を思い切り蹴りつけようか。

 考えてはみたものの、どう考えたって上手く行くようには思えない。


 

「痛い」

 随分とか細い声が出た。

 強く腕を握りしめられたため痛みを感じて訴えてみたものの男達は無反応。

 眉尻を下げてぐずりだした少女を煩いと怒鳴り付ける。

 袖を持ち上げて涙を拭う少女は人気のない脇道へ足を踏み入れたことを後悔する。


 人がいないのだから助けを求めることも出来ない。

 このまま大人しく、ついていくことも出来ない。

 でも、力では敵わない相手である。


 どうすれば良いのか分からず、腕を引かれるがまま足を進めていた少女の姿を偶々ではあるけれども、視界に入れて助けようと駆け寄る人物がいた。



「ちょっと! 何してんのよ」

 ピシッと男達を指さして大声を上げたのは、クリーム色の髪の毛が印象的な少女だった。

 プクッと頬を膨らませ男達の元へと歩み寄る。

 

「可哀想に。泣かせてんじゃないわよ!」

 すすり泣く少女の腕を掴み取り、強引に引き寄せると腕の中へと抱き込もうとする。

 しかし、すすり泣く少女の方が背が高い。

「しゃがんでもらってもいい?」

 声をかけた少女が、返事を待つこともなく力業ですすり泣いていた少女に腰を下ろさせた。


 どうやら抱え込む事を諦めてはいないようで突然、力業を受け地べたに座り込む形となった少女は状況を理解することが出来ずにいる。

 ポンポンと頭を撫でたかったのだろう。

 涙を流していた少女を落ち着かせるためにアヤネが笑顔で声をかけてみるものの、既に唖然としている少女の溢れででいたはずの涙は止まっていた。


「もう大丈夫よ」

 少女の顔を覗きこむと、目を見開き唖然とする少女の姿があり、首をかしげたアヤネが瞬きを繰り返す。


「言っておくけど私、銀騎士団特攻隊副隊長から魔術を教わっているから強いわよ」

 背負っていた杖を手にとって、男達に向かって構えをとる。

 王様に仕える騎士、銀騎士団から術を教わっていることを強調した少女に対して、瞬く間に周囲はざわめき立つ。

「は? 銀騎士団。彼らと知り合えるわけねぇだろ。嘘をつくにもバレねぇ嘘をつけよ」

 男達がありえねぇと口にする。


「しかも副隊長から術を教わったって……」

 呆れている男達の言葉通り、銀騎士団は精鋭部隊。えり抜きのすぐれた逸材が集まるため彼らの人気は高い。そのため、知り合えるどころか目にすることすら、なかなか叶わない人達であり、憧れを抱く者は数知れず。

 もしも、銀騎士団に術を教わった事が本当であれば今、目の前にいる少女はとてつもなく強いだろう。


「だったら、自分の目で確かめてみなさい」

 杖を構えたままニヤリと笑みを浮かべる少女は強気である。


 カンッと音を立てて大きな杖を地面に打ち付ける。

「焼きつくせ!」

 炎属性の魔法を発動。男達をちょっと脅すために周囲を炎で包み込むと、強ばった表情を浮かべた男達が焦り出す。

「は?」

 状況をのみ込むことが出来ずにポツリと声を漏らす。


 詠唱することもなく魔法を発動してしまった少女は確かに強そうである。

 顔を真っ青にして周囲を見渡した男達がじたばたとする。

 我先に逃げ出した。


「ばか! 押すな」

 仲間を突き飛ばした仕返しだろう。仲間に突き返されてふらついた男性が声をあげる。

 

「…………」

 仲間であるはずの男性は無言のままである。

 男達が逃げ出す姿を呆然と眺めていたツインテールの少女が、すすり泣いていた少女に声をかける。



「大丈夫? えっと、何ちゃんかな?」

 怯えているのだろう。

 真っ青な顔をしている少女を安堵させるようにポンポンと頭を撫でる。

 

「アヤヒナ……」

 ポツリと一言だけだったけれど少女が名前を口にした。


「私はアヤネ。宜しくね。おうちは何処? 帰宅する途中だった?」

 アヤネと名乗った少女が首を傾げて問いかける。

 もしも、帰宅途中であったのなら自宅まで送り届けよう。

 何処かへ行く途中だったのなら大通りまで案内すればいい。

 良かれと思って声をかけたアヤネが唖然とする。


「何か気にさわることを聞いちゃったかな?」

 自宅を聞いた途端、止まりかけていた涙が頬を伝って流れ出す。

 

「え……何で?」

 戸惑うアヤネに少女が声をかける。


「帰りたくない」

 本当に小さな声だった。

 ポツリと呟かれた言葉を耳にして、アヤネはあんぐりと口を開く。

「え? 何で?」

 疑問をそのまま口にしてしまったアヤネが口元を手で覆い隠す。

 もしも、アヤヒナにとって聞かれたくはない事情だったら……咄嗟にアヤネは考える。

「言いたくなかったら言わなくてもいいのよ」

 一度口に出してしまった言葉は訂正することは出来ないため、言葉を付け加える。




「お父さんと喧嘩をしてしまって大嫌いって言っちゃったの」

「大嫌いと言って家を飛び出してきちゃったの?」

 ぐずりだした少女に声をかけると

「うん」

 即答だった。

 自分のとった行動を後悔しているのだろう。


「じゃあ、お父さんに謝らなきゃいけないね。アヤヒナが家を飛び出したからお父さんは驚いたでしょうね。帰りを待っているかもしれない。もしかしたら、外に探しに出ているかもしれないよ」

 おうちに戻ろう?

 首を傾げて問いかけたアヤネの申し出に少女は無言のまま答えられずにいる。


「私もついていっていい?」

 首を縦にふりそうにない少女に続けて声をかける。

「一緒に来てくれるの?」

 素直に受け入れたようで首をかしげて問いかけられる。

 

「うん。一緒に行きましょう」

 少女の問いかけにホッと安堵し表情に笑みを浮かべたアヤネが頷いた。




 お父さん何か大嫌いっ!


 普段、日常生活の中で絶対に口にすることの無い言葉を吐き捨ててしまった。

 父の傷ついた表情を見て罪悪感に苛まれる。

 咄嗟に家を飛び出してきてしまったため、今更引き返して自宅へ戻ることも出来ない。

 ただ、泣くことしか出来なかった少女に手を差しのべたのは同じ年頃の女の子だった。

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