New Landscape!!
ほんとはこんな長くするつもりなかったんで、雑な部分が多々、誤字とか辻褄あってない部分あってもスルーしていただければと思います。特に最後らへん打ち切り漫画みたいな急展開になりますが許してください!
SFマニアの方には悪いんですが、設定は適当です。
時はX2600年。遠い遠い未来。
地球の資源はそこを尽きていた。
そこで宇宙に手を伸ばし、資源や新たな星の発見、そしてそこに降りたち調査すべく宇宙調査隊が作られた。
だが、地球外生命体との対峙により容易には資源を採取することはかなわなくなった。
地球外生命体の方も地球を我が物にしようと、侵略をはじめ、地球は資源採集どころではなくなり、今は防衛戦に力を入れている。
地球外生命体に交渉や話し合いなどは通じず、ただひたすら傲慢に攻撃をしてくるのだ。
とある大陸に防衛軍本部はある。そこはかつて日本と呼ばれていた小さな国があったとされる土地。
本部の戦闘特化アンドロイド開発部主任。マーシス博士は今日もせわしなく作業に取り掛かる。
「…………あーーー! なんでうまくいかないのですか!! フィアナの時はうまくいったのに!」
「マーシス博士―、フィアナがなに? なんか呼んだ?」
ツインテール銀髪の少女が不思議そうにマーシス博士に問いかける。
フィアナとは……コードhj2009 フィアナ。
最新の人格プログラム、感情アルゴリズムが搭載され、人間と同様の心を持っているといってもいいほどの感情がある。
処理能力も高く、全てにおいて超高性能。
バランス型としてはマーシス博士の最高傑作。
見た目は、15、6歳くらいの女の子。
異様なほどテンションが高く、マーシス博士の人格設定の調整がよくなかったらしい。
ちなみに、ぴちぴちの薄く白い短いワンピースは服装は博士の趣味らしい。
「フィアナ君! 近いうちに超大型戦闘宇宙船がこの地球に向かってくるとの観測を受けたんだよ!
そのために超超ちょーーーう戦闘に特化した機体を作らないとなんだよー!!」
「へー、それは大変ですねー」
マーシス博士の気など知らず素知らぬ顔で言うフィアナ。
「マーシス博士! お茶をお入れました!」
「おお、ありがとう。マッスル君」
屈強な男がピンクのエプロンを着て身の回りの家事をしている。
コードh1001 マッスル
マーシス博士がはじめて成功して完成した人格のあるアンドロイド。
戦闘能力、処理能力、記憶能力など、全体的に劣り、今では非戦闘要員で家事全般をやっている。
アンドロイドながらある意味、場のムードメーカー。
「マッスル君……これはお茶じゃないね……ガソリンだね…このどす黒さは…」
「え!! マジっすか!! すみません!!」
マッスルがお茶カップに入っている毒液を安全に処理をし、急いでちゃんとしたお茶をつくる。
その間、フィアナとマーシス博士はなにやら真剣な眼差しで話し込んでいる様子。
「じゃあ、ユウトに頼めばじゃないですか」
「……ユウト君…ねぇ…」
コードT.hj1997 ユウト
元は、普通の人間で男子高校2年生。
中2のとき、ある事故に合い瀕死のところをマーシス博士に拾われなんやかんやで体の6割を機械にされたサイボーグ。
類まれに見ないサイボーグであるため、定義としては特殊アンドロイド。
戦闘特化タイプとその頭の良さから地球外生命体との交戦で一度たりとも撤退せず、全て勝利に終わっている。
だが、いつからか彼は戦うことに消極的になっていた。
その理由はマーシス博士はうすうすと気づいている。
「彼は、周囲の期待が重圧になってプレッシャーは感じている。しばらくは休ませた方がいい」
「しばらくって、もう一年ですよ!! このままだと永遠にやりませんよ!」
フィアナの叱咤にマーシス博士は動じず答える。
「フィアナ君、君たちと違うところは、人間の子供らしいセンシティブなところがあるところだね」
「そんなの関係ありません! 勇気さえあれば向かうだけ! 簡単な事です! わたし、ちょっとユウトのとこいってきます!」
「いくって、この真昼間は彼まだ授業中じゃないの!」
「そんなの関係ありません!」
フィアナは自身に搭載されている能力を展開し、浮遊して、研究室の壁をすり抜けていった。
「はー…考えなしなところは誰に似たのか…ま、いいか」
「マーシス博士! お茶ができました!」
マッスルが今度こそはとはつらつとした声で言う。
「おお!! ありがとう!」
そのお茶カップには暖かいお茶がたしかにあった。
グツグツと泡をふかせながら、物凄い量の湯気がたっている。
……
「うん、火傷するね」
ーーーーーーーーーーーーーーー
高校二年生、休憩中。
授業はある。学校はある。
こんな時代でも学力が優先される。
いや、正確には学歴。
俺は、それがひどく退屈なことだと思った。
そんなことをしたら、おもしろいやつが地に埋もれるだろうって。
ふと、耳に入ってきたのはクラスの男子高校生3人組の会話。
「あ、UFOだ、」
「は、それが?」
「え、お前UFOなんかで喜んでんの?ガキか」
「ちげーよ! 昨日、ひいひいじいちゃんが、昔はUFOとか、テレビでめっちゃ特集してたらしいよ。UFOが地球侵略する映画とかもあったらしいよ」
「え!?マジで?」
そんな会話を盗み聞きしてふと思う。
そんなもので人気が出るなら、俺は過去に生まれたかったと。
人間は知りすぎた。進化しすぎて、逆に退化したものがある。
宇宙の隅で大人しくしていて、未知は未知のままでよかった。
……――ユウト! 久しぶり!――……
俺の電脳組織に不正アクセスし、勝手に上がり込んでる奴がいる。
そいつは窓ぎわの俺の席のすぐ左側の窓から顔を押し付け、のぞき見ている。
そいつは、一瞬消えたかと思うと俺のすぐ目の前に姿を現す。
それに対し、クラスのみんなは驚いてる。
すり抜けたことに驚いているのではない、なぜそこにアンドロイドがいるのかに驚いている。
「え、 なに……」
「あれ、マーシス博士の最高傑作ってニュースで紹介してた……」
俺は民衆の反応を無視し、フィアナを真顔でじっと見つめる。
「フィアナだよ! こんにッ」
ブチッ!!!!!
俺はフィアナの首をもぎとる。
何千本もの導線がパチパチと電流をもらす音が鳴る。
周囲の僅かなざわめきがあった。
「なにしにきた?」
冷たい口調で言う俺に臆することなく、フィアナは生首のまま淡々とつづけた。
「ユウト、いつ帰ってくんの?」
「…帰ってくる? なんのことだ?」
「そんなの、軍に帰ってくるのにきまってんじゃない! 軍のみんな、アンドロイドのみんな、一番はマーシス博士ががまってるよ!」
「……そんなの知るか」
俺は窓を開けてフィアナの頭と体を順に思いっきりぶん投げる。
「ちょ!! なにす」
太陽に向かって直線的に飛ぶ頭を見て思わず笑ってしまいそうになる。
でも、笑ってはダメだ。
俺はもう…人間ではないから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ユウトめ~!! わたしを宇宙まで吹っ飛ばすつもりで投げるなんて~、よっ!!!」
フィアナは頭と体を緊急停止させて空中で浮遊させる。
頭と体をなかば無理やりにくっつける。
そのまま飛行エンジンをブーストさせ、音速に近いスピードでマーシス博士の研究室めがけて突っ込む。
ドッガッシャ―――ン!!!!!!!!!!
「ただいま帰りました!!」
半壊した部屋を阿鼻叫喚と見るマーシス博士。
「フィアナ君……自重しなさい」
「はい!!」
――――――――――――――
マッスルにより8割がたは修繕された部屋でフィアナはマーシス博士にユウトの事を話していた。
「ユウト、なにがやなのよ、すんごくつよいのにもったいなすぎる!!」
「そうだね……」
マーシス博士は悄然とした面持ちになった。
フィアナはそれがどういった意味を持つのか全く考えていなかった。
ーーー
学校の帰り道。
暮色蒼然の街に、てんてんと千差万別の明かりが灯る。
昔は夕日というものがあったらしい。
どこか儚く、脆く、だが、美しく街や自然をオレンジ色に染めたという。
今は高層ビルや巨大施設が所せましと並ぶだけでとても単調な風景。
それはまるで今の俺を表しているようだった。
「わっ!!!」
唐突に肩を叩かれ、内心驚く。
後ろを振り返ると、俺の幼なじみのキョウヤがいた。
それにつられて歩いているのが、同じく幼なじみの女の子、リツ。
「キョウヤ、何やってんの、全然驚いてないじゃん!」
「昔からこいつは、あんまり動じねーからな……」
「おい。ふたりで勝手に話をすすめるな」
俺が低い声でそう言うと、2人は萎縮する。
俺達幼なじみの関係はいつもこうだった。
ふたりがワイワイとやったり、俺をからかったりすると、俺がそれを制御したり、突っ込んだり、怒ったり、ときに仲を取り持ったり……
「最近お前、ひとりで勝手に帰りやがってー、なにをそんな急いでるんだ? 軍の仕事は辞めたんだろ?」
「え! いつの間にやめたの!」
やめてなどいない。
やめるわけにはいかない。
それを声に出しては言わず、胸に留めておいた。
「……ねぇ、あのさ…おねがいが…あるんだけど…」
「え? なに? 急に?」
不思議そうに俺の顔をみるリツと、若干思案顔になりながらもこっちをじっと見るキョウヤ。
俺は自分でも驚くほどの事を考える。
それはーーー
「もう、俺とは関わらないでほしい…」
その言葉に二人は声を出さず目を見開く。
なにを期待しているのだろうか。
俺はつくずく自分勝手だと思った。
だが、リツが何かを言いかけた時、キョウヤは俺の期待した返答と真逆のことを言ってきた。
「わかった。もうお前とは関わらないよ」
「え!!?? ちょ!! キョウヤ!?」
淡々と告げるキョウヤ。口を小さく開けてその眼をじっと見つめる。
その目には曇りがない。動揺もない。本気で言ってるようだ。
「あ…あ、ありがとう…」
開いた口から出たのは無意識の一言。
リツは俺ら二人を交互に見て、慌てふためいている。
「え、なになに! もしかして、ふたりしてわたしにドッキリ? やめてよ~、そんなことしてもわたしのは、ハートは、つ、つかめな…いよ…」
リツも俺らの真剣さによる場の空気を察してかだんだんと勢いが弱くなる。
「いくよ、リツ」
「え! ちょ! ひっぱらないで!!」
キョウヤがリツの腕を無理やり引っ張って、俺を横切り通り過ぎる。
リツは俺の方を心配して声をかけてくれたが、無視してしまった。
俺は彼らが向かう反対方向をただただ見つめる。
オレンジ色の光。その光を一点に見つめる。
ハッとあたりを見回す。
すっかりあたりは暗くなり、夜になっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そのあとも、キョウヤとの関りは一切ない。
リツは少しだけ声をかけてくれたが、俺がいつまでも悄然と寡黙になっているのをみて以前よりあまり声を掛けなくなってきた。
わからない。
なぜこうもおれは不器用なのか。
俺は…半分以上が機械でできたサイボーグ。
アンドロイドの軍で最強クラスにいる機械。
機械だ。もう……人間には戻れない。
最初は地球外生命体の攻撃の余波に合い瀕死状態のところをマーシス博士のアンドロイド…フィアナに助けられた。
だが、一緒にいた父母は即死だったため現代の技術をフルに駆使しても蘇生なんて神の芸当は不可能だった。
最初は不自由を阻止するため体の一部が普通に稼働する機械なだけだった。成長もしたし、みんなと普通に暮らすことだってできた。
だが、地球外生命体の復讐心がつのり、俺は過剰に戦闘特化の改造をマーシス博士に頼んだ。
全ては、地球外生命体を駆逐するため。
しかし、それがどうだ。地球外生命体は尽きることなく、ましてはどんどん強くなってきている。
自分の愚かさを知った。無謀だ。愚昧だ。蒙昧だ。無能だ。
戦う意味がわからなくなった。このまま滅びを待つのが先決では…とそれこそ愚昧なことまで考えた。
それから久しぶりに学校にいった。2年ぶりくらいだろうか。
俺はものすごく驚いた。俺の学校は中高一貫校でクラスもさほど変わらない。
それがさらに増して、驚く。
みんな、背丈が高く、刻一刻と大人に近づいている。
俺は半分機械であり、成長もストップしてしまっている。
それがどんなに悲しいことなのかということに今更気づき、今更嘆き悲しむ。
俺よりも背の高い女子生徒もいれば、俺と同じくらいであったはずの人がはるかに背が高くなっていた。
なにより一番驚いたのは、幼馴染のリツとキョウヤ。
リツはこの前まではまだまだ子供の女の子だったのに、綺麗に髪を伸ばしてオシャレもしている。
キョウヤは明らかに背が高く、ガタイが少年ではなく大人の男の風格だった。
ふたりはなにもなかったように気さくに話かけてくれた。
それが痛烈に心に突き刺さり、同時に涙が目じりに溜まり、俺の心はその日を境に悲哀に満ちる。
こらえていた涙が一粒流れ出す。
その時はうまくごまかせた。というよりはうれしかった。まだ…俺を見てくれてるって…
でもーーー…
いつか置いてかれる。停滞したままの俺と先を歩き続けるみんな。
みんなの足にすがって迷惑かけるくらいなら…
それなら、せめてーー…その足で蹴られるほど嫌われて、俺は一人になった方がいい。
そしたら、また、戦う事ができる気がする。
意味なんていらない。煩わしい悩みもない。ただ無心に戦うだけーーーー…
壊れるまでずっと戦う機械人形に成り下がる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「キョウヤ! どういうこと!!」
リツは放課後、キョウヤに物凄い剣幕で問い詰めていた。
「いいから、お前は黙っていればいい。男同士の話だ」
「なによ!それ! せめてもう少し分かるように言ってくれない! じゃないとこうだよ!」
リツはキョウヤの頬を引っ張る。
「いったい! いたい! いたいから! やめ!」
その反応を見て、離すリツ。
それにさすがのキョウヤも臆して、少しばかり話し始める。
「ったく……あいつは……ユウトはなにもわかってないんだよ! 俺達のこともそうだけど自分自身の事も」
「……どういうこと?」
リツの理解していない顔を予測していたかのように、すぐさま答えるキョウヤ。
「あいつ、どこまでも不器用なんだよ。事故にあって、病院でも面会謝絶だったろ? それからよくわからないうちに機械になって、戦って、アンドロイドの中でトップクラスになって、それで急に戦うのをやめて、学校に来た。それからずっとテンション低いし、そしたらこの前の発言……あいつは確実にひとりになろうとしてる。それが無意識でも故意でも関係ねえ」
「……」
普段は滅多に見せない怒りをあらわにした形相で熱弁するキョウヤ。
その新鮮な姿にリツは無言で見入っていた。
キョウヤがただユウトの態度だけで怒ってはいないとこは容易にわかっていた。
ユウトがなぜあんなにかなしそうな顔をするのかもわかっていた。
キョウヤがユウトをひとりにさせないために頑張っていたのも知ってる。
それはキョウヤやわたしが……ユウトの事を一番よくわかってるから。
ユ ウトが寂しがり屋で怖がりで、そしてだれより優しい事。
いつからかそれを見失ったユウト。
あの事故以来からかな。
「あいつ自身に気づかせる。それしかない」
不意に声のボリュームを抑え、怒気なしで言うキョウヤ。
リツはその何気ない一言に込められた感情がキョウヤの顔に出ていた。
いつもと変わらない笑顔。
ただそれだけだ。
ーーーーーー
「マーシス博士。お久しぶりです。しばらくサボっていてすみません。また…戦います」
以前にもまして、無機質な声で言うユウトにその場にいるマーシス博士とフィアナ、マッスルはほぼ同時に目を見開く。
何の前触れもなく、久しぶりに研究所に赴いた彼の姿はなにも変わっていなかった。
そのせいでいつか壊れてしまわぬかと心配していたマーシス博士は顔を顰める。
それが、今確認できたのだ。
「ゆ、ユウト君…無理しなくていいんだよ…あの」
「マーシス博士! 失礼します!」
マーシス博士が何かを言いかけたとき、ユウトくんの背後の入り口から軍服を着た大男が闊歩して入ってきた。
その大男の名は、バレノル・ノーシス・レクサルド。防衛軍アンドロイド兵隊の司令官である要人だ。
「こ、これは、レクサルドさん…お久しぶりです…今日はどのようなご用事で?」
「それが……戦闘特化の新モデルの件についてなんですが、試験運用したところ少しばかり…いや正直に申しますとかなり不備だらけでしてね、マーシス博士には申し訳ないのですが、『話にならないレベル』 です。いったいどうされたんですか? あなたの作成する機体は第一次審査ですべて合格だった一級品だけあって驚きです」
あくまで物として、兵器として語るその大男にフィアナは顔を顰め、何かを言おうとしたがマーシス博士がそれを制止する。
「ご期待に沿えなくて申し訳ございません。すぐにかわりの…」
「ん? 君は…ユウトか? コードT.hj1997 ユウト」
レクサルドは学ラン姿の少年を凝視した。
それは何年か前までは無数の地球外生命体の兵器にチームの作戦や個人の奸計もなくただ無謀に飛び込み、だが全て破壊した無双兵器。
その勇猛さは元人間だけあって、恐れも諦観、倫理的思考もせずに無思慮に戦う。
だが、その無謀さこそ人間の本質でこれはそれに勝利したのだ。故に彼は人間に戻れなくなったのだ。
「ユウト、君は機械部の多大なる損傷によりスリープ状態だったとマーシス博士から聞いていたが、目覚めていたのか!!」
「…えと…彼はまだメンテナンス段階であり、戦闘は…」
「今日から復帰します」
無機質な低い声で、だがはっきりとユウトは答える。
その言葉を聞いた途端マーシス博士の思考回路が止まった。
そしてひとつの言葉が頭に浮かび上がる。
ああ、ユウトがまた戦ってくれる。わたしのアンドロイド達が傷つかなくて済む。
それは彼の考えを、悩みを無視した答え。
元々は彼がお願いしてきたこと、彼が戦いたいと言い出した。
それをよかれよかれと無遠慮に改造した。
なのに、自分で決めたことなのに…もう…この世界からは逃げられないんだよ。
「おお! そうか、ならば早速模擬訓練を開始する。久々で身体がなまっているだろ?」
「いいえ。なしで大丈夫です。人間じゃないんで」
「…そうか。さすがだな…だが、受けてもらう。こちらの都合もあるんでな」
「……はい」
その冷たい眼差しと声に人間の感情のセンシティブさが理解できないフィアナの目に映る。
こんなことは生まれて2年…一度もなかった。恐らくはか誤作動だ。
熱感知システムが反応する。
彼の体は全体を通してありえないほど冷たく凍えていた。
だが、その中心、心臓部にはまたもやありえないほどの強大な激熱を感知したのだ。
色認識の誤作動も発生した。それはオレンジ色の、太陽のような光だった。
フィアナは目を輝かせて満面に笑った。
ーーーーーーーーーーーーー
軍に戻ってから毎日のように戦った。
ただただ無心に…無心に…なにかを打ち消すように。
地球から半径1000万㎞内の領域に侵入してきた地球外生命体の
小型の宇宙船や兵器を撃退、または破壊するのが俺とその他アンドロイドの主な仕事。
ゆうなれば雑魚処理。
軍のやつらは観測や、第2の住居として確定した火星の最終調査に徹している。
破壊された兵器の破片を見るたびに心が空っぽになる感覚に苛まれる。
儚く、脆く、虚しい。
「最近はあまり調子がすぐれないようだが、どうしたんだ? 前ならもっと攻撃的だっただろうに」
「…いえ、雑魚あいてに本気を出すまでもないと…」
「ほう。傲慢になってきたな。だが、くれぐれも油断しないようにな。俺たちはみんなお前を一番に頼っている」
「…はい」
頼っている。頼られている。嬉しいはずなのに、うれしくないのはなぜだ。
防衛軍本部のアンドロイドエリアのエントランス。その端の窓で外の景色を眺め、休息時間をつぶしていた。
俺がいつものように悄然としていると、フィアナがいつものように話しかけてきた。
「ユウト、おつかれー!! 今日はそんなに忙しくなかったねー!!」
彼女の気さくを無視する。
「聞いて聞いて!! 今日、ギュウちゃんあたしの獲物横取りしたんだよ! あれは絶対高得点だったのにーー!」
全ての戦闘対応のアンドロイドは性格が戦闘好き、戦闘狂寄りにプログラムされている。
それにより戦闘におけるプロセスを円滑にする。実際無人格に対して倍以上の成果が出ている。
年々試行錯誤の末で複雑になっていき、アンドロイドには人間ににた個々の個々の人格が付いたという。
それに際して、ランキングというものがついて総合ポイントが高ポイントなほど上位に行く。
それでさらに意欲を高める。
それはまるで…いつかの人間のようだ、と、どこかの老人がいっていたような気がする。
ちなみに俺がそのランキングの一位。それもかなり長い時間その椅子に座している。それによりみんなが『追い越してやる。負けない』と闘争心を燃やしてさらに意欲を増している。
だが、俺が欲しかったのは、そんなものではない。すでに廃れた心がなおも欲しがる、いや取り戻したいものはーーー
「いいの?逃げてるだけで」
不意にフィアナが声のトーンを落として言った。
「逃げている? なんの話だ?」
あくまで冷静に答える。わからないふりをした。
だが、その言葉には若干の震えがあった。
「あなたの幼馴染。様子を見に行ったよ。そしたら普通に元気にしてたよ」
「…あっそ…てか、お前にはなんも関係ないだろ」
「うん、関係ないけど…彼らとも全然仲良くないけど…でもユウトとは仲良くやってほしいから」
「関係ないだろ!」
怒気をあらわにして大声を上げる俺に臆することなく、フィアナは続けた。
「幼馴染達、なんだかさみしそうだったよ。ふたりで帰ってて」
「世辞はいい」
「オレンジ色の光」
俺は目を見開いた。
「何千年か前に化学発展にともない高層ビルや巨大施設が急増。植物以外でも酸素供給は可能になり、自然も減少。周りはいつの日かモノトニ―な鉄鋼物や人工物だらけ。
それにより夕日をみる機会が少なくなっていた。でもこの前は物凄く久しぶりに巨大な夕日が出現したって、ニュースになってた。その巨大な光は建物が密集している都市でさえにも届いたって」
俺はそれを黙って聞いていた。それが一体なんなのだ。それでなに変わるわけではない。と以前の僕なら答えていた。
それが今は……今は、なんでこんなにも、泣きたい気持ちになるんだろう。
必死に涙をこらえている俺に優しい笑みで、穏やかに、だが力強い声で僕に言う。
「あなたがたとえ人間でなくても、マーシス博士やアンドロイドのみんな、それにわたしがいるってことを忘れないで。あなたは…ひとりじゃないよ。でも…それを一番わかっているのは…」
その言葉を聞いた瞬間、抑えていたものが決壊し、涙が滝のように溢れ出す。
まだ、機械ではないほうの片目からボロボロと。自分でもなんでこんなにあふれ出るのかわかっていた。
まだ…心をもっているから。人間である証拠をもっているから。
捨てきれずに、置いてあった心に目を背けていた。
だけど、今はそれをじっと見つめる。
廃れていたと思うようにしていた心は依然明るくオレンジ色の光を放つ。
俺は…俺は…なにがしたいのか…なにを望んでいるのか…そんなの!!
「ユウトの思い、届くと…いいね」
人間の如く涙が流れ出るかのように目を輝かせ、満面の笑みを向ける。
いや…もう人間だとかは心の中では案外どうでもいいことなのかもしれない。
俺はただ変わらないままで、ずっと、あいつらとずっと向き合っていきたい。あいつらが大人になって年をとって変化しようとも…
それでもこの心や気持ちは…きっと変わらないだろうから…
日が沈む暮色蒼然の街中。ないものねだりはもうやめだ。過去や後悔に縋るのも辞める。
俺は、今は、とりあえず、あいつらに謝りたい。
今はちょうど学校が終わった時間帯。
僕は歩き出す。
と、その時ーー
『全アンドロイドに緊急警報!! 緊急警報!! 半径100万㎞内に地球外生命体の巨大戦艦の侵入を許した!
宇宙空間のアンドロイド隊は敵の観測の遅延による奇襲により壊滅状態!! 戦闘アンドロイドは即座に戦闘態勢を整えよ!
それ以外は民間人の避難誘導を最優先!! 繰り返す! 全アンドロイド……』
エリア内に響き渡る緊急警報。
と同時にこの付近から爆発音が聞こえ、地震が起きる。
俺らアンドロイドは急いで外へと出た。
上空を見上げると地球外生命体による攻撃。それも高密度に凝縮されたエネルギーの砲弾を無数に地に向かって落ちてきている。今までに見たことのないタイプだ。
地球への侵入を許してしまったのは、100年ぶりくらいだろう。
ただちにエネルギー防壁を展開するアンドロイドと、それを上空で爆発させようと攻撃を試みるアンドロイドにわかれている。
俺は後者で兵器を展開し、攻撃をしたが、超高密度のエネルギーの前ではちり芥に等しく、すぐに力が吸収されてしまう。
司令部からの報告により、皆防壁に徹していた。
おそらくやつらはなんらかの手段で軍の観測による発見を免れている。
でもおかしい…上空から砲弾を打つばかりで一向に姿をあらわさない地球外生命体。
地球外生命体の技術なら100万㎞くらい2、3分かで着く。すでに10分ほどは経過している。
じゃあ、考えられるのは…陽動。もうすでに着いてるとしたら…!
突如、また爆発音とともに地震が発生する。だがそれは砲弾とは比べ物にならないほどの轟音。
そして、巨大な機械の巨人が街中に出現した。
あそこは…学校の方角!! キョウヤたちが!! 急いで向かわないと!!
いや、でもこの無数の砲弾は…ここにいるアンドロイドは防御に徹するのでで精一杯だ。
司令部も予測外の出現により、数分ばかり対応に遅れる…だがその数分でーー
「ユウト! いいよ、行って!! ここはわたしたちだけで充分だから!!」
俺の前に姿を現したフィアナが防壁を張りながら叫んだ。
「わたしたちはユウトばかりに点をとられるわけにはいかないからね!!」
フィアナの笑顔とともにみんなが俺の方を向いて、笑みを浮かべた。
「みんな……」
無数の砲弾がなおも降り注がれる中、小型の地球外生命体の兵器がこれまた無数に上空から新たに出現する。
「よーし! がんばるよー!」
フィアナたちが巨大な武器を構え、応戦する。
俺はそれを思案顔で一瞥して、巨大な機械巨人のもとへと急ぐ。
みんなを信じる!
ーーーーーーーーーーーー
キョウヤはその巨大な怪物がすぐ目の前に現れ、恐怖で絶句していた。
リツはキョウヤの背中にずっと隠れて怯えていた。
「な…なにあれ…地球外生命体? なの…あれ…」
「……」
キョウヤもなおも絶句する。
頭の中に浮かぶのは戦う前の普通の学生だったユウトの姿。
キョウヤはユウトの戦っているとこを見たことがなかった。ユウトがこんなやつらを相手にしていたなんて…
なにもわかっていなかったのは…俺たちのほう…だな…
キョウヤはただ無力に立ち尽くしている他なかった。
巨大な機械巨人はゆっくりと動き出す。それに巻き込まれて建物が無残に破壊される。
ただ動いただけで…積み木のようにバラバラに壊滅する街。
なすすべがない。
これが…絶対的強者。これが…絶望…俺は…楽観的すぎたのか。
死を覚悟し、キョウヤは目をつむる。
機械巨人が腕を大きく振りかぶり、鉄槌を下そうとしたその時ー
巨人の腕に眩い閃光が貫通し、腕がもげて地に落下する。
何が起きたのか……といつの間に尻餅をついて硬直していたキョウヤの前に機械兵器に身を纏う少年が目の前に悠々とあらわれた。
「お前たちは、俺が絶対守る!」
ーーーーーーーーー
巨人は傲岸不遜に自分の腕を吹き飛ばした俺を睥睨する。
地球外生命体が、人の姿をした兵器を作っているとは予想もしないが、同じ゛人間゛に殺されろとかいう皮肉か?
地球外生命体にもそんな嘲弄するような思考があるとは思えないが…人が人を殺すなんて絶対にありえない迅速にこの機械を破壊する!
「お、おい!! ユウト!!」
「ユウト!?」
後ろで座り込んでいたふたりが立ち上がり、俺の方へと駆け込んできた。
「一体…なにが…」
「話は後だ!! 俺がこのバカでかい機械兵器の気を引いているうちにはやく逃げろ!!」
僕の叱咤に二人は若干肩をすくめ、引くもキョウヤが大声で言った。
「お、お、お前は!! お前は大丈夫なのか!!」
心配そうな顔で必死に訴えるキョウヤに対し、俺は悠然と答える。
「俺……やっとわかったんだ、復讐以外の戦う理由…それはみんなを、お前たちを守る。そんな単純な理由でよかったんだ」
キョウヤは俺の言葉に目を見開いて驚いている様子。
そして…笑顔でこう言い返す。
「頼りにしてるぜ! 俺たちのヒーロー!」
キョウヤとリツが走り出す。
ーーーーーーーーーーーーー
しかしこの機械兵器…今までのやつとは常軌を逸している。
恐ろしくタフで弱点らしき箇所が見当たらない。
さっきは破壊した腕も秒単位で修復してくる。
アンドロイドや軍の兵器が到着するまで、ここで足止めしておくしかない。
と、突然ノイズが走る。これは、軍からの通信不能によるノイズだ。
通信がジャミングされてるのか。
だとしても…
…ー聞こえる!! ユウト!!-…
この声は、フィアナだ。
…ー今、敵のジャミングで通信不可能でそれでー…
それは知っている。といってもこちらからの返答はできないようだ。
フィアナは俺の電脳内に残っていた自分の残存データを今の自分と同期していたようで、実質俺の中にいるフィアナが話しかけているかんじだ。
…ーその巨大な機械巨人があなたのいるあたりから半径20㎞内に強力な電磁防壁を張っていて、軍からの応援部隊が入れない状態なの!!今そこにいるのはあなただけ! だ…か………ーー
フィアナの残存データからの声が聞こえなくなる。ジャミングにより、同期による通信も限界が来たようだ。
つまり中にいる俺だけで電磁防壁をなんとかするか、早急にこの機械を破壊するかーー…
いずれにしてもこの防壁内には取り残された人々がたくさんいる。おそらくさっき逃げていったキョウヤとリツもこの防壁内からでれていない。
なら俺がこいつの気を引き、防壁内の最端に誘導してかつ市民をこいつがいる場所の真逆の方向に避難誘導…
っっつ!!??
急に機械が巨躯を丸めて座り込んだ。
機械から強大なエネルギー源と激熱を感知。
これは……
こいつ、自爆するつもりか!!?
そこまで、そこまで、主のために…ってなにいってるんだ。こいつらはただの機械だ。人間の姿をしてようが兵器に変わりは…
あれ。それは、アンドロイドにもいえる事…
…… って、今は、今はそんなことどうでもいいだろ!
そうだとしても、理論的にそうだとしても、俺は…今はこいつの自爆を阻止して…みんなを守る! それだけだ! それが今俺が為すべきこと。
いや、やりたいことだ!!
自爆したら恐らくここ周辺も然り、大陸自体が粉々に砕けて間違いなく海に沈む。
自爆までの時間、予測、329秒=約5分。
それまでに、破壊…くっそ!!
やつは丸まったまま微動だにしていない。無謀に無策にひたすら攻撃すれば…
俺が最大出力でエネルギー弾を発射すると、機械にはあたらず付近で爆発した。
…奴の周りにも強力な電磁防壁が張られてる。なんとも用意周到なこったな…
だが、逆に考えれば、自爆準備している間は攻撃されたら困るっていう事だ。
…考えてる時間がもったいない! 無謀に無策に攻撃する!命を顧みなかった昔の俺みたいに…!
ーーーーーーーーーーーーーーー
キョウヤは立ち止まる。
やっぱり…それでも…と懊悩としていた。
「きょ、キョウヤ…?」
わたしの声を聞き流すほど黙々と考えふける。
そして、出た答え。
「リツ! お前は先に行け!! 俺は少し忘れものだ!!」
「忘れ物って!! あんた、そんなこと言ってる場合じゃ!!」
わたしはキョウヤの目を見た。その曇りなき目をみた瞬間に理解した。
ユウトが機械だろうが強かろうがなんであろうが、ユウトはキョウヤにとって大切な人。
キョウヤがあの巨人から見れば、埃にすらない弱者だろうが、ふたりの心を断ち切ることはできない。
彼の背中を呆然と見ていると、昔の事を思い出す。
まだ、ユウトが泣き虫で、いじめられっ子で、ドジで、たくさんケガをしていたこと。
そのたびにいつもキョウヤが助けたり、慰めたりしていた。
いじめっこからも守ってくれていた。
ときに、ユウトは不器用でおさえられない感情を他に当てようとした。
それをいつも止めていたのは、キョウヤだ。
わたしはそんな彼らをずっとみてきた。
それは、今だって言える事。
だって、彼は…キョウヤはユウトの幼馴染で親友。それにはなにも変わりはないでしょう!
わたしはキョウヤに向かい思いっきり叫ぶ。
「終わったら!! 3人で一緒に帰ろう!!」
キョウヤが右手をグーサインにして、それを真上に掲げた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ダメだ!! 何度攻撃をしようが機械に纏う防壁を破壊することは無理だ!
こうなったら…
自爆までの予測、残り238秒。役4分。
俺は防壁に頭から突っ込む。
この防壁はエネルギーの中枢部分から血液のように循環し、形成を保っている。
防壁のエネルギー中枢に俺のエネルギーを最大限まで流し込み、エネルギー超過で形成維持ができなくなってそのまま自壊させる。
外の防壁のような規模がでかすぎるものならまだしも、このサイズの防壁なら…!
「グッっっ!!!!!」
防壁が拒絶反応をおこし、体中に衝撃が走る。
機械部分に亀裂が走り、ボロボロと砕け散る。
まだ人間である生身の部分は衝撃が入らないようにしていたが、衝撃は無理やりにでも突き破り、激痛が走る。
だが、もはやそんなことを気にしている場合じゃない!
ここで俺が止めないと!! たくさんの人たちが犠牲になってしまう!!
俺が完全に人間でなくなっても、俺が俺でなくなったっても…
俺が……消えたって…
「ユウウウウトオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
叫ぶ声が聞こえた。
それは、枯果てるほどの力強い心からの必死な叫び。その声が誰なのかは一瞬でわかった。
キョウヤが荒廃と化した瓦礫の上を息を荒げながら立っていた。
「キョウヤ!! なんで!!?」
俺は壊れた体で必死に叫んだ。
その壊れた体を今までにない以上に驚愕した顔を見せて、歯ぎしりして、再び叫んだ。
「お前!! やっぱりなんもわかってねえ!!」
キョウヤが防壁にむかって走った。
「バカ!! お前!!」
足場が悪く数回転ぶが、それでも防壁に向かって走る。
人間がこの電磁防壁に触れれば、ただではすまない!!
下手をすれば死ぬ!
「やめろ!! お前死にたいのか!!」
「お前が言うな!!」
俺の叫びを上回るほどの必死の叫びで反論してきた。
ところかまわず、防壁に触れるとキョウヤは悲痛の叫びをあげた。
「ぐあああああああ!!」
「バカバカバカ!!!!! 今すぐ離れろ!!」
「は…なれね…えよ…」
消え入りそうな小さな声で、だが俺の耳にはたしかに届いていた。
「俺は!! 俺はっ!! お前がどうなろうとも! 生きてるだけで十分なんだ!!そこにいてくれるだけで!! なのにお前はいつも自分で勝手に決めやがって!!」
怒気をあらわにし、叱責する。
彼に怒られたのは何年ぶりだろうか。
小学校の頃、ひどいいじめにあった。
キョウヤやリツとはクラスが違ったため、クラス内で助けてくれる奴なんてひとりもいなかった。
ついに我慢の限界がきて、俺は家を飛び出して、独り街中を彷徨って、茫然自失に彷徨っていた。
それは現実逃避だった。だが、死ぬにはまだ足りず、暗い夜道にうずくまっていたところを警察に保護された。
俺は心配されたかった。俺を認めてくれる存在証明が存分に、いじめを忘れさせてくれるような承認欲を満たしたかったのだ。
親やその親戚や近所の人、それにリツは泣きわめいて、心配してくれた。
だが、キョウヤは違った。
キョウヤは僕の胸倉をつかむと、一言。『バカ野郎!!』といって、吹っ飛ばすように突き放して、そのまま背中を向けて家に帰っていった。
次の日。何事もなかったように気さくに話しかけてきた。
しかし、その日以降授業中以外は俺のクラスに図々しいほどに来て、いつ何時もきにかけるようになった。
俺がいじめっ子に話しかけられると、キョウヤはそいつらを鬼のような形相で睥睨する。
義侠心あるガキ大将的存在だった彼にいじめっ子たちもだんだん手を出さなくなっていた。
いつも守ってくれていたのはキョウヤだ。キョウヤがいてくれたから俺は今生きてる。
そう…今だって。
「やめろ! 俺がなんとかするから! お前は離れろ!」
「じゃあ! お前も離れろ!!」
「そういうわけにはいかない!! 俺はこいつを破壊しないと!!」
「冷静に考えろ!! その前にお前が死ぬんだよ!!」
その言葉で自分の体の状況を把握した。
機械身体は表面の装甲がすでに剥がれ落ち、内部が露出していた。
生身の部分は壊死寸前…それでも…!
「それでも、なんとかしないと!! 俺が!!」
「ひとりで背負い込むな!! お前が死ななくていい方法がある! 必ず!!」
さっきと同じ叱責のはずなのに、その言葉は物凄く優しく感じられた。
「……」
「手を…離せ!ッ!!」
俺は手をはなした。と同時にキョウヤが手を離し、倒れこむ。
「キョウヤ!!」
キョウヤは全身に痣のようなものができていて重傷だ。
自爆まであと、190秒ほど。
一体…どうしろって…
何秒かたった直後、突然通信のノイズが止み、無機質な声が聞こえてきた。
『コードT.hj1997 ユウト。聞こえていたら応答せよ』
!!?
「…き、聞こえている!!!」
必死の返答に即座にオペレーターは、状況説明をした。
『敵の強力なジャミングにより、さきほどまで、通信不可状態にあった。だが、コードhj2009機体が、ジャミングを発生している兵器を捜索した功績により、見事発見、そして即座の破壊に成功。
妨害電波を発生させていたのは、超小型機体で捜索は困難を極めた』
コードhj2009機体は、フィアナだ。
ありがたいけど……いまは…
「そこの部分はいい! この巨大な機械が今、自爆しようとしている! 自爆までの時間残り、推定!160秒! 推定被害、ここら辺の大陸圏の全壊! 早急の対応を求む!!」
俺が一方的に話すと、オペレーターは少し沈黙になり再び話し始めた。
『状況は把握している。今、防衛軍総司令官に報告し、対策の実行をし……』
「それじゃ! 間に合わないんだよ!」
柄にもない怒気を声に込めて、発した。
オペレーターは、ひるんだのか沈黙になってしまった。
こういう時に限って、上の人間はつかえない…
と思っていたらオペレーターの無機質な声から聴き覚えのある朗らかな声が聞こえた。
『ユウトくん! 聞こえるかい! わたしだよ!』
「……! マーシス博士!」
マーシス博士の声の後ろで、わずかにオペレーターの反論する声がきこえたが、ところかまわずマイクを奪っているようだ。
『今から君にデータを送る!そしてそのデータに同期して!そのデータ通りにやれば、機械巨人も止められる!もう時間が無い!早速だけどおくるよ!』
『ちょっとマーシス博士! 勝手に! 総司令官の指示…』
マーシス博士の説明に今出せる精一杯の声で答えた。
「はい!!!」
俺の声に安心したのか、わずかばかりに震えながらも声を漏らす。
「君を、信じる」
ーーーーーー
データの同期完了。
マーシス博士の送られたデータ。それはー
エネルギーの収束砲
データとともに送られた巨大な銃。
この銃に、莫大なエネルギーを一点に集中させ、機械巨人の心臓部めがけて放出する。
その莫大なエネルギーは、この巨大な電磁防壁を利用する。
この防壁をエネルギーに変換させるシステムも同期してわかっている。
すぐさま近くの防壁に向かい、銃をかついで、エネルギー変換システムを作動する。
しかしこれ…正常な機体ならまだしも、こんなボロボロの機体では負荷が倍くらいだ。
体が今にも壊れそう……意識を失いそうだ……それでも、理性に抵抗する。
この巨人は絶対に倒す!
『自爆まで、残り100秒。』
『エネルギー充填40パーセント。』
ふたつが同時に電脳内で報告された。
だめだ……このままでは……間に合わない!
エネルギー変換システムを二重展開させた。
すると、さらにスピードは倍以上になったが、それに伴い、負荷も倍以上になる。
このままじゃ……俺が…死んでしまう……
でも、やめたら……とんでもない大被害に……
「ユウト、冷や汗すごいよ、少し落ち着いて」
横から誰かが話しかけてきて、僕の手の甲に手を添えた。
その優しい声は……リツだ。
冷や汗なんてあるはずのない機械部の手に温かい彼女の手が。
「リツ……なんで……」
「ユウトたち待っても全然来ないから様子見に来ちゃった!」
この状況下で淡々とさぞ当たり前のように彼女は言った。
「大丈夫! みんな助かる! 3人でまた帰れるからさ。ユウトも笑って」
リツの要望に俺は不思議と素直になり、こわばっていた顔を無理にひきつらせた。
「ぶっ! ははは!」
彼女は場の状況を無視して、高らかに笑う。
リツの声を、笑い声を、そしてその満面の笑みを見ていたら心を支配していた不安や焦燥が一気にとけた。
「リツ……ありがとう……」
わずかに涙声で言う俺を見てか、彼女は顔を顰めてひとつぶ涙を零した。
俺はひとりじゃない。
それは誰よりも俺自身がわかっていたことなのに、目の前のことに盲目的になって考えていなかった。
だけど、今なら…ものすごくそれがわかる。
みんなが最高だって言える未来のために!
俺は……この心で今を守る!
『自爆まで、推定時間残り11秒。』
と同時にーーー……
『エネルギー充填100パーセント。充填完了。
エネルギー一点収束システムを展開。
エネルギー一点収束砲武装を展開。』
全出力1点放出まで、10,9,8……。
巨大銃が複雑に変形を重ね、さらに巨大な銃になった。
いや、それはもはや巨大な大砲だろうか。
俺に出来ることは後は祈るだけだ。
神様というものを崇め奉っていたという記録が昔あったらしいが、存在不明のものに縋り、祈り、なんの意味があるのかと思っていたが……
今はそれがわかる気がする。
おそらくあっちの自爆とこっちの放出は0.1秒単位の僅差だ。
それがこっち放出の方が早くなれと、どこかのしらない神様に祈る。
リツの顔を見た。
リツは顔こそ平常を保っていたが、体を震わせ、明らかに怯えている。
その手をギュッと掴んだ。
彼女は俺に気づいて、目が合う。
なぜだかわからないが、それが口元が引き攣り思わず笑みをこぼす。
彼女も自然と笑っていた。
そしてーーー
――エネルギー一点収束完了。エネルギー収束砲発射。
青白い眩い光とともにエネルギーの束が、ゼロ距離から機械巨人に発射された。
その強大な力に地が揺れて、転びそうになる。
そして、機械巨人の防壁を突き破り、巨人の体を穿つ。
エネルギー収束砲は、巨人の体を貫くと、そのまま電磁防壁さえも突き破り、天の彼方までもに放出された。
その巨人は穿った直後に人間の声に似た爆音を発し、たおれこんだ。
その声はどこか悲痛のような叫びに聞こえたのは……気のせいだろうか。
俺は立ち尽くす。
その瞬間感じていたのは、絶望でもなく、諦観でもなく、ましてや喜びではない。
安堵感と疲労感。このふたつが相克としていたが、後者が勝り、リツの手を離して俺は倒れ込んだ。
リツの叫び声や、軍からの通信も耳に入らず、その日の夕焼け空を見ることもかなわず……
――――――
あれから数ヶ月がたった。
キョウヤは1ヵ月たらずで退院し、今はリツと一緒に元気に学校に行っている。
マーシス博士は、相も変わらず多忙を極め、俺はそのお手伝いを時々している。
フィアナはあれからなにか変わったようで、変わっていないような……でもこころなしか少し世話上手になった気がして、アンドロイド達のリーダー的存在になりつつある。
軍のやつらは一件の被害に対する責任の対処と、今後の見通しとかでなんだかめんどくさそうだ。以前にも増して、アンドロイドは道具のように雑用されている。
かくいう俺はマーシス博士直々の機体の修復&メンテナンスが終了し、普通に学校に行っている。
そもそも俺は学校に行く必要があまりないのだが、マーシス博士に『青春大事!』と説得させられて、行っている。
でも、学校ってのも案外悪くないような気がしてさ。
学校の帰り道。
「よっ! ユウト! 一緒に帰ろーぜ!」
元気になったキョウヤだ。
「ちょっと! ドッキリは!」
そして最近化粧を始めたリツ。
「なんだよ。お前ら」
「なんだよ。ってなんだよ! 今日はユウトも仕事休みだし、久しぶりに3人で帰ろっかなーってさ」
「もうちょっと喜んでよ! わたしなんか今日レイナちゃんにメイク術教えてもらおうと思ってたのキャンセルしたんだよ」
「いや、知らねーよ」
いつもの他愛もないなんの特別性も感じない話。
ふと空を見上げた。そこにうつっていたのは。
オレンジ色の空。
「あ! また夕焼けだ! 今年はなんか特別なのかな!」
リツが叫んだ。
初めてオレンジ色の空を見上げた。その光景に息をのむ。
地球にもまだ、絶景というものが残っていたのか。
その空はまるで心があるのではと疑いたくなるほど生き生きとしている。
俺は今を生きるものとして……この世界は最高だったって言えるように前を向いて、ちゃんと向き合って生きていこうと思う。
そしたらこのオレンジ色の空がまた俺らを照らしてくれるような…
そんな……気がするんだ……
ほら、新しい景色が見えた。
最後まで読んだか、飛ばしたかはわかりませんがとりあえずありがとうございました。
設定が某ゲームみたいと思われる人がいましたら、オマージュだと思ってください……