走る馬から弓を射るのは難しいんじゃないかな・・・
とある作品の中で、次のような描写がありました。
走る馬から地上の標的を弓で射るのと、地上の者が馬に乗った標的を狙うのでは、前者の方が容易だと。
ちょっとおかしいと感じ、感想にて指摘させて頂きましたが、私の言葉が足りなかったのか、修正には応じて頂けませんでした。
本筋とは関係のない話でしたので、どうでも良かったのですけどね。
以後、どの様な説明をすればよかったのかなと思い返す事が度々あり、心中の整理を込めて書きたいと思います。
一度形にしないと、いつまでもグチグチと考えてしまう性格なのです、すみません。
私は自衛隊にいた事があり、64式小銃を何度か撃った事があります。
射撃姿勢は二つでした。
うつ伏せに寝て、両肘をついて上体だけ起こして撃つ物が一つです。
もう一つは、体育座りの様な感じですが、片足は正座の様に折り曲げて座る姿勢です。
最も大きな違いは、前者は肘を左右ともに地面につける事が出来る事です。
後者は、片方の肘は片膝につける事ができますが、もう片方は空中で銃を維持せねばなりません。
さて、どちらが良く当たるでしょう?
まあ、一般的に言って前者です。
銃を肘で固定出来るのですから当然です。
座って撃つと、狙いが定まらないので大変ですよ。
立ったままだとまず当たらないでしょうね。
体の動きを止められたらいいのですが、それはほぼ不可能です。
銃を固定出来ないと、狙いは常にフラフラとしてしまうのです。
それが移動しながらとなると、一体どうなるでしょう?
実験をして考えてみましょうか。
今、皆さんはパソコンの前にいるか、スマホを触っているかでしょう。
部屋で椅子に座られている方は、片方の手をまっすぐに伸ばし、人差し指で部屋の何か遠くの一点を指さし、片目を閉じて狙いを定める様な姿勢を取ってみて頂けませんか?
そして、狙いを定めたまま、立ち上がってみて下さい。
狙いはどうなりましたか?
逸れませんでしたか?
立つくらいでそれなのです。
それが走りでもしたら、どうなるでしょう?
狙いを定める事自体が無理です。
映画でもよくあるシーンだと思いますが、走りながら拳銃を撃っても当たりません。
狙いをつける時は足を止め、呼吸すら止めて撃っていませんか?
何が問題かというと、揺れです。
揺れるから狙いも定まらないし、撃っても当たらないのです。
高速で動く物体は、揺れも速度に比例する様に大きくなります。
歩きながらならスマホは出来ても、走りながらは無理ではないですか?
視線がぶれるだけの、たったそれだけの事なのですが、影響は大です。
ましてや、馬の揺れはもっと大きいかと思います。
まあ、乗った事はないので想像ですが・・・
揺れの何が問題かというと、手元のズレが目標地点で大きくなる事です。
例えば、真正面の的に狙いを定めたとします。
的までは100メートルです。
単純化する為、重力による影響は無いものとします。
もし、狙いが左に1度だけズレたとします。
手元1度のズレって、人間には認識出来ないレベルですよ。
分度器をお持ちでしたら、1度というのがどれくらいか実感してみて下さい。
お持ちでない方には、そうですね、今このエッセイで表現すると、モニターまでの距離が1メートルだと仮定するならば、僅か4文字分(約2センチ)で1度のズレです。
計算式としては、角度θが非常に小さい場合、Lメートル先でのズレdは、d=L×sinθです。
sin1度は0.0175ですので、1メートル先では1.7センチのズレとなります。
では、100メートル先ではどうなるでしょうか?
100×0.0175ですので、1.7メートルの違いです。
人間には認識出来ない僅かなズレで、100メートル先では約2メートルも違うのです。
逆に、完全に固定された状態で揺れる的を狙ったらどうなるでしょう?
手元が1度ズレるだけで的から2メートルも離れてしまうのに、的が上下左右に少々動いた所で中心を外すくらいです。
以上から、走る馬、つまり揺れる馬から弓を射って、まともに的に当たるとは思えません。
ただ、弓兵部隊の運営上、狙いを定められない事は問題ではない事は言っておきます。
正確に狙う事が出来なくても、面で制圧すれば良いだけですから。
また、相手が密集していれば、適当に射っても当たるでしょうし。
ですので、馬から射る方が容易というのは、私が気になっただけであります。
そんな感じです。
チラシの裏にでも書いておけという考えもありますが、折角書いたので。