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ねえ。幽霊ってどうして恐怖の対象なんだろうね?

「ねえ。幽霊ってどうして恐怖の対象なんだろうね?」


 休日。映画館近くのファーストフード。

 僕は目の前でハンバーガーを頬張る同級生の女子に唐突に質問された。


 僕のほうから映画でも観ないかと誘った。理由はあまり霊感少女が映画館に行ったことがないと話したからだ。それじゃあ行こうよという話になったのだ。

 ジャンルは霊感少女が好きだと言っていた恋愛物だった。あまりそういうのを観ない僕だけど、なかなか楽しめた。

 思春期真っ只中の少年少女の甘酸っぱい恋愛映画。映画館を出た後も霊感少女はその余韻に浸っているみたいだった。


 しばらく映画の話題で盛り上がったのだが、隣に居た大学生らしい三人の女性グループが別の映画の話をしていた。

 それは和風のホラー映画だった。

 僕も気になっていたのだが、霊感少女に薦めるのもどうかと思っていた。

 その女性グループが居なくなって、それから霊感少女は僕に質問をしてきた。


「うーん、そうだね。対応できないからじゃないか?」

「対応って、どういう意味?」

「だって、幽霊って殴れないし話もできないじゃない」


 僕の言葉に霊感少女は納得したように頷いた。


「まあ私も触れないし話せないけどね」

「そうなのか? 幽霊に触れるとは思えなかったけど、会話できるのかと思ってた」


 僕はコーラをストローで飲むと霊感少女は「霊感があってもできないことぐらいあるよ」と極めて当たり前のことを言った。


「なるほどね。対処できないから怖いのかな。それでもヤクザとかもそうじゃない」


 高校生の会話にヤクザとか出さないでほしい。しかしもっともなことだと思った。


「でもさ、ヤクザだったら土下座でもお金を差し出したりすればなんとかなるじゃん」

「うんうん。それもそうだね」

「だけど幽霊は話を聞こうとしないかもしれないし、謝ってもお金を出しても逃れられないじゃない」


 霊感少女はハンバーガーをぺろりと食べ終えた。その後二個目に取りかかる。小柄な身体に見合わず、なかなかの健啖家だった。


「他にも理由があるのかもしれないから、一緒に考えてよ」


 そう言われたら考えざるを得ない。僕はしばらく考えて、それから言った。


「幽霊って死の象徴だろう? 自分がそうなるかもしれないと思わせるから怖いんじゃないか?」


 霊感少女は「どういう意味?」とハンバーガーを一口齧る。


「幽霊は未来の人間の姿、分かりやすく言うのなら、自分がそうなるものだという姿そのものだと思う。自分の末路に対する人間が備えている潜在的な恐怖を具現化したものだから怖いんだ」


 そして言葉を切って、それから話を続けた。


「後は血が苦手な人が血まみれの幽霊を見たら怖いと思うし、今にも死にそうな人間だって怖いと思うだろう? 幽霊はそれらのイメージを持っているから怖いんじゃないか?」


 僕の説に霊感少女は「面白い話だね」と興味深そうに答えた。


「幽霊は自分の死を連想させるから怖いんだね。そんな考えはあまり思いつかなかったよ」


 霊感少女に手放しに褒められて、少しだけ嬉しかった。


「それほどでもないよ」

「私が思っていたのは共通した恐怖だからだと思ってた」


 うん? よく分からない言説だった。


「人間が根底にというか根本的に思っている恐怖の対象を映像化したものだから、恐怖を駆り立てると思い込んでいたんだよ」

「あー、幽霊だから怖いんじゃなくて、恐怖そのものを表しているから幽霊が怖いのか。卵が先か鶏が先かみたいな話だな」


 僕がまとめると霊感少女はにっこりと微笑んだ。


「そうだよ。君はまとめるのが上手いね」


 そう言って二個目のハンバーガーを食べ始めた。


「ところで君はホラー映画を観るのかい?」


 そう訊くと霊感少女は首を振った。


「あはは。普段から幽霊を見ているのに、わざわざお金を払って観たりしないよ」


 それもそうだと思った。可哀想だとも思った。

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