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ねえ。幽霊って本当に居ると思う?

「ねえ。幽霊って本当に居ると思う?」


 放課後。とある喫茶店。

 僕は目の前に居る同級生の女子に唐突な質問をされた。


「そんな質問しなくても、君には分かっているじゃない」


 僕は紅茶を啜りつつそう返した。

 だって、目の前に居る女子はクラスどころか僕たちが通う高校で有名な霊感少女だったからだ。

 そんな彼女に「幽霊って本当に居ると思う?」なんて質問は愚問にしかならない。

 高校生が「大学受験って本当にあるの?」って言っているようなもの――いや喩えが上手くないな。 

 とにかく、僕は一笑に付すような愚問をされたわけだ。


「私は君がどう思っているのかが聞きたいの」


 霊感少女はしつこく訊ねてくる。

 僕は「君のように見た人がいるのだから居るんじゃないのかな」と当たり障りのない答えを提示した。


「うーん、そういう答えは望んでいないけど、まあいいかな」


 そう言って霊感少女はコーヒーを口にした。コーヒーを飲めない僕からしてみれば、どうしてそんなに苦いものを口にできるのか疑問に思う。


「じゃあ質問を変えるよ。幽霊はいつまで居るのかな?」


 質問の意味も意図も分からなかった。

 僕は「それってどういう意味かな?」と訊ね返した。


「そのままだよ。幽霊っておかしな表現だけど、居なくなるんだよ」


 霊感少女はけらけら鈴を転がすような笑いをした。


「元々居ないものが居なくなる? ちょっと何を言っているのか分からないな」


 僕が不思議に思って言うと霊感少女は「そのままの意味だよ」と答えた。


「そうだね。たとえば――君が座っている席の隣に、いつもなら幽霊が居たんだ」

「……はあ!?」


 僕は驚いて立ち上がり隣を見る。もちろん霊感のない僕はそこが空席にしか見えないけど。ああ、だから珍しく喫茶店に行こうだとか席はここがいいとか言ってたんだと思うとゾッとする。


「だから居ないんだって。消えてしまったんだ」


 霊感少女が繰り返し言っても落ち着かない。僕は恐る恐る席に着いた。


「私はいつも思うんだ。どうして幽霊って居なくなるのかな?」


 心底不思議そうな顔で言う霊感少女。僕は冷静になるように自分を制御してから話し出す。


「未練とかが無くなってしまったからだと思うけど」


 自分で言ってて説得力がないなあと思ってしまう。未練? なにそれ。


「未練なんてものが無くなるなんてありえないよ。生きている間に解決できなかったことが死んでから晴れるなんてありえない」


 霊感少女らしくない発言だったけど、それでもどこか納得してしまう言葉だった。


「私が思うに、幽霊はみんな現世に縛られているんだよ」


 よく分からない言説だった。


「幽霊は現世に縛られていて、それで自縛霊だとか浮遊霊とかになっちゃうんだ。でも理由は分からないけどだんだんと無くなっていっちゃうんだ」


 幽霊が無くなる。そんな体験をしたことがないからいまいちピンとこなかったが、霊感少女ならでは説に僕はどこか納得をしてしまった。


「だからみんな死んでから幽霊になって、それから無くなっていくんだよ。個人差はあるけど」


 そう言って霊感少女はコーヒーを飲み干した。


「世界には七十億人の人間が居るけど、それら全部幽霊になって無くなってしまうんだ」


 そして僕に悲しそうに笑いかけて、こんなことを言った。


「私たちもその中の一人なんだよ」


 その言葉が耳に残って離れなかった。

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