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ウラガエシの真実

作者: 最灯七日

設定的に小中学校くらいのお話。

もしかしたら、そんな青春があったという人もいるかもしれない(私はさすがに遠慮したいが)。




 男の子が特定の女の子をいじめるのは、愛情の裏返し。

 つまり好きだから、構ってほしくていじめているのだ。


 と、色んな誰かが言っていたから。

 多分それが事実なんだろうと思ってた。


「うわ、こいつ本当に馬鹿だな」

 クラスのガキ大将君が私を指差しながらあざ笑う。

 ガキ大将君は、よく私をそうやってみんなの前で馬鹿にしたり、持ち物を隠したりする悪戯を仕掛けたりする。たまに叩かれたり蹴られたりもするが、幸い怪我には至ったことはない。


 ガキ大将君は、他の人に対してそういう事をしない。

 私にだけ嫌がらせをする。

 他の人たちは、私に対してそういう事をしない。

 かといっても誰も味方もしてくれないし、そもそも私にはこのクラスに友達がいない。


 今日も、挨拶代わりに髪の毛引っ張られ、私を笑いものに仕立てようとして、先生に怒られて、私に逆ギレで怒鳴ってた。


 それが日常。


 最初は嫌で嫌で仕方なかったけど、「男の子は好きな子をいじめるものだ」と言う話を知ってから、そうじゃないかと思えた。

 だって、あの人私以外の人はいじめない。暴言も行きすぎた悪戯のターゲットも全部私。

 一度だけ「どうして私をいじめるの?」と言い返したことあるけど、「そんなのどうでもいいだろ」とはぐらかした。

 だから確信した。

 ガキ大将君は私の事が好きなのだと。


 でも正直私は私をいじめる人なんて好きにはなれないから、仮に向こうが好きだと告白しても絶対断る。そもそもそれを差し引いても好みじゃないし。


 そう思ったら、急に楽しくなってきた。

 だってガキ大将君、最終的にフラれるというのに私にしょっちゅうかまってくるんだよ?

 いじめて気を引こうとしたって無駄なのに。

 それを思うと楽しくて楽しくて仕方ない。

 なんだかんだで「好かれている」と言う優越感もたまらなかったし、ね。


 そんなある日。


 私は、ガキ大将君に空き教室に呼び出された。

 ガキ大将君はいつものデカい態度じゃなく、何処となくそわそわしていた。私もつられてちょっとそわそわする。

「あの、さ」

 そわそわしながらガキ大将君がそう切り出す。

 遂に、この時がやってきた。私は身構えた。

 好きだと告白されて、私はそれをバッサリと斬るだけ。

 ずっと、この時を待っていたのだ。本当に楽しみにしていたこの瞬間を。

「俺、もう、お前の事いじめるのやめるから」

 緊張でちょっと聞き取れない部分もあったけど、ガキ大将君はそう言った。「だから今まで、すまん」


 謝ってくれた。


 唐突だとは思ったけど、ガキ大将君は謝ってくれた。

 いつもと態度が全然違うから、本心だと確信した。

 でも今更謝られても、はいそうですかと素直に受け取っちゃいけない。告白させて、フッてやらないと。

「どうして謝ろうとしたの?」

 こう言っておけば、ガキ大将君は理由を言わなくてはいけなくなると思った。

 そうしたらきっと、「好きだから、ついいじめていた」と自白するはずだ。

 こんな場面ではぐらかしたり、逆ギレしたりなんかしたら反省していない、と言う事になる。

 だから、これは私なりの楽しい復讐、のつもりだった。


 しばらくして、ガキ大将君はようやく口を開いた。


「その、実は、好きな人ができたから」

 なんだか変な日本語だった。

 好きな人ができた、じゃ、まるで私に対するいじめが始まった後に起きた出来事みたいじゃない。

 でも、現にガキ大将君はそう言ってて……教室の入り口の方を見ていた。

 入口の方を見ると、隣のクラスの委員長ちゃんがこちらの様子を見ていた。ロングヘアーの、可愛い女子だった。

「ほら、これでいいだろ」

 顔を真っ赤にしながら投げ槍に言うガキ大将君。

 なんだかよくわからない状態になってきた。


「こら、逃げちゃ駄目でしょ」

 部屋から出ようとするガキ大将君を引き留める委員長ちゃん。

「ちゃんと謝ったからいいだろ」

「ちゃんと許してもらうまで謝ったとは言わないの」

「何だよ、ケチ」

 どういうことなんだろう。というか、委員長ちゃんは一体何なの。なんでこんな場面で出てくるの。

 状況を飲み込めていない私に、委員長ちゃんはこちらに近づきながら「立ち聞きしちゃってごめんね」と優しく声をかけてきた。

 もうわけがわからない。


「俺、こいつに告ったんだよ」

 私は大きく目を見開いた。

「そしたら、こいつが女の子をいじめるやつとは付き合えない、って言うんだから仕方なく」

「仕方なく、じゃないでしょ! いじめなんて人としてやっちゃだめなんだから!」

「だから謝っただろ!」

 事情がようやく呑み込めた。

 ガキ大将君は、委員長ちゃんと付き合うために私への嫌がらせをやめようとしていたことを。


 信じられない。信じたくない。

 盛大にフッてやる事をずっと楽しみにしていたのに。

「あの、じゃあ、どうして今まで私をいじめてたの?」

 だって、好きだからいじめるもんじゃないの? 色んな人がそう言ってただもん。

 でなかったら、私は何の為にずっとずっと我慢してたというの?

 だけど、ガキ大将君の答えは私の予想とは全然違ってた。


「理由なんてあるわけないじゃん。しいて言うならお前、見ていてウザかったから」

 どん底に、突き落とされた。


 嘘つき。何処の誰だか知らないけど、大嘘つき。

 ずっとガキ大将君が私の事を好いていたと勘違いしていた自分が馬鹿みたいじゃないか。騙された。いや、勝手に騙されてた。

 惨めさと恥ずかしさで、死にたくなるほど涙が出てきた。


「今まで辛かったね。でももう大丈夫だから」

 私の涙の意味を勘違いした委員長ちゃんが、慰めの言葉をかける。

 だけど、涙と嗚咽はずっとずっと止まらなかった。


 それから、宣言通りガキ大将君は私をいじめなくなった。

 それどころか、もう関わっても来なくなった。

 私は、友達がいなかったので、他に誰も話しかけてくる人はいない。

 いじめられなくなった代わりに孤独になるか、いじめであっても誰かとつながりがあるのかどっちがマシなのかはわからないけど、後者の方が幸せだなんて絶対に認めたくなかった。

 あんなに嫌な相手だったのに、これじゃ私が結局ガキ大将君に執着していただけなんじゃないかって疑問に思うだけでも気が狂いそうになる。


 いろいろ、大嫌いになった。






あとがき:これ、いじめられっこを社畜に置き換えてもお話的に通じなくはない。

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