【第二話】犯人にはハンデを与えるくらいがちょうどです
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1日目の夜となりました。(12:45:56)
<探偵くん>の役職は「共有者」です。
<探偵くん>はもうひとりの共有者<ラパスくん>と夜の間に会話することができます。
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆ラパスくん「よろしくお願いします!いっしょにがんばろうね☆」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆探偵くん「よろしくー」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆ラパスくん「おなかすいちゃったなあ。」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆ラパスくん「このゲームって1回始まると1時間くらいパソコンの前に座ってないといけないじゃん?」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆ラパスくん「途中でおなかがすいたりトイレ行きたくなったとき、ちょっと苦しいよねー。」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆ラパスくん「探偵くーーーん!生きてるかーーーい??」
◆探偵くん「私レベルのプレイヤーが相方ですので ごはんやトイレに専念して頂いても 勝ちはまちがいありませんね」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
◆ラパスくん「いや、まあでも、そういうわけにも^^;」
◇他のプレイヤーの会話「アオォォォーン・・・」
2日目の朝となりました。
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そろそろお昼ごはんが食べたくなるお昼どき。露月くんが、いつものようにネット人狼ゲームで遊んでいたときのことである。
この顔文字、カタカナ文字の星座の名前、ラパスくんは、きっといつも星座の名前をハンドルネームにしているあの人だろう。
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[お昼のニュースをお伝え致します。]
黄金がマンションの下のコンビニで買った「鮭とレモンクリームの生パスタ」を食べながらテレビを眺めていると、いつものように朝のニュースがはじまった。
[昨日お昼ごろ、瓶手市のマンションで火災が発生しました。]
「へえー、瓶手市内で火災があったなんて気付かなかったな。近所でなくてよかったー。燃え移ったら怖いし。」
[火災があった瓶手マンションは、防火設備が充実しており、]
「ふぁっ?!」
[類焼は食い止めることができましたが、火元となった部屋に住んでいた中井屋 三太さんが死亡し、現在、警察は火災の原因を突き止めています]
「う、うちのマンションで火災があったなんて全然きづかなかった!!!!」
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捜査一課の業務は多岐にわたる。殺人、強盗から放火、普通の火事、はたまた警察の業務分掌には「部内他課の分掌に属しない犯罪の捜査に関すること。」とも書いてある。つまりは、何でも屋である。
「だが、今回はただの火事ではないと俺の直感が告げている。」
辰田が火事のあったマンションの下のコンビニで買った「鮭とレモンクリームの生パスタ」を朝食に食べながら自分の推理を展開する。
「被害者宅なんだが、発火につながるようなものが何もなくてな。」
……へっくしょおい!鑑識の織出が相鎚のかわりにくしゃみを打った。
「他の部屋へ炎が燃え移らなかったことからもわかるように、部屋は内側から燃えた形跡がある。しかしこの被害者、煙草も吸わなければ料理もしない。火元になるようなものが何もなかったのに火事になったんだ。」
織出の報告によると、被害者はおとといから体調が悪く寝込んでおり、部屋がここまで全焼したのは被害者が眠り込んでいて火事に気づかなかったことが原因と考えられるとのことだった。
被害者は市販薬の風邪薬を飲んでおり、被害者の遺体からは風邪薬が検出された。眠くなる副作用の見られるタイプの風邪薬だったので、もし火事のあった時間に眠っていたならばこれのせいで逃げ遅れてしまった可能性は高い。しかし被害者は事件の前日、近所の薬局で自らこの薬を購入しており、風邪薬の摂取について不審な点はなかった。
「そういやこのマンション、」
辰田は思い出す。
「廊下に監視カメラがついてるんじゃなかったのか?」
「そのとおり。」織出がくしゃみのかわりに相槌を打った。
監視カメラには事件前の1週間の間に中井屋の部屋を訪問した者が4名捉えられていた。
◆小浦 永久ーー製薬会社で働く男。死亡した中井屋の部屋の真上に住んでいる。昔、中井屋と同じ会社で勤めており、中井屋からの嫌がらせに耐えられずに退職したという噂がある。
◆雨谷 玲子ーー考古学を専攻する大学生。事件のあった日の当日に中井屋の部屋を訪ねていた。
◆高木 大雅ーーフラワーデザイナーで、花屋の経営も行なっている。数年前に中井屋とは自動車を衝突させたことがあり、全治2ヵ月のケガを負った。
◆喜屋武 大希ーープラネタリウムの解説員。中井屋の学生時代の後輩。中井屋に恋人を奪われたことがあると噂が流れている。
「とりあえずこの4人には話を聞いてみるか。」
しかしまずは中井屋の部屋を見に行くことが先決だな。
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エレベータに乗って2階へ着くと、中井屋の住む202号室の前にたたずむ人影が見えた。
辰田が声をかける。
「こんばんは。」
「こんばんは」
「202号室の鍵を持って来て戴いた管理人の方でしょうか。このたびはお手数をおかけして大変もうしわけございません。
お宅のマンションでこの様な出来事の起きてしまったこと、心中お察し申しあげます……ご挨拶が遅れましたが、私、瓶手警察署の『辰田』と申しあげます。何卒宜しくお願い致します。」
「よろしくー」
そこには露月くんがたたずんでいた。
「おまえが放火したのか?」
「アナタの対抗心には 火をつけてしまったようですが」
「おまえが放火したのか?!!!」
なぜだか中井屋の部屋の前でまちぶせていた露月くん、なぜだか辰田には嫌われてしまっているようである。
露月くんを外に閉め出して、辰田と織出が中井屋の部屋へ上がると、ぶわっといろいろなものが焼け焦げた匂いが漂ってきた。
ワンルームのその部屋からは、炭のように焼け焦げた物がありながら、だいぶん原型を留めているものもあり、残った遺品からは故人の趣味が透けてうかがえるようだった。
木彫りの動物の人形、金に縁取られた貝殻。壁はわりと色々な物で埋め尽くされていた。
おおかた燃えているが、窓際の床にはかなり大きな布だったようなものが落ちている。かろうじて残っている部分からは、布が赤かったことと、黄色い鳥のような図が描かれていたことがわかる。
入り口近くの壁の本棚にはマンガが埋まっていた。昔アニメになるほど流行ったパプワくん。
ムササビジャーンプ!とかは覚えているけどどんなマンガだったっけ?
「うぅむ……乾燥パスタに火でもつけて通気孔から放り込んだんだのか?」
「床にパスタは落ちてなかったな。」
本棚と反対側の壁にはこちらも燃えかけの、編んだようなカバンがかかっていた。ビニールや紙で編まれた色とりどりのカバン。ビニールのものは幾分燃え残っていた。
「こじゃれたカバンだが俺はこういうのは持てないな。昔テレビかなんかで名前を聞いたことあるんだが……なんていうんだっけなあ……」
「ビルムです」
「おぉ、織出よくそんなこと知ってんなあ。」
「いや、俺は何も答えてないけど!」
「ビルム です」
「織出、おまえが鍵閉めたんだろ?」
「いや?辰田の方があとから入って来なかった?」
そこには露月くんがたたずんでいた。
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「こんばんは、小浦さんのお宅でしょうか。」
辰田たちは同じマンションの小浦の部屋に来ていた。
「はい、そうですが……」
その男は今起きたかのような顔をしてこちらを見ている。
「小浦 永久さん御本人でよろしいでしょうか。」
「はい、そうです……」
「瓶手警察の辰田と申します。」
小浦は警察と聞いて、少し驚いたようなそぶりをして見せる。
「率直に申し上げますと、昨日このマンションで起きた火災の件についてです。亡くなったのが小浦さんの元同僚の中井屋氏ということはご存知で?」
「いいえ、存じ上げませんでした。立ち話もなんですので、部屋へ上がられますか?」
小浦があからさまにひとりだけ警官ではない露月くんの方をちらちらと見ているが、辰田と織出は露月くんについて何も触れない。
いや――そう見えないだけでこの人も警察官なのだろうか?
「まずお伺いしたいのは、中井屋氏の部屋へは何をしにいらっしゃったのかということなのですが。」
「火災ってただの火事じゃあないんですか?なぜそんなことをお伺いされるんですか?」
「我々は警察ですのであくまで可能性をさぐらなくてはならないだけです。差し支えない範囲でお話し戴ければ。」
「えっと、一昨々日の夜、中井屋さんの家でふたりでお酒を飲んでいました。」
「大変失礼ですが、昔、中井屋に嫌がらせを受けて会社を辞めたという噂をお伺いしております。そんな関係の方となぜふたりきりで飲み会などすることに?」
「嫌がらせを受けてたってのはおおげさなデマですよ。中井屋さんが僕に仕事をたくさん振ってて、そのせいで仕事が辛くなっちゃって転職した、くらいが事実です。まあ僕も当時自分から仕事が辛いって言いませんでしたしね。
それと、一昨々日の飲み会は向こうから呼び出したんですよ。
辞めた当時はそりゃあネガティブな感情も持ってましたけど、もう時間も経つし、いいかなって思って会うことにしました。」
「呼び出された時は電話で?メールで?何か証拠など残っとりますか?」
「ありますよ、ホラ、そのときのWINEの会話です。」
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。o○(永久、おまえ新しい会社どうよ?)
。o○(時間あったら久しぶりに飲もうぜ!)
<<<(いいですよ!僕、来週とか暇ですー)
。o○(じゃあ水曜とかどうよ!)
<<<(全然あいてます!そういえば、ちょうど実家から良いお酒届いたばっかなんですけど!)
。o○(じゃあどっか飲みに行こうと思ってたけど宅飲みにするか?)
。o○(おまえ俺の家に来たことないだろ。)
。o○(マンションの下にコンビニあるから晩飯とツマミは一緒に調達しようぜ!)
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「え?晩飯に何食べたかって?俺は焼酎とか持って来てたんで蕎麦とかお好み焼きとか和食を買ったんですけど、中井屋さんは蕎麦が嫌いだ、蕎麦食うと体調悪くするって言ってパスタを……え……何パスタかって?えっと……シャケの入ったやつ……そうそう、それ!鮭とレモンクリームの生パスタ……なんで知ってるんですか?」
「ちなみに酒はどっから届いたんですかね。」
「うち、実家酒屋なんですよ。僕は酒屋の息子のクセにお酒弱いんで実家は継げませんね。」
部屋をよく見まわすと、部屋にはお酒の空き瓶をディスプレイしている棚があったり本棚にワインの本が入っていたりした。なるほど、酒屋の息子なのか。空き瓶のディスプレイは飲んだものの中でもボトルデザインの気に入ったものを飾っているのだろうか。高級そうな物が多い。
窓際には左右にスピーカーのついた大きなミュージックコンポ、テーブルのかわりにカウンターテーブルと足の高いイスを置いてバー仕立てにしていた。
大きな部屋でもないのによくやるもんだ。カウンターテーブルの上には今はウヰスキーが置かれていた。
「事件のあった昨日の12時頃は何をしていらっしゃいましたか。」
「仕事をしていました。」
「昨日は土曜日でしたが、普段も土曜日はお仕事で?」
「普段は土曜日は仕事はありません。昨日だけ休日出勤でした。」
「会社へ出勤されていたことがわかる証拠はありますかね。」
「タイムカードの記録を見ればわかります。会社の入退室時に必要な会社の鍵とタイムカードがセットになっています。」
「小浦さん以外に出勤されていた方は?」
「うちの部署では僕ともうひとりだけでしたね。」
うーん、もうひとりか。
「では、中井屋氏に恨みを持っていた方を誰かご存知ないですか?」
「そういえば大学のときの後輩の、キャンとかいうヤツには恨まれてるんじゃないですか?たしか、中井屋さんが恋人を……」
「喜屋武さんという方と中井屋さんとのイザコザは結構有名なんですかね?」
「まあ、人からまた聞きしたような噂ですし、それ以外は何も知らないんですけどね……なんでも中井屋さんが喜屋武から奪ったっていう恋人ですけど、女子大生だったとかなんとかいうことで結構噂が流れて。」
「なるほど、そうですか……ありがとうございました。後日またご協力頂くこともあるかもしれませんが、そのときは何とぞ宜しくお願い致します。」
「宜しくお願い致します。」
「よろしくー」
ずいぶんフランクな挨拶だが、結局自己紹介もしなかった3人目の男は何者だったのだろう……?
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ピンポーン、ピンポーン。
「雨谷さん、雨谷さーん!」
辰田が瓶手マンションから程遠くない雨谷の家を訪ねるも、雨谷は不在のようだった。
「仕方ないな。後でもう1度訪問するか。」
「中井屋とはどういう関係なんだろうな。」
「部屋を訪問してたくらいだからただの友人じゃあないだろう。こいつが大学生らしいし、中井屋が喜屋武から奪った恋人ってヤツなんじゃないか?」
辰田が推測を話す。とりあえずは先に高木を訪問しよう。
この時間なら家ではなく店を訪問した方が空振りにならないかもしれない。
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高木の店は、瓶手マンションから徒歩5分程度の場所、駅前のロータリーに面して建っていた。瓶手マンションからは、目の前の道路を抜けてすぐのロータリーの真反対の位置にある。
高木の店を訪ねると、午前中のためか、まだ店内には客が少なかった。
店内にいる客が捌ける瞬間を狙って高木の店を訪問すると、高木はこちらへどうぞ、と言って店の奥へ通してくれた。
「単刀直入に申し上げますと、中井屋氏の家をご訪問された理由をお伺いしたく。」
フラワーデザイナーだかなんだかということで、てっきり店舗は花屋のみを経営しているものと思っていたが、カフェでもやっているのだろうか、脇に小さなガーデンスペースがついており、テーブルとイスの他、バーベキューセットやカセットコンロ、灰皿が置いてあるのが見える。
店の内装はレンガ造りのようだった。
「中井屋氏とは数年前に自動車事故で揉めただけのご関係のように思われ、とてもお宅をご訪問されるような関係ではなかったように見受けられますが。」
「先週の頭でしたかね、確かに中井屋さんのお宅を訪問致しました。訪問した理由はお花のお届けです。お花を運びに部屋の中まで入りました。弊店では持って帰るのが大変な植物をお届けしたりもしていまして。店頭で中井屋さんにご対応したのは私ではなくアルバイトの子でして、『中井屋』という名前をお伺いしたとき、もしや事故のときの中井屋さんなのではないかと思いはしましたが、例えご本人であってもお断りするわけにもいきませんので。」
辰田は先ほど訪問した中井屋の部屋を思い出そうとする。
「あまり関係ないとは思いますが中井屋さんが注文されたお花の種類をお聞きしても?」
「お花と言いましたが正確には観葉植物でして、ストレリチアとか『極楽鳥花』とも呼ばれる種類のものです。花がオレンジ色で独特の生え方をしていて鳥が飛んでいるように見える、南国っぽい植物ですよ。小さい鉢も置いていたのですが、中井屋さんがご購入されたのはすでに大きく育ったもので、お持ち運びも大変なので搬送を依頼されたものと思います。ただいま一定以上の金額をご購入されたら送料は無料というキャンペーン中でしたので。」
「それはそれは……自宅にあったらさぞ素敵でしょうねぇ……」
そういうと高木はほんの少し考えるようなそぶりを見せ、「ご自宅には飾るのではなく、会社で飾るつもりでご購入されたとのことでした。」と答えた。
花屋と聞くと売り物としても花しか思い浮かばなかったが、店内のスペースは大きく、たしかにホームセンターなどでも売っているような観葉植物の他、サボテン、インテリアにもなりそうなじょうろ、植物の栄養剤なども置いてあり、フラワーアレンジメントやブーケ、プリザーブドフラワーなどもそこかしこに飾られていた。
お店というのはところせましと商品の並んでいるもので、ここに何か手がかりになるようなものがあったところできちんとした家宅捜査でも行なわなければ見落としてしまいそうだ。天井からも花が吊り下げられている。
「中井屋さんとはどんなお話をされましたか?」
「最初会って驚いて、お久しぶりです、おケガはどうですか、というようなことを言いあって、その後はお互い気まずいですし、水やりの回数などお花の説明をしたり、また買いに来ます、というようなことを喋っていました。そんなに長い間はいませんでしたよ。」
「失礼ですが、おケガをされたのは?腕ですか?足ですか?」
「私は腕を骨折しましてね、骨がくっつくまでに2ヵ月もかかりましたよ。」
「今はおケガのご様子は?」
「私のケガは何ともありませんよ。」
そういって高木は腕を動かして見せた。確かになんの問題もなさそうである。
「では、昨日の12時頃は何をしていらっしゃいましたか?」
「お店にいました。」
「何か証拠になるようなものは?」
「レシートの控えがありますので、そちらの時間を確かめて頂ければ。そうそう、アルバイトの子も一緒に出てましたので、確認して頂けると思いますよ。途中、トイレのために持ち場を離れることはありましたが、せいぜい5分程度でしょうね。」
辰田と織出がレシートを確認する間、高木がタバコを吸うので、と外に出ようとすると、「インパチェンス ください」という声が聞こえてきた。花を買いたい客がいたようだ。
辰田と織出がどうもすみません、と言いながら声のした方を振り返ると、
そこには露月くんがたたずんでいた。
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昼食時も少し過ぎてしまったので、ふたりは、つまり辰田と織出のふたりは腹ごしらえをすることにした。
辰田の「さっぱりしたもんが食いたくないか?」という意見に織出が賛成し、ふたりは、近所にあった蕎麦屋へ入った。
「盛り蕎麦を頼む。」
「俺は山かけで!」
「肉蕎麦で あぶらあげもください」
「ふたりともアリバイがあるから、さっきのふたりの中のどっちかが中井屋を殺した場合は自動発火装置みたいなもんが必要になるんだよなぁ。」
辰田がおおげさに身を左にひねって、織出に、織出だけに話かける。
「せめて同じマンションの真上の部屋からなら部屋の外から内側を燃やす方法もありそうなんだが。」
「もしくはアリバイが捏造かもな。レジスターの時計をずらしてレシートの時間を変えたかもしれない。」
「放火して帰って来れるくらい時間をずらしたら、客の方にレシートの時間がずれてることに気がつく人間が出て来るかもしれないぞ。」
「俺は残りのふたりの方に怪しいヤツがいることにかけているが。」
などなどと話しているうちに、「ごちそうさまでした」と言って右側の席から誰かが立ち上がる。
次は喜屋武の家か。喜屋武の家は瓶手マンションとは道路を1本挟んだマンションの6階にある。
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喜屋武の家は6階建てのマンションの最上階だった。
「こんばんは、瓶手警察署の辰田という者ですが、喜屋武 大希さんのお宅で……わっ、暗いなぁ!」
ドアを開けて出て来た喜屋武の部屋を観察しようと中を覗き込んだ辰田が思わず声を上げる。
これに笑いながら喜屋武が答える。
「プラネタリウムの上映中ですよ!よろしかったら上がって行きますか?」
中へ入ると、なるほど、真っ暗闇の中、家庭用の小型プラネタリウムが室内に星空を照らし出していた。
辰田が火事の事情聴取である旨の事情を話し、「職務中ですので、プラネタリウムはまた別の機会に……」と言うと、喜屋武はプラネタリウムのスイッチを切り、カーテン、と言うよりも暗幕、を少し開いた。眩しい。外はわりと明るい。
「どこかで火事があったんですか?」
「今朝のニュースなどでもやっとったようですが、火事があったことは知りませんでしたか?」
「すみません……私、プラネタリウムの解説員をやっています関係で、生活サイクルがちょっと遅いんです。」ともそもそと返事をした。
「あなたが1週間前に訪問された中井屋さんが昨日、火災で亡くなられました。」
少し、いや、だいぶん、間があって、喜屋武が呆然と聞き返す。
「中井屋さんが、中井屋さんが……?!」
「失礼ですが、喜屋武さんは中井屋さんに恋人を奪われたのだったのでは?」
「いえ、私と恋人はもうとっくに縁が切れていましたから。噂ではそういう風になってしまっているみたいですけど……」
中井屋についての報せにショックを受けた様子を見せる喜屋武を尻目に、辰田は室内を観察する。
なるほど。こいつはプラネタリウムの解説員なんだっけか。
明るくなった部屋にはたくさんの天体の写真が並んでいた。輪っかさえはっきりしないぼやけた小さな土星や木星の写真、月面クレーターの写真などが並んでいる。写真は買って来たポスターにしちゃあ出来がお粗末過ぎる気がする。
「こちらの写真はご自分で撮影されたんですか?」
「はい。よく自分で夜中に天体観測をしているんですよ。」
中に小さな地球の入った透明な球体、これは……天球儀だ。他にも月球儀と思われるものやスペースシャトルとソユーズの模型などが置いてある、なんともまあ……宇宙好きなんだろう。
他は誰の部屋にでもありそうなものばかりで目立ったものはない。
と、そのとき、辰田が窓の外に見えるあるものに気づいた。
視界の下の方にブルーシートが見えている。ここは中井屋の家がよく見える。
「失礼ですが、」と辰田がかしこまって声をかける。
「昨日の12時頃、中井屋氏の部屋に火災があったとき、喜屋武さんはどちらにいらっしゃいました?」
どうやらここは中井屋の部屋の目の前のようだ。
「その頃でしたら、この部屋でひとりでいました。」
「何をやっていらっしゃったんで?」
「何をって……ひとりでゲームをしていました。」
「ほう、なんと言う名前のゲームですかな?」
「人狼と言うゲームです……」
「それを証明できる方は?」
「ひとりで遊んでいたので……でも……でも、サーバーなどに接続時間が残っていると思うのですが。」
「そのゲームサイトに今接続できますか?」
喜屋武が人狼ゲームに接続し、ゲームの始まった時間を見せようとしたとき、「あっ」と喜屋武が声をあげた。
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1日目の夜となりました。(12:45:56)
<ラパスくん>の役職は「共有者」です。
<ラパスくん>はもうひとりの共有者<探偵くん>と夜の間に会話することができます。
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「こんな……でも……確かに……ゲームを始めたのは12時前だったのに……」
しかし、ログの時間はゲームの開始時間を[(12:45:56)]と指し示している。
「さ、サーバーの時間がずれているんです……サーバーを管理している人や、同じゲームの参加者に確認すれば!」
不必要に慌てふためく喜屋武を辰田が睨み付ける。
「サーバー管理者とインターネット回線の業者には連絡し、本当に時間がずれていたかどうか、他の参加者へも確認をとっておきましょう。
まあ、時間がずれたところで殺人現場からよく見えるこのマンションからなら何か中井屋氏の部屋を燃やす手段がありそうですがね!」
それじゃ、そろそろ失礼いたします、と、辰田たちが部屋を出ていく。
「そんな……」
と、そのとき、助けを求めるように目をさまよわせていた喜屋武と露月くんの目があった。
喜屋武が藁にもすがるような目つきで露月くんへ懇願する。
「お願いです!私の容疑を晴らしてください!」
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結局雨谷はもう一度訪ねても家におらず、辰田と織出と露月くんは瓶手マンションに戻ってきた。
エレベータホールでエレベータが降りてくるのを待つ。降りてきたエレベータがゆっくりと扉を開くと、中から若い女性がふたり出てきた。
と、片方の女性がこちらへ向かって驚いたような顔をして口を開く。
「露月さん!……に、辰田さんに織出さん?どうしてここに?」
そうだ、と辰田も片方に見覚えがあることを思い出す。たしかこいつは6階の山吹 黄……
「あ、現場に勝手に入ってた野次馬!」
織出にはあとで事件の捜査には近隣の住民の協力が不可欠であることを教えておかなくてはならない。
と、山吹 黄金が相方の女性に説明を始める。
「玲子ちゃん、この人たちがこのあいだ話した事件のときの警察の人たちと、隣のお部屋の露月さん。」
今度は相方の女性の紹介を始める。これだから学生はなぁ。普通は身内の紹介が先で……
「この子は雨谷 玲子ちゃん。大学の同じサークルの子です。」
どこかで聞いたことのあるような気のする名前である。
「失礼ですが、」
知人の紹介に対する反応にしては異様な間のあと、辰田が口を開く。
「雨谷さん、昨日昼の12時頃はどちらにいらっしゃいましたか?」
「私だったらその頃は黄金の部屋にいましたよぉ?」
雨谷は淀みなく答える。
「それは事実ですか、山吹さん?」
突然名前を呼ばれ、尋問されることに黄金は驚く。
「はい。昨日のお昼の12時頃、真っ昼間なのに突然お酒を持ってうちに来て、それからずっとうちにいました。はい、昼ごはんは一緒に食べました。え?パスタ?いいえ、違います、パスタは今朝一緒に食べました。はい、鮭とレモンクリームの生パスタです。」
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一行は黄金の部屋にいた。
女子大生らしい部屋だ。かわいらしいカーテンに、天蓋付きのベッド……の上にはマンガらしきものが散らばり、テレビは床に直起きされていた。
家具屋ではなく雑貨屋で売っていそうな白い彫刻入りのイスも、自分はほとんどベッドの上にしか座らないのかゲームのキャラクターとおぼしきミスマッチなぬいぐるみが幅を利かせている。
くしゃん!
織出は鼻水をたらしながらおもむろに黄金の部屋のティッシュを数枚つかむと、
ちーん!
鼻を噛んで、黄金のゴミ箱へティッシュを捨てた。
「なんか風邪っぽいなぁ。中井屋から風邪貰ったかなぁ。」
「こいつの部屋はくしゃみが出るほど埃が溜まってんのか?」
織出は思う。辰田にはあとで事件の捜査には近隣の住民の協力が不可欠であることを教えておかなくてはならない。
「そういえば、中井屋さんも風邪をひいてるみたいでしたねぇ。鼻をずるずる言わせてましたぁ。」
ふむ。中井屋は本当に風邪をひいていたのか。
ベランダに出て、真下を覗くと、エアコンの室外機が見えた。他の階の同じ部屋にもこの位置に室外機がついているのだろう。更に下には……
ブルーシートが見える。
この部屋は中井屋の部屋の上にあるのだ。
「して、」辰田がもったいぶって口を開く。
「雨谷さんが昨日、恋人の中井屋さんの部屋をご訪問された理由はなんですかな。」
『え?!!!!』
「……辰田さん、中井屋さんの恋人なんですかぁ?」
「タツ×ナカですか?」
「いやいやどう考えたってナカ×タツでしょぉ~!」
「それはそうと、玲子がすみませんでした!!この子は中井屋さんとはそういう関係にはありませんので~!」
「私が中井屋さんのお部屋に行ったことによって辰田さんに辛い思いをさせてしまっていたなんて……気がつかずにすみませんでしたぁ……」
「辰田……中井屋がおまえの恋人だったなんて……今日は仕事は終わりにして帰っていいぞ……」
「辰田さんには 恋人がいなさそうだと 思っていたのに」
「いや!おまえら!俺の理解してないところで俺の話を進めるな!!」
止めない限りえんえん長引きそうなボケに辰田があわててツッコミを入れる。
「そうではなくてですね、中井屋さんが喜屋武さんから奪ったという女子大生の恋人、あれが雨谷さん……のことだったかもしれないなんて、ちょーっとだけ、ほんとにちょっとだけ思ったりしていたんですが。」
おまえらもちょっとくらいはそう思ってただろ?
「はぁ?!私が中井屋さんの恋人ぉ?!?!」
今度は雨谷がツッコミを入れる番である。
「中井屋さんには先週、お財布を拾って貰ったんです。昨日はそれでお礼を持って伺っただけですよ。ちょうど黄金ちゃんの住んでるマンションと同じマンションだったのでぇ。それ以外では何の接点もありません。あ、ほんとですよぉ?私が興味あるのは男性じゃなくって男性同士の恋愛ですもん!え、私たちの入ってるサークルですか?え?突然ですねぇ……BLサークルですよぉ。え、何の略?B・Lサークルに決ってるじゃぁないですかぁ!え?活動内容?秘密ですよぉ、ふふふ……!」
「ち、ちなみに中井屋さんとはどのような会話をされたんですか?」
「えっと、お財布を拾って頂いてありがとうございます、これお礼です、って言ってビールを渡しました。普通ならお礼にはワインとか日本酒とか持って行くんでしょうけどぉ、中井屋さん、パプアニューギニアが好きらしいんで、パプアニューギニアのSPビールを……え……パプアニューギニアがお好きだったみたいですよぉ!お部屋はお入りになられませんでしたぁ??パプアニューギニアグッズでいっぱいでしたよぉ。貝殻とか置いてあったでしょぉ?あれ、パプアニューギニアの通貨らしいですぅ……最近家に来た大学の後輩からも誕生日プレゼントにパプアニューギニアグッズを貰ったって自慢してましたぁ……木彫りのお人形もパプアニューギニアでよく売ってるおみやげらしいですし、本棚もパプアニューギニアが舞台のマンガで埋まってましたしぃ、部屋に置いてあったちょっとオシャレな編みカバン……昔テレビで名前聞いたことあるんですけどぉ……あれなんていうんでしたっけぇ……」
「ビルムです」
「わぁ、黄金ちゃんよくそんなこと知ってるねぇ!」
「いや、私は何も答えてないけど!」
「ビルム です」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!あ、あなた、いつから黄金ちゃんの部屋にぃ……え……これがお隣の露月さん……?最初からいたのぉ?全然喋らないので気づきませんでしたぁ……」
「そういえば喜屋武が中井屋の部屋を訪ねた理由を聞くのを忘れてたが誕生日のプレゼントを渡しにきたのか。ところで、昨日は近くで火事があったことに気がつかれまし……」
{♪ソッシドレッソッ ミッラソファミファレ ♬ソッソラシラシソ ♫ラシラソファミファレ}
そのとき、誰かの携帯から着メロが鳴り響く。
「はい、辰田です、もしもし……」
(え?!今の辰田さんの着メロだったの??)
(ディズニーのエレクトリカルパレードじゃなかったぁ?)
電話をしている人間にはヒソヒソ声は聞こえない。
「なにィ!ゲームサーバーの管理人とプロバイダに問い合わせた結果、同時刻にゲームに参加していた人間からサーバーの時間がずれていた旨の証言がとれただと……しかも、ラパスのIPアドレスから割り出された接続元は間違いなく喜屋武の家の住所だとお……それじゃ火災の時間には全員アリバイがあったことになっちまうじゃねぇか!これじゃ振り出しだ……何?ゲームの参加者のひとりがたまたま同じ瓶手市内に……ふむ……インターネットを使ってゲームに参加してただけじゃたしかにアリバイとしては根拠が薄いな……不審な点がなかったか直接伺って話を聞いてみるか……ん?その参加者も瓶手マンションに住んでるだと……名前は……」
相手の声がまだ電話の向こうから聞こえているが、辰田は電話を切って向き直る。
「おい、露月ィ!」
「やれやれ バレてしまいましたか」
「なんでおまえ喜屋武の部屋にいたとき何にも言わなかった!」
「犯人を見つけるためには 必要のない情報でしたので」
「おまえには必要なくても俺には必要な情報だろうがぁ!」
「私よりも先に犯人を見つけたかったのですか それは大変もうしわけないことをしました」
スゥーッ!スーーッ!辰田が聞こえるレベルの大きい音をたてて深呼吸を繰り返す。
「……それで?喜屋武は事件のあった時間帯、たしかにあのゲームに参加していたのか?」
「喜屋武さんは事件のあった時間帯 たしかにあのゲームをプレイされていました」
「別人がゲームを遊んでいた可能性はないのか。」
「ラパスさんはあのゲームをプレイするとき 必ず星座の名前をハンドルネームにしたり 同じ顔文字を使うクセがあります
これらの特徴やその人の発言方法のクセから何からを 他の誰かにそっくり実施して貰おうと思えば 他の誰かには事情を全て説明して共犯者になって貰う必要があるでしょうね」
「くそぅ!じゃあ事件のあった当日の事件のあった時間にはやっぱり全員にアリバイがあるのか。じゃあどうして全く火の気の無い中井屋の部屋で突如火災が起こったんだ?!もちろん中井屋の部屋からは時限発火装置なんてみつからなかったぞ。やっぱりただの火事なのか?」
「いいえ 中井屋さんの部屋の火災はもちろん火事などではありません」