妹が帰って来ないので迎えにいくことにする。
五時になった。
おかしい。
茉莉は今日は短縮日課で早く帰ってこられると言っていた。
経験上、小学校の短縮日課なら遅くとも三時には帰れるはずだ。
何かあったのだろうか?
そう思った瞬間、不安が頭のなかで増殖していく。
茉莉が誘拐されたのではないか?
もしかして、トラックに轢かれたのかもしれない。
不安は加速していった。
……そして、不安に堪えきれなくなった俺は家を飛び出した。
家を飛び出したは良いが、どうしようか?
とりあえず学校へ行ってみることにしよう。
学校に着いた。
なんだか騒がしい。
ふと周りを見渡すと武装した人がたくさんいた。
「ちょっと! そこの君! なんでここにいるんだ! クソッ! 一般人がなんで入ってきているんだ。二班のやつらはなにをしている!」
武装した人の一人が怖い顔をして怒鳴っている。
しかし物騒だな、何が起きたのだろうか?
そうだ、聞いてみよう。
「すいません、ここら辺でなんかあったのですか?」
「君は放送を聞いていなかったのか? 今、この学校にテロリストが立て籠っている。近隣住民には、避難するように放送が入ったはずだ。早く君も避難するんだ」
テロリストだって!?
だから、茉莉は帰ってこられなかったのか。
それならば、やるべきことは決まっている。
「しねーーー! ……ヌギャーー‼」
祝十人目。
そう、今は十人目の『てろりすと』が銃をもって襲ってきたので返り討ちにしたところだ。
それにしても、こんなやつらにあんなに大層な武装は必要なのだろうか?
武装の人がテロリストだなんて言ったから警戒してたのに。
まさか、素手の一般人に負けるようなやつだったなんて。
こいつら、ニセモノにちがいない。
やっぱりこいつらは、テロリストじゃなくて『てろりすと』なんだ。
そういえば、『てろりすと』達が何人いるか知らなかったよな。
ちょうど良い、こいつに聞こう。
「おい、お前ら何人いるんだ?」
「ひっ、ひぃ! じゅ、じゅ十九人です。ひぃぃ!! 命だけは、命だけはお助けくださいぃぃぃ!!!」
ふむ、あと九人か。
所詮『てろりすと』は『てろりすと』か。
十人目を捕まえてから三分後に『てろりすと』達を全員捕まえることができた。
置いておく場所に困ったので武装の人に渡すことにした。
武装の人が驚いたように「君はいったい……」なんて言っていたが、どこかおかしいところでもあっただろうか?
まあ、良いや。
とにかく、茉莉を探そう。
たしか、茉莉の教室は六年三組だったはずだ。
急いで六年三組の教室に入る。
え……。
そこには誰もいなかった。
しまったーーー!!!
てっきり、茉莉が学校にいるものだと思っていたのに、既に下校していたなんて。
また振り出しに戻ってしまった。
だけど、嘆いていても仕方がない。
次はどこを探そうか。
そうだ、通学路を探してみよう。
通学路に着いた。
なんかヒーローらしきものが、怪物と戦っていた。
邪魔だったので怪物を投げ飛ばした。
思っていたよりも軽くて月ぐらいまで吹き飛ばしてしまったが仕方ない。
とにかく通学路を進んだ。
次は武装したライダーらしきものが怪物と戦っていた。
怪物とぶつかってしまった。
火星ぐらいまで吹き飛ばしてしまったが仕方ない。
とにかく通学路を進んだ。
今度は魔法少女らしきものが怪物と戦っていた。
特になにもしていないが怪物が吹っ飛んでいった。
たぶん、木星まで吹き飛んだことだろう。
とにかく通学路を進んだ。
通学路を進んでいくと警察官たちがいた。
どうも交通事故が起きたらしい。
その証拠に大型トラックが道の脇に止められていた。
しかし、茉莉を探すのには関係のないことだと通り過ぎようとする。
「本当に女子小学生が消えたんですってば」
「そんなことあるわけないだろ」
その声を聞いて立ち止まる。
女子小学生?
「ちょっとその話を聞かせてくれ」
トラックの運転手が言うことには、黒い髪の毛でツインテールのピンク色のランドセルを背負った女の子を轢きそうになったらしい。
そして、トラックがその子に当たる寸前でその子が光に包まれて消えたんだとか。
やっと手がかりを見つけた。
たぶん、その女の子は茉莉だ。
それにしても、トラックに引かれそうになって消えたのか。
まさか、異世界召喚!?
茉莉は異世界人に誘拐されたっていうのか!?
クソッ、異世界人め!!
待ってろよ茉莉、今すぐお兄ちゃんが迎えにいってやるからな!!
拳で空間にヒビをいれる。
まだだ、まだ足りない。
ひび割れた世界の境界に蹴りをいれる。
世界の壁に穴が開いた。
「ウォォォォオ!!!!!!!!!」
気合いをいれてもう一度拳を叩き込む。
パキ、パキィ、パキン。
壁の向こうにいたのは、妹だった。
「あっ、お兄ちゃんだ」
「な、貴女のお兄様はいったい何者なんですか!!」
あと、なんか姫っぽいのもいた。
まあ、良かった、茉莉が無事で。
怒りがおさまっていく。
「帰るぞ、茉莉」
「分かったよ、お兄ちゃん。でも……一つだけお願いしても良い?」
茉莉が上目使いで可愛らしくおねだりしてくる。
そして、その答えは決まっている。
「もちろんさ」
それにしても、茉莉はなにをして欲しいのだろうか?
「お兄ちゃん、今日ね、キャシーに召喚されたんだ。そして、キャシーと友達になったんだけど、キャシーが困ってるんだって、魔王に。だから、魔王をやっつけて欲しいの。あっ、キャシーってこの子ね」
「なるほどな、良いよ、魔王を退治してきてやるよ」
ふむ、この姫っぽいのがキャシーか。
友達ができたようで結構。
「な、茉莉さんのお兄様、なにを言っているのですか、相手は魔王なのですよ!?」
「相手が誰であろうと関係ない。妹が倒せといったならばそれを倒すのが兄ってもんだろ」
「なにをいっているんですか。魔王はそんな甘いものではありません。それだけじゃありません。この地図を見てください」
キャシーが地図を取り出した。
「ここから魔王城までこんなにも遠くて、馬でも一年間はかかるのですよ?」
馬で一年か。
なんだ、全然遠くないじゃないか。
「たいして遠くないな」
「え、いったいどういうことですか?」
「じゃ、いってくるな」
「いってらっしゃい」
嗚呼、妹に見送られるってなんて素晴らしいんだろう。
「えっ、ちょっと待って」
なんかキャシーがいっている気がするが無視だ。
拳で距離の概念をぶち壊す。
一歩で魔王城についた。
目の前に魔王がいた。
「よくぞここまできたな、勇者よ。しかし貴様の命もここで終わ「長い、そして邪魔」グハッ」
なんか、ながったらしく喋ってたので殴った。
「よもやここまでとは、無念」
魔王が倒れ、光の球がたくさんとんでいった。
いったい、あの光の球はなんなのだろうか?
それにしても、魔王弱っ。
一般人のパンチ一発で沈むとか。
取り敢えず帰るか。
行きと同じ方法で茉莉たちの所へ帰った。
「魔王倒してきたぞ」
「さすがお兄ちゃん!」
妹からの賛美が貰えた。
嬉しい。
今にも天に昇ってしまいそうだ。
「ええ、そのようですね。魔王にとらわれていた魂たちの解放を確認しました。茉莉さん、貴女のお兄様は本当に何者なんですか!?」
あっ、もしかしてあの光の球って魂だったのかな?
まあ良いや。
「じゃあ、今度こそ帰るぞ茉莉」
「分かった。じゃあねキャシー。また来るね~」
「ええ、さようなら。また会いましょう」
こうして妹を迎えに行く旅は終わったのだった。
ある土曜日。
「お兄ちゃん、キャシーに会いに行きたい。異世界につれてって」
「いいとも」