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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

増殖するアレ

作者: 有田真

「あー疲れた疲れた! 明日も早いしもう寝よう!」


残業を終え、疲れた体は安らぎを求めていた。

もうそろそろ日付が変わろうとしていた頃だった。

寝室のドアを開け、真っ暗な部屋に灯りを灯す。

そうすれば目の前に広がっているのは簡素な寝室のはずだった。

だが、俺の視界に入ったのは、簡素な寝室の床に蠢いく黒い物。


全身の毛という毛が逆立つのを感じる。見ただけで不快感が込み上げる。


口に出すのも憚られる存在、即ち《奴》だッ!


不快感の権化たる奴は漆黒の装甲を光らせていて、身重そうに見えるが、こちらの動体視力で捉えられるか微妙な程のスピードを有している。

そのスピードは確か人間換算で時速300㎞だったはずだ。


そのスピードもさることながら、奴の恐ろしさの源はその生命力だ。

如何に殴打しようとも死ぬことはなく、頭と体を切り離しても一週間は生存できるらしい。


「…………まじかよ」


何かの幻覚かと思い、一度寝室のドアを閉める。

いつの間にか、額から冷や汗が流れていた。


「落ち着け……そこにいたのは多分幻覚だ。疲れてそう見えるだけだ……」


二、三回深呼吸を繰り返し、もう一度静かに扉を開ける。

だが、そこにいた奴は幻覚などでは無く、確かにこの世界に存在しているようだ。


「…………」


無言でまた扉を閉め、まるで緊急出動する消防士のような素早い足取りでリビングに向かう。


奴に対抗しうる装備を調達するためだ。

数分後、震える体に鞭を打ち、三度扉を開ける。やはり奴はそこにいた。

標的は一体。今のところ動く所を見せない。

奴はじっとしたままこちらを見つめているが、生憎その眼に愛嬌など感じない。というか感じてたまるか。


奴は気持ち悪い。だが、こちらの装備も万全だ。恐れることは無い。


まずは右手に構えた牽制兵器(れいきゃくスプレー)。これは奴の身動きを封じる為に使うものだ。

これを噴射すれば、奴は五秒も持たずにその動きを止めることが可能になる。


だが、これはあくまで牽制用なので殺傷力は無い。

本命は左手に携えた必殺兵器(マジック〇ン)だ。

これを奴に浴びせれば、奴の表面の油分を分解し、人間で肺に当たる気門という所に液体が入ることにより、奴を窒息させることが出来ると言うわけだ!


作牽制兵器で奴の動きを止め、確実に必殺兵器で仕留める!


因みに、打撃兵器(スリッパ)毒ガス(さっちゅうざい)を採用しなかったのは、最近の奴は毒物に対して抵抗を持ちはじめていることと、奴をぺしゃんこにするのはいいが、スプラッターなその姿をあまり見たくないからだ。


改めて両手に兵器を構えたまま、奴の動きに対応できるように足を開く。

奴も此方を見据えてか、動く気配がない。

悪いがここで外す訳にはいかない。確実に仕留めてみせる!


さながら西部劇の早打ちが起こる前の静寂。

何秒経ったか分からない。だが、静寂を打ち破ったのは、ポケットに突っ込んでいたスマホから発せられる着信音だった。

しかもその着信音はアニメの主人公が敵を倒す時に流れる曲――処刑BGM――だった。来た! これで勝てる!


「くたばれェェェェェェ!」


脳を経由する反能では無く、脊髄反射で即座に牽制兵器を奴に浴びせる。

白い霧が奴を覆い、その動きを封じる!


はずだった


奴は僅かな冷気を感じた瞬間に回避行動に移っていた。

素早い動きで冷気を避け、こちらに迫ってくる。


クソッ! ならば必殺兵器よ!


数打ちゃ当たる戦法で必殺兵器をあらゆる方向に撃ちまくる。

必殺兵器から発射された泡は例え奴を捕らえることができなくても、進行方向に落ちさえすれば奴を仕留める罠となるのだ。


しかし奴もその事を理解してか、必殺兵器の泡をも避け、奴を捕らえるには至らない。


奴はもうすぐ俺の股下を通過しようと迫る。


まずい! 今ここで奴に逃げられたら大変なことになってしまう!


さっきのように攻撃を受けて逃げた奴は、生存本能により巣で優先的に生殖行為を行う。

そうなれば奴の駆除どころか、逆に奴を増やしかねない!


「逃がす……かあああああああアアアアアア!」


直ぐに体を反転させ、自らの足で奴の進路を塞ぎにかかる。


一瞬でもいい! 奴の動きを止めることができるならば必殺兵器で仕留められるんだ!


そんな覚悟も空しく、進路を塞ぐ為に降り下ろされた足から、プチュ! という何か柔らかいものを踏み潰したような音が聞こえてきた。


「まさか……」


一気に全身から血の気が失われて行く。

……すごく嫌な予感がした。

祈るようにしてそーっと足を上げてみる。


床にはぺしゃんこにひしゃげた黒い物体があり、その周りには黄色い汁がぶちまけられていた。


足の裏にも奴の触覚や黄色い汁がこびりついていて、俺が奴を踏み潰してしまったことを物語っていた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


その後三日間、俺の足から奴を踏み潰した感触は消えなかった。


半分は実話です。

暑い夏には湧いてくるので気をつけてください!

あと、作中の着信音は五回攻撃でバイクと合体した下半身が千切れたりするアレです

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルやタグに目を奪われまして、読ませて頂きました。 大激闘を経た結果はあまりにも虚しい勝利に終わってしまったようで、ご愁傷様です……。奴はほんの僅かな隙間からでも忍び込みますから、まだま…
[一言]  やばい。何がやばいかってこれ実話混じってるところがやばい。しかも私も似たような経験あるから背筋がゾッとした。というか着信音ゴッズかw
2015/09/01 10:44 退会済み
管理
[良い点] すごく面白かったです!というか、共感できましたw [気になる点] 段落の始めは1マス開けた方が個人的には読みやすいです(;•̀ω•́) [一言] この季節になると奴が出ますね……。半分実話…
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