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雨の日の瞳惚れ  作者: koca
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彼女からのメッセージ

雨で濡れた靴下と靴がいつもより増して重い。玄関の前で全ての服を脱ぎ捨て風呂場に直行した。何度も引っかかってしまう出し始めのシャワーの冷たさには毎回驚かされる。シャワーのお湯が滝のように頭から流れ落ちていく先は、小さな排水口。それと同時に大きく吐いた息は湯船の煙と共にゆっくりと消えていった。全身が緩んだ証拠だ。身体が43℃の湯船に慣れてきた頃に、彼女が再び脳裏を過った頭の中は今日の事でいっぱいだ。湯船の水面が揺れる度に鳥肌が立つ。彼女が何度もリピートされるのだ。脳内カメラで撮影した彼女の写真が何枚か頭の中に保存されている。だが、すぐにこの気持ちは徐々に薄れていくだろう。それともまだインスタントカメラのように真っ黒の状態で薄く確信が持てないのかもしれない。未完成の写真をもっと鮮明にする為に、、また彼女に会いたい。彼女をこの目に焼き付けたい。欲望は湧き出る一方だ。レンジで温められたかのように火照った風呂上りは気分がいい。真っ先に向かう先は冷蔵庫だ、キンキンに冷えたビールを僕の胃が待ちわびている。アルコールはそんなに好まないが、この最初の一杯目は別格なのだ。それに今日は酔っぱらいたい気分だった。まるで酔っぱらいたいがために胃の中へと流れ込む酒。気付けば缶ビールが机の上に5本ほど並んでいた。おぼつかない意識が僕を眠りへと誘った。。もう一度彼女に会いたい。感情を抑える事が出来なかった。明日はもう一度あの電車で帰えろう。同じ時間に彼女と出会った日比谷線で恵比寿まで行こう。彼女と会うために試行錯誤した結果、僕は眠りへと落ちていった。


翌朝は、ひどい二日酔いだった。はちみつを入れた白湯をゆっくりと口に流し込んでゆく。二日酔いにははちみつが効くと、どっかで聞いた事がある。コップの中身を持飲み干した直後、腕首辺りには何かしらの番号が書かれていることに気がついた。誰の番号なのだろう。携帯の連絡先にその番号は見当たらないし、思い出せるのは昨日お酒を飲み過ぎて寝落ちしてしまった事だけだ。誰かと話した記憶もなければ、誰も家には来ていない。僕はあまり気にする事なく、お風呂に入ると同時に腕に書かれた番号は熱湯に流されていった。いつもより早く目覚めた休日の朝。特にすることは決まってないが、録画したテレビを見るのが休日の過し方だ。毎週楽しみにしている恋愛ドラマ。未だに恋愛と言う恋愛を僕は経験していない。だからこそよくドラマに現実逃避してしまいそうになる。現実ではあり得ないことがあり得る世界だ。甘ったるい言葉ですら、自分に言われてる錯覚に陥る。それに中盤辺りになると、見終わった後は何とも言えない虚しさだけが残ってしまう。誰かに会いたい。それが恋愛ドラマの欠点だ。そう思い、先に頭に浮かんだのが電車の彼女だった。だが連絡先もアドレスも知らない。すぐに行き詰まってしまった。転落先を渡したのは僕の方だ。彼女から連絡がない場合、それはただのナンパに過ぎない。大きく落ち込んだ先に見えたのは、まだ薄く腕に書かれた番号。小さな望みだが、刺激を求めるように腕に11桁の数字に電話を掛けた。。。。。


「もしもし?」


「え。。。」


頭が真っ白になった。以外とすんなり出てきたからだ。この状況に

もう考える時間なんてなかった。


「あの。。。電車でお会いした方ですか?」


「すいませんが、もしかしたら間違え電話だと思いますよ。。番号間違ってませんか?」


「あ...そうですか。。すいません。。。。

ですよね。。失礼します」


「あの!!もしかしたら、昨日の酔っぱらいさんですか?昨日急に電話が掛かってきて、今日は大丈夫ですか?」って、連絡があったんですけど。なんでこの番号を知っていたのかはわかりませんが。」


記憶だからこの番号が腕に書かれていたのだ。


「あ。。。たぶんそうだと思います。実は昨日は酔っぱらっていてあまり記憶がなくて」


「そうなんですか。だったら昨日の酔っ払いさんに間違いないですね!」


「そう、、、ですね。なんだかすいません」


「いいですよ!間違い電話って意外と多いですから。。。」


「あ。。はい。。。」


申し訳なさそうに眼の前に誰もいないのに頭を下げた。彼女はびっくりしたように僕にある事を問いかけた。


「あ!もしかしてあのドラマ見てますか?その曲ってそうですよね!」


その音楽はドラマのエンディング曲だった。


「いいですよね!あの最後に急に抱きしめるあのシーン。もしかして昨日のは見ましたか?」


僕は彼女の話にのせられ、気がつけば僕等は長い間話し込んでいた。


「そんな出会いって素敵ですよね。。。私、美容院で働いているんですけど、周りはチャライ男ばっかで、誘いがあっても下心見え見えで嫌になっちゃいますよ。私どっちかと言えば、清楚な感じの短髪男子が好みなんでチャラいロン毛男子にはあんまり魅力を感じなくて。。それに自分からアタックしたくて!」


「僕の場合はヘルパーですから、女性が多くて。。悪口や数少ない男性陣に女出されてもこっちは意外と全部知ってますからね。噂って言うか、みんな影で言ってますし、知ってるとなかなかそんな気にもなれないですよね。女性って怖いなって感じますよ。」


「なんだか優しそうな人ですね!ヘルパーって大変じゃないですか?」


「大変ですけど、意外とお年寄りってかわいいんですよ!」


「そうなんだ!でもなんだか私達って、逆の世界にいるみたいね。男性ばっかりで出会い多そうって言われるんですけど、多けりゃいいってもんでもないですし、やっぱり私にだって人を選ぶ権利はありますもん!

多い方がそんな出会いってないのかもしれませんね。だから、私も数少ない女性陣と要るほうが楽で。。。」


トランプのババを避けてカードが合わさるように、彼女との共通点は多かった。同じドラマが好きなこと。職場のシュチュエーションが逆な事。親近感を感じたこの一本の電話にこんなに長話をする事を想像していただろうか。出会いは偶然であり必然なのかもしれないと思った。これは好きなドラマのセリフだ。思わず声に出た一言。それを聞いた彼女はドラマ見たいと笑いながら答えた。身体が熱くなった。これはきっと恥ずかしいからだ。あの車内と時とは違った感じだった。


「よかったらお名前だけでも。。」


「ああ!芳根です」


「女性みたいな名前!よしね?それって苗字だよね?いい名前だね!


今日は久しぶりに楽しめたって感じかな。ありがとう芳根君!

私は佐藤って言います。」


「多い名前ですよね?」


「それは佐藤さん!、、、、あ!休憩時間終わりだ!すいません。戻らなきゃ。」


あ。。。じゃあ。。またね。。」


「うん。じゃあ。。」



不思議な時間だった。出会った訳でもないのにここまで話した経験などあるはずがない。きっと出会いの種類はさまざまだと芳根は思った。

携帯の小さい液晶を確認すると、僕が発信したのではなかった。やはり、

彼女と話すのは二回目だった。


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