第111話 別離への恐怖
「お、今日はちゃんと来たな!」
ラウンドが俺の方を見ながら大声で言った。
今日は遅刻せずにいつもの待ち合わせ場所に着いた。
「まあな。そう何回も遅刻してたまるか」
「ずる休みはよくしてたけどな」
バルドスがからかってきた。
「しかたないだろ……。家庭科で持っていく物分からなかったんだから……」
実は1年生の時、家庭科の調理実習のある日だけ休んだ時期があった。
1回調理実習を風邪で休んだ後、先生が次の授業の内容を教えてくれず、次も調理実習だったと知ったのは前日だったため、休んだ。
それだけなら良かったのだが、それが何ヶ月も続いてしまったのが問題なのだが……。
家庭科の先生は、どうも俺の事が嫌いなようだ……
「やーい、ずる休み~」
「何をー」
バルドスが煽ってきたので、俺はそれに乗った。
「やめんか!」
バレットが俺とバルドスの間に入ってきた。
「何だよ。冗談だって」
「お前らだと何が起きるか分からないからな」
バルドスは笑っているが、バレットは真剣だ。
「ギサルム、大丈夫か?」
深刻な顔をして、バレットが近づいてきた。
俺は頷いて、肯定の意を示した。
「兄さん、かっこいいー」
レフシィがバレットを褒めている。
「ん……うーむ、照れるなぁ~」
ちなみにバレットは兄馬鹿である。
「ギサルム、おはよう……」
「おはよう、ギサルム」
ブリッツとシミターも来た。
そのことに何故か、感動する。
後は、ランスとブライトとレアンとファングとクリスとカレンだ。
あれ?
ラウンドがいるのにその弟たちがいないとはどういうことだ?
「ラウンド。お前の弟たちはどうした?」
「あれ?」
お前も知らないのか……。
と思っていたところに、レアンが何故か走ってきた。
「やあ、レアン」
「あ、ギサルムさん、おはようございます。あの、ちょっと手伝ってくれませんか?」
「何を?」
「えーとですね。ランス兄さんが女子から告白されて、それを見たブライト兄さんは暴れだそうとするし、ファングは世界の終わりだとうわ言のように繰り返しているのを、僕とクリスさんとカレンさんで解決しようとしたのですけれど、無理でした……ので助けて下さい」
あー、ランス死んでほしい……
「何だと……ランスが告白された……だと?」
ラウンドが物凄い形相でこちらに向かってきた。
ラウンドもそこそこモテているとは言え、ランスには遠く及ばない。
「ムッコロす」
ヒュッ、ドーーーーーーーーーン!
人間とは思えないスピードで、レアンが来た方向に向かって行った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
直後、断末魔が聞こえてきた。
さらば、ランス。
いい奴だった。
「うおおおおおおおおお!! 兄貴、落ち着け!!」
「兄さん! 落ち着いて!」
ブライトとファングの絶叫が聞こえてきた。
お前ら、絶望に打ちひしがれていたんじゃないのか?
「ランス、大丈夫なのかな……?」
ブリッツが俺に訊いてきた。
「大丈夫じゃないだろ……ちょっと行ってみるか」
とりあえず、ランスの無残な姿を見に行った。
辿り着いてみると、野獣と化したラウンドがランスに襲い掛かっていた。
予想通り酷い有様だった。
「ラウンド落ち着いて!」
「そうだよ! ラウンドが好きな人だって……いるはず……だもん……」
クリスとカレンは、オロオロしている。
「……。バレットとバルドスを呼ぼう。このままじゃ登校できない」
俺は携帯電話を取り出し、おそらく待ちぼうけ状態であるバレットとバルドスを呼びだした。
この後、ラウンドはバレットとバルドスの力業によって沈黙した。
尚、時間には割と余裕を持ってあるので、学校に遅刻することはなかった。
放課後。
いつもならラウンドたちがいるのだが……
「あれ? 今日はお前たちだけか……」
「うん……。ラウンドたちは用事があるから、帰れないって……」
「今日は、私たちだけで帰ろう?」
下校時の集合場所にいたのは、ブリッツとシミターだけだった。
「そうだな……」
俺たちは歩き出した。
「久々だな。お前たちと一緒に帰るのも」
「そうだね……」
「ギサルム。何か面白い話してよ」
「面白い話なぁ……」
だが、何分か歩いたところで不穏な気配を感じた。
――わぁ、あの2人。ギサルムと一緒に歩いてる……
――何であんなキモい奴と一緒にいられるんだろうね?
後ろから女子の集団が近づいてきた。
「ギサルム……」
「無視しろ。何を言われても知らん顔するんだ」
ブリッツが不安そうな顔をこちらに向けてきた。
俺はいつからか虐めに適応してしまったが、ブリッツとシミターは適応できてない。
――ねぇねぇ。シミターだけでも助けようよ
――あ、それいいね
ダッダッダッダッダッ!!
後ろから走り出す音が聴こえた。
その音がどんどん近づいてくる……。
「あっ!?」
シミターが、後ろから追い抜いて行く女子連中に引っ張られバランスを崩した。
女子連中に引っ張られたシミターはぎこちなく走った後に転んだ。
やめろ……
「おい。シミターに何をするんだ?」
俺は女子連中を睨みながら言った。
シミターを返せ……
「何するんだだって」
「まじ受けるわ~」
女子連中は互いに笑い合っている。
「あたしたちは、嫌々あんたらと一緒にいるシミターを離してやったんだよ!」
女子の1人が俺に向かって怒鳴る。
「そんなことは……ない。シミターは友達だから……」
珍しくブリッツが言い返す。
「あのね……あたしたちとこいつはあんたらより仲がいいの。ね? シミターァ?」
「…………」
女子の1人はシミターに都合の良い答えを求めるが、シミターは泣いたまんまだ。
「ね? あたしたち仲がいいよね?」
「…………」
「仲がいいでしょう? 私たち?」
「…………」
「仲いいよね?」
――ちゃんと答えないとどういうことになるか分かっているよね?
女子の1人が小声でシミターにそう言ったのが、かすかに聞こえた。
「ひっ……仲、いい……です……」
シミターが小さな声で言った。
「えぇ~? よく聞こえないなぁぁ?」
女子の1人がわざとらしく訊き返す。
「ギサルム……たちよりぃ! 仲がいいっです!」
今度は大きな声で言った。
「よく言えたね~シミター。さあ、一緒に帰ろう!」
女子の1人はシミターの肩に手を回すと、フラフラなシミターを強引に歩かせた。
何とかしなければ……
そうしないと……
「そんな……シミター……」
ブリッツは驚きの表情で茫然と立っている。
涙目のシミターがこちらに振り返る。
その目は「助けて」と言いたげだった。
だが、
「シミター。気にしなくていいの。あいつら、ただのゴミだから」
その声と共にシミターは女子の海の中に呑まれ見えなくなってしまった。
肝心な時に足がすくんでしまった。
シミターを助けられなかった……。
駄目だ……2人が消える……
久々の幼馴染3人での下校は最悪な物となってしまった。
“1”
12時、寝る前にアシッグに電話をした。
「なあ、アシッグ」
「何?」
「何故か、ブリッツとシミターが何処かに行ってしまう気がするんだが、どういうことだろう?」
「さあ? ギサルムの考え過ぎじゃない?」
至極当然の答えが返ってきた。
そうだ……
何で根拠もないのに、こんなことを考えているんだ?
俺はここ最近、どうにかなってしまったみたいだ。
「まあ、寝れば、スッキリするんじゃないかな?」
「そうだな。じゃあ、おやすみ」
寝よう。
こんなことを考えている俺は、どうかしているとしか思えない。
明日も2人は元気にしているだろうか?




