第100話 限りなく楽しい一日
“1”
「はっ!?」
遅刻!?
もしくは早く起き過ぎた!?
いや、待て。
何故か時計が逆さまになっている。
ということは、6時30分か……
ふぅ……
「すげえな。お前ら!」
ラウンドが騒いでいる。
何故かと言うと、前の時間に小テストがあり、そこでブリッツとシミターが高得点を出したからだ。
ちなみに俺は、もちろん満点だ。
「何で、そんな点数取れんだ?」
ラウンドが小テスト用紙を見比べながら言った。
「ラウンドは、頭悪いから……」
ブリッツがきつい一言を呟いた。
シミターもニヤニヤしている。
「お前らぁぁぁ」
ラウンドが泣きそうになっている。
ラウンドの点数を見てみると、何と0点だ。
「まあ、ラウンドは考えるより動くことの方が得意だからな」
バレットがやってきた。
「おお!! バレットぉぉぉぉ!!」
「うおおお!?」
ラウンドがバレットに抱き着いていった。
バレットは華麗に避けているが。
「お前は、そんなに点数良くないよな? 良くないよな?」
正気を失ったラウンドはバレットのテストを見た。
俺もブリッツもシミターもついでに見た。
「お、中間点か」
俺の一言と共にラウンドが凍りついた。
そして、すぐに
「この裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
と言って、バレットに襲い掛かった。
「落ち着け! 落ち着け!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ラウンドの攻撃と、バレットの回避の応酬が始まった。
俺たち3人はそれをケラケラ笑った。
スッ……
不意に嫌な気配を感じる。
クラスのいじめっ子が近づいてきていた。
「待て、止まれ」
いつの間にか、バレットはラウンドの頭を掴み抑えていた。
そして、鋭い眼光でいじめっ子を睨んだ。
――チッ
いじめっ子は軽い舌打ちをして、そのまま去っていった。
それが俺にはたまらなく面白かった。
「クククククククククク……」
笑いを抑えようとしても、零れてしまい変な笑い方になってしまった。
「ギサルム、どうしたの?」
シミターがそれに気づいて訊いてきた。
「いや、何でも……クククク……」
止めようとしたものの、そのまま笑ってしまう。
「変なの」
シミターは、そう言って去ってしまった。
流石にしまったかと思い、笑うのをやめた。
キーンコーンカーンコーン……
「さて、帰るか」
「うん……」
俺とブリッツはリュックサックを背負った。
「待ってよ、2人とも」
シミターも急いでリュックサックに荷物を詰めて、俺たちについてきた。
「ラウンドとバレットは?」
ブリッツが俺に訊いてきた。
そういえば、いない。
「いないな。まあ、昇降口でランスたちが待っているだろうから、行くぞ」
「そうだね」
俺たちは教室を出た。
その直後、信じられない光景を目の当たりにした。
ラウンドとバレット、それからバルドスが、俺のクラスのいじめっ子たちと喋っていた。
何を話しているのかは分からないが、バレットは真剣な目で、ラウンドとバルドスは笑いながら喋っているようだ。
「ねえ……何で、ラウンドたちはあいつらと?」
「大方、クラス行事か何かの打ち合わせとかじゃないか?」
後少しで学校行事があることを思い出し、それを答えた。
「そう……なのかな?」
シミターが不安そうな顔をしている。
「ひょっとして……私たちを虐めることを……話して」
「それはない」
俺はシミターの発言を遮った。
「ラウンドたちは、俺たちが昔から虐められているにも関わらず接してくれているんだ。それは有り得ない」
「でも……ラウンドとバルドスは笑っているよ」
今度はブリッツが発言した。
「それは、楽しい話をしているからだろ」
「僕たちのことを笑っているんじゃなくて?」
シミターは黙ってしまったが、ブリッツは引かない。
「被害妄想だ。あいつらは友達だ。安心しろ」
「できないよ。だって、怖い……」
「いいか! 妄想だけで話を進めるな! お前たちはそんなに腐ったのか!?」
俺は我慢できなくなり、声を荒げた。
幸いラウンドたちの方までは聞こえていないようだった。
2人とも声を荒げた俺に驚いていた。
「帰るぞ……」
俺は先に進んだ。
後ろをちらりと見ると、2人が「行かないで」と訴えていた。
だが、俺は気付かないフリをして先に進んだ。
「あ、ギサルムさん!」
昇降口に行くとレアンがいた。
「どうした?」
「それが、ファングが物を無くして……」
レアンの他に、ブライト、ファング、カレンがいた。
「ランス、レフシィ、クリスは?」
「先に帰ってもらいました」
「そうか。で、何処で無くしたのか心当たりはあるか?」
レアンは首を横に振った。
「今から見つけるの厳しくないか。もう、夕方……」
言いかけたところで、ファングを見ると今にも泣きだしそうだった。
「無くしたものって何なんだ?」
「ウォーデンさんがファングにあげたお守り……」
あちゃー。
これは探してやらないとまずいな。
「俺たち、一生懸命探したけど、見つからなかった! ギサルム先輩、探してくれ!」
「ギサルムさん……」
ブライトがいつも通り胸を張って言っている。
胸を張るところじゃない。
カレンはおどおどしている。
「分かった。探すから落ち着け」
途端にファングの顔がパァッと明るくなった。
「見つかるかは知らんけどな」
そして、再び泣き出しそうになった。
「ファング!? ギサルムさん、からかわないでください!」
レアンが慌てて叫んだ。
「でも、何処で落としたのかの目星をつけないと、時間的に厳しいぞ」
「それが、全く分からないんです。少なくとも授業中はずっとありましたし」
「ん? 無くしたのはついさっきってことか?」
「はい。ファングが突然慌てて探し出したのにブライト兄さんが気付いて……」
何か引っかかる。
「そのお守りって何色だったっけ?」
「確か、黒……」
カレンが答えてくれた。
あー。
経験があるぞー。
黒い物を無くしたのに出てこないということは……
「ファング。リュックを貸してくれ」
ファングはキョトンとした顔をした。
構わず俺はファングのリュックサックを漁る。
リュックサックを漁っていると……
黒いお守りが出てきた。
「わぁぁぁぁぁ」
小学生たちの歓声が上がった。
「すげええよ、ギサルム先輩!!」
「まさか、リュックサックの陰にあったとは……」
「すごーい……」
答えは単純、リュックサックの陰に隠れて見えなかった。
ファングは、お守りを見て目を輝かせている。
「さて、やることも済んだし帰るか」
俺は帰路に着こうとした。
「あれ? そういえば、ブリッツさんとシミターさんは?」
カレンが訊いてきた。
そういえば、昇降口にまだ来てないな。
「用事があるから、先に帰ってて欲しいということだ」
あの気まずい空気をそのまま伝える気は起きなかったので、嘘をついた。
そのまま、俺は、小学生たちと帰った。
「今日、久々にウォーデンの話題になったよ」
俺は携帯電話越しにアシッグに言った。
「ウォーデン……。あれは、気の毒だったね……」
ウォーデン。
本来なら、俺と同じ齢で同じ学校に通っているはずの友達。
2年前に誘拐されて以来、行方不明だ。
「ところで、今日は何か嫌なことでもあった?」
俺の声色から察したのだろうか?
ブリッツとシミターに怒ってしまったこと。
少し後悔している。
明日、謝ろう。
「いいや。今日は久しぶりに楽しい一日だった」




