表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

最終話 あの日、あの時、あの場所で

 人々は何故、自己犠牲精神を尊ぶのだろうか?

 動物たちは、他者を犠牲にして生き抜いている。

 時に同族であっても、生き残るために犠牲にする。

 だが、俺たちはどうだろうか?

 学校では、毎週道徳の授業で自分を犠牲にすることの大切さを教えられる。

 その時々で内容が変わるが、本質はいつも自分を犠牲に他人を幸せにしろというものばかり。

 俺はそれをくだらないと思っている。

 皆の為に自分を殺せと言っているようなものだ。

 不満や文句を内に秘め、暴言や陰口には何もせず耐え、無意味な笑顔を振り撒け、と言われているようなものだ。

 耐えられなかったらどうすればいいのだろうか?

 他者を犠牲にすることもできず、自ら破滅を選ぶ。

 そんな最期を迎えたくはない。

 だから、俺は自分たちに危害を加えてきた人間は全員叩きのめしている。

 先生に何回注意されようともやめる気は全然ない。

 そうしなければ、俺は生きて来られなかっただろう。

 虐めによって、俺はとっくの昔に自殺していただろう。

「お、ギサルムが来た!」

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 こんな俺にも友達がいることが、一番の心の支えだ。

 その友達の一人ラウンドが、俺が近づいているのを確認したみたいだ。

「おっす! ギサルム先輩」

 いつも騒がしいブライトが、俺に挨拶をする。

「おはようございます。ギサルム先輩」

 レフシィがさわやかに挨拶してくる。

「おはようございます」

 レアンはいつも礼儀正しい。

 正直、もう少し砕けた挨拶をしても構わないんだが……

「おはよー」

 学園のアイドル的存在であるクリスは、いつも通り軽い挨拶を飛ばしてくる。

「おはよう……ございます」

 姉であるクリスに対して、その妹のカレンは静かに挨拶をする。

「おはよう」

 俺は全員に挨拶する。

 ファングがレアンの後ろに隠れている。

 多分、聞こえなかっただけで挨拶はしたんだろう。

 あれ?

 2人足りないような……

「あれ? ブリッツとシミターは?」

「お前が知らなきゃ、こっちも知らん」

「風邪でも引いたんじゃない?」

 バルドスとランスが答えてくれたが、2人とも知らないようだ。

「そろそろ行かないと遅刻するぞ」

 バレットが教えてくれた。


 これは、俺が殺戮者になった日の思い出。

 久しぶりに思い出せた、あの日の記憶だ。


 結局、ブリッツとシミターは学校に来なかった。

「ブリッツとシミターは風邪かあ……」

 2人は風邪を理由に欠席した。

――どうせ、ずる休みだよ

――そうだそうだ

 陰口が聞こえた。

 まあ、放っておけば時期に収まるだろう。

――昨日、普通にしてたのに休むか?

――しかも、2人揃って……

「まあ、多分元気だろ」

 何の気なしに発言した。

「お前、今日はやけに冷たいな」

「そうか? そんなことはないと思うが」

「ああ。いつもは2人のことを本当に心配している」

 ブリッツとシミターは、俺の幼稚園からの親友だ。

 俺の友達の中では一番付き合いが長い。

 そして、2人とも俺と同じく虐められている。

 理由は俺と一緒にいるから……

 ただそれだけの理由で2人は、俺と同じくらい虐められている。

 虐めの程度が同じくらいだとしても、2人の心の傷は俺よりも深いかもしれない。

 何しろ、2人は虐めを耐え続けている。

 教育によって、他者を犠牲することができないでいる。

 俺と違って、2人は教育によって虐めに対抗できないでいる。

 だが、絶対に2人を死なせない。

 あいつらが死んでいいはずがない。

「まあ、あいつらを信じているということにしておいてくれ」

 俺はそう言って、教室の外へ出た。


 昼休み。

 俺は、給食の片付けも終わったので、いつも使っているトイレに向かうことにした。

ピリリリリリリリリリリリリ!

「はい。ギサルムです」

「……」

 だが、相手は返事をしない。

 迷惑電話か?

「ブリッツ……」

 掛けてきた相手はブリッツだった。

「あ。ブリッツか。どうした? 風邪は大丈夫か?」

「……」

 ブリッツは再び黙ってしまった。

「どうした?」

「えっと、ギサルムに言わなくちゃ……いけないことがあるんだ……」

「何だ?」

「その……さようなら……」

 ブリッツはそう言って、電話を切った。

 さようなら?

 何を……言っているんだ?

ピリリリリリリリリリリリリ!!

 再び携帯電話が鳴った。

「はい。ギサルムです」

「あ、ギサルム?」

 今度はシミターだった。

「シミターか。どうした?」

「あのね……バイバイ……」

 シミターはそう言って、電話を切った。

バイバイ?

 何を言っているんだ2人とも。

 まさか、自殺!?

 そんなことさせてたまるか!

 何が何でも止めなくては!

 早く2人に会わないと!!

 すぐに走り出す。

「ギサルム!? どうしたんだ?」

 途中でバルドスに会ったが、今あいつに構っているわけにはいかない。

 昇降口まで勢いよく降り、急いで靴を履いて昇降口を出た。

 そして、学校から飛び出そうとした。

「コラァ!! お前、何しに行くつもりだァ?」

 守衛さんに見つかった。

 だが、答えている暇はない。

 俺は校門を乗り越えようとした。

「待てェ!!」

 守衛さんが校門を乗り越える途中の俺の脚を引っ張った。

ドスーーーーーーン!!

「すぐに職員室に運んでやる。……覚悟しとけよ」

 守衛さんは、地面に落ちた俺を乱暴に掴み運んで行った。

 そのまま、俺の意識は途切れた。


 気が付くとそこは保健室だった。

「あ、やっと起きた」

 保健室の先生が俺の目覚めに気づき、こちらに向かってきた。

「全く何をやっているの君は」

 そして、叱ってきた。

 しかし、今はそれどころではない。

「先生! 今何時ですか!?」

「えっ!? えーと……午後の4時だけど……」

 やばい。

 こうしている間にもブリッツとシミターは……

「すみません!!」

 俺は急いで、走りだした。

「あ、ちょっと……」

 保健室の先生が俺を止めようとしたが、一足先に保健室を出ることに成功した。

 そして、昇降口に向かい、靴を履き、走った。


 2人が何処にいるかはある程度見当はついている。

 俺たちが小さい時に遊んでいた公園があったゴミ置き場だろう。

 俺たちの思い出の場所というと、そこしか思いつかない。

 また、ブリッツの電話の後で、シミターの電話が来たことを考慮すると、2人は同じ場所にいる。

 偶然にしては余りにもタイミングが良すぎる。

 そして、わざわざ電話するのだから、俺に助けてくれと言っているのかもしれない。

 あるいは、俺にだけ自分たちの死を見せたいのかもしれない。

 ……

 悪い憶測はやめよう。

 俺は、ゴミ置き場の近くを通るスクールバスに乗り込む。

 勿論、無断乗車だ。

 何としても、ブリッツとシミターの自殺を阻止せねば……

――あ、化け物が入ってきやがった

――何であいつがここにいるんだよ!

 批難の声が飛び交う。

 お前らの声など知ったことではない。

「あの~。このバスを私的に利用するんだったら、降りてもらいたいんだけど……」

 運転手が俺に注意してきた。

「ああ? 俺の友達が死にそうなんだよ!! さっさとバスを出せ!!」

 俺は運転手の胸倉を掴みながら言った。

 早くしろ……

 ブリッツとシミターが死んじまうだろ……

――友達って、ブリッツとシミターのこと?

――誰それ?

――あの化け物とよく一緒にいる奴らだよ

――ええ……よく一緒にいられるね。とても耐えられないよ

 ブリッツとシミターを罵倒する声が聞こえる。

――死にそうって自殺かな?

――ウケる。化け物とつるんでいるんだから死んであたりまえだよな?

――それを化け物が助けようとしているんだぜ?

――クズはクズどうし、仲良く死んじまえばいいんだ!

 段々と俺たちを罵倒する声が過激になっていく。

 いつもならこの時点で俺は殴りかかっているだろう。

 だが、今はそれどころではない。

 ブリッツとシミターの命がかかっているんだ。

 俺は背中に意識を集中させる。

ズサッ!

グジャ!

バシュン!

 俺の背中から灰色の物体が伸びる。

 木々の枝のようにどんどん伸びて、人間たちを串刺しにする。

――え? イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

――助けて! 助けてぇぇぇぇ!

――何だよ……あれ……

 俺が虐められている原因である化け物の力を解き放つ。

パリン!

パリン!

パリン!

 灰色の物体はどんどん伸び、バスを破壊し始める。

 どんどん伸びて絡まり、禍々しい翼を作り出す。

「ふん!!」

 俺はその翼を羽ばたかせる。

バリバリバリバリバリバリ……

 バスの上半分は、俺の翼によって粉微塵になった。

 俺は更にその翼を羽ばたかせる。

 そして、俺は床を蹴り、飛びたった。

 俺は真っ直ぐゴミ置き場を目指した。


 数分もしないうちにゴミ置き場に辿り着いた。

 俺はその中に入る。

 中に入ってしばらくすると、何か硬い物を蹴った。

 真っ直ぐに加工された棒だった。

 秘力使いが使わなくなったからと捨てた奴だろう。

 2人の自殺を止めるために役に立つだろうと思い、手に取った。

 そして、奥に進んでいく。

 俺は、あるゴミ山の前まで来る。

 頂上を見上げた。

 2つの人影が見えた。

 片方は普通の男子っぽい感じの髪型、もう片方はポニーテールに髪を結っていた。

 間違いない。

 ブリッツとシミターだ。

 俺は気付かれないようにゴミ山の麓に潜んだ。

 もし今近づいたら、2人を刺激して自殺を早めてしまうかもしれない。

 風に乗って2人の声が耳に入ってくる。

「何度も言うけど、ごめんね……自殺に付き合わせちゃって……」

「ううん。私も我慢できなかった……提案してくれて、ありがとう……」

 やはり自殺か……。

「もう、虐められるのに耐えられないや……」

「私も……心が黒い何かに塗り潰されていくみたいに、生きる気力がなくなっちゃった……」

 2人は他者を犠牲にすることもできないまま、破滅を選んでいた。

「俺たちが死んだことをラウンドたちが知ったらどう思うだろう?」

「きっと、ラウンドたちなら泣いてくれるよ。こんな私たちでも」

 そんな……

 そんな悲しいことを言わないでくれ!!

「ギサルムには悪いことをしちゃうな……」

「そうだね。こんな私たちとこんな長い間一緒にいてくれたのに……」

 だったら死なないでくれ……

「私、ギサルムに謝りたいな……」

「シミター?」

「だって、ギサルムはなりふり構わず私たちを助けてくれるんだよ。それを無駄にしちゃうんだなあって……」

 周囲が沈黙で包まれる。

「もう、やめよう。このままだと……死ねなくなる……」

「そうだね……」

 ブリッツはモーニングスターを、シミターは大剣を、それぞれ構えた。

 させるか!!

 俺は翼を羽ばたかせ、一気に2人に近付く。

 さっき拾った棒を2人の武器を同時に止められる位置に突き出す。

ガギッ!!

 金属と木材の擦れた音がして、2人の武器の動きが止まる。

「えっ!?」

「えっ……」

 ブリッツとシミターは、自分たちの自殺が阻止されたことに驚いていた。

 俺はすぐに翼を消す。

 これを2人には見せられないからな……

 俺は空気を吸い、大きな声を出した。

「お前ら……どうして、自分たちを殺す? どうして、自分たちばかり責める? 悪いのは、お前らなのか? 違うだろ!? 悪いのは、自分たちをこんなにした奴らじゃないのか!? 他人の命を奪ってでも、生きろよ……。この世界の人間全員殺してでも、自分たちの命だけは捨てるな!!!!!」

 涙を流しながら、怒りの声をぶちまけた。

「ギサルム……?」

「何で、ここに……?」

 2人とも、武器を手放し呆然としている。

「そんなことはどうでもいい……。お前らが死ななくてよかった……」

 怒りはすぐに消え失せ、2人が生きているという嬉しさだけが残った。

「……ギサルム……ごめん……」

「ヒック……ごめんなさい……ギサルム……」

 2人とも涙を流して、俺に謝っている。

 だが、その涙は死への辛さから来るものではないようだ。

 安心して力が抜けて、涙を流しているように見える。

「いいんだ……死ななければ……」

 俺たちは3人で泣き合った。

 互いを抱き寄せ、周りに世界がないみたいに泣き合った。

 俺は身体に違和感を覚えた。

 何かが沸き起こるようなそんな違和感を……

 俺の身体からどす黒い何かが溢れ出した。

 ブリッツの身体からは青い稲光が出ていた。

 シミターの身体からは灰色の閃光が出ていた。

「秘力?」

 ブリッツが俺たちを見ながら言った。

 秘力か……

 まさか、自分たちに宿るとは……

「なあ。お前ら……これからどうしたい?」

 俺はブリッツとシミターにこれからどうするかを質問する。

「え……」

「それは……」

 2人とも何と言えばいいのか悩んでいるようだった。

「ねえ、ギサルム……」

「何だ?」

「私たちは……人を殺してもいいの?」

 シミターが訊いてきた。

「そうしなきゃ、お前たちは生きていけないんだろ? だったら、殺すしかない」

 俺は声に力を込めて言った。

「殺してもいいんだ……。そっか……」

 シミターは俺の言葉を確認した後、安堵の表情を浮かべた。

「じゃあ、学校の奴らを皆殺しにしたい」

 ブリッツが俺に向かって言った。

「そうか。じゃあ、準備をしなくちゃな?」

 俺は2人に笑いかける。

「そうだね」

「うん!」

 ブリッツはモーニングスターを、シミターは大剣を拾った。

 だが、それはもはや自分たちを殺す道具ではなく、人々を殺めるための武器になっていた。

「人を殺すの楽しみだなあ」

「どんな感じなんだろう?」

 2人は、さっきまで自殺しようとしていたのが嘘であるかのように笑い合っていた。

 やっと生きるための手段を見つけたのだから当然か……

 そんな2人を見て、俺は棒に意識を集中させた。

 ただの棒が、槍と斧と鍵爪を備えた武器、ハルバードになった。

 共に殺戮を行う者として、2人の横に立つために……

 2人を支えるために、俺も殺戮者になろう。

「さて、どういう風に殺戮をするか……」

「俺は1人ずつ、嬲り殺したい」

「私は逃げ道を塞いで、一気に殺したいな」

 普通の人から見れば異常に感じるであろう会話をしながら、俺たちはゴミ山を下った。


 そして、次の日……

 俺たちはセントラル学園虐殺事件を起こした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ