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第10110話 創造主は何思う

 最後の日が消滅した後、真っ白な空間で俺は目を覚めた。

「ふぅー」

 俺は息を吐き、携帯電話を取り出した。

「さて、事情を聴かせてもらおうか? アシッグ?」

「くっ……」

「悪いが、お前が封じた俺の記憶は全部蘇っている。その証拠に……」

バリリリィィィィィィィィ!!!

 俺は自分の携帯電話を握りつぶす。

「分かったか?」

 俺は声を虚空に飛ばした。

「どうやら、本当に全部の記憶が蘇っちゃったみたいだね」

 空間一帯にアシッグの声が響き渡る。

「僕の負けだ。まさか、自力で振り切っちゃうなんて……」

 アシッグは非常に残念そうだ。

「で、聴きたいことって何だい?」

「俺がいったい何者なのか、お前がいったいどんな存在なのかは思い出した」

 俺は殺戮者。

 秘力を振るい、殺戮を繰り返す犯罪者。

「だが、まだこの空間の実態が分からない。是非とも教えてもらいたいな?」

「君の能力を使えば、すぐに分かるだろう?」

「あまり使いたくないからな」

 アシッグは少しの間を空けて、話し出した。

「ここは君を隔離するための空間だよ。ギサルム……」

「俺を?」

「そう。君の過去の記憶から作り出された、君を隔離するための空間。君を殺戮者のままでいさせないためのね」

「誰が作ったんだ? 今の言い方だと、お前が作ったわけではないみたいだな?」

「作ったのは……『創造主』だ」

「くっ……」

 この空間の作り主を知った俺は歯を噛みしめる。

 悔しさが頭の中を覆う。

 勝てるわけがないじゃないか……。

「『創造主』がこの空間を作り、僕がそのサポートに回った」

「じゃあ、空間をコントロールしていたのは、お前か?」

「うん。僕が管理を続け、君がこのままここで大人しくしていれば、君は殺戮者に戻らず、永遠の平穏な日常を送れるはずだった……」

 大人しくしていればか……

 ……。

 あんな日常で、大人しくしていられるか。

「それで、俺は過去の日常を過ごさせられていたのか……」

「そうだよ。全ては君を元に戻すために……」

「だが、何故ループさせた?」

 ループに気付いた瞬間、俺は不信感を覚えた。

 あれさえなければ、俺は気付けなかったと思う。

「君が殺戮者になるきっかけとなった日が出たからだ」

 ブリッツとシミターが自殺するあの日。

 あれが、俺の命運を分けたようだ。

「君に気付かれないように、僕はループさせるのと同時に、君の記憶を消去したけど……」

「完璧に記憶を消せなかったと?」

「1回目は何の問題もなかった。でも、2回目のループで君が記憶を保持していることが分かった。僕は記憶の消去を試み続けた」

 アシッグの声からは、どれだけ試み続けたかが分かる。

「だけど、そのせいでこの空間のメンテナンスが間に合わなくなった」

「それがあの異様な風景か……」

「僕は色の調整もやっていたからね。流石に並行作業の限界を超えていた」

「人形もお前が調整していたのか?」

「そうだよ。君の記憶の中に人間のデータは、ラウンド、ランス、ブライト、レアン、ファング、バレット、レフシィ、バルドス、クリス、カレン、ブリッツ、シミター、ウォーデンしかなかった。だから、他の人たちは人形に色をつけて人間みたいにしていた」

「なるほどな……。紙飛行機は空間内の操作端末ということで間違いはないか?」

「そうだよ」

 俺がおかしくなったり、世界がおかしくなったりしたわけではなく、あれが本来の姿だったということか。

 作り出されていた空間といい、俺がそんなものに翻弄されていたのかと思うと笑えてくる。

「後、俺が日常を破壊した時に見たあの閃光は、何の役割を果たしているんだ?」

「フォーマットだよ。君が人形たちを行動不能にしてくれたおかげで、メンテナンスが追いつかなくなっちゃってね。だから、人形が行動不能になった日はもう二度と来ないようにしたよ」

「それで、最終的にブリッツとシミターが自殺する日しか来なくなったのか」

「あの日が破壊されることは何としても阻止したかったからね。この日だけは人形を使って君を攻撃したよ。ごめんね」

「別にいい……」

 なるほど。

 だから途中から、アシッグと話せなくなったわけだ。

「まあ、ご苦労様だな。だが、アシッグ。お前の考えは間違っている」

「間違っている? 僕の考えの何が間違っているって言うんだい?」

「この空間が作られた理由だ」

「理由?」

「お前は、この空間が俺を殺戮者のままでいさせないための物だと言ったな?」

「うん」

「それはおそらく間違いだ」

「ここは君の過去を模倣した空間なんだぞ! そうとしか考えられない!」

「ならば何故、この空間での日々は、俺や他の奴らが虐められている日々しか繰り返さないんだ?」

「それは……偶然……」

「それはおかしいな。俺だって、いつも虐められていたわけじゃない。休日なら、家に籠っていたからそんなことは起きない」

「なら、君はこの空間の意味をどう捉えるんだ?」

「『俺を殺戮者として、再び目覚めさせるため』」

「そんな……」

「何故、この空間は俺の心を煽る?」

「それは……」

「日常を送らせるというよりかは、俺の他人を殺したいという意志を増長させているように思えるんだが……」

「……」

 アシッグが沈黙した。

 言い返せなくなったな。

「ともかく、僕はこの空間のことを君を癒すための空間だと思った。それでいいかな?」

「考え方はその人次第だからな。別にいいぞ?」

「なら良かった」

「それはそうと、ラウンドたちに会わせてくれ。人形たちと違って、あいつらは本物なんだろ?」

 俺はラウンドたちのことが気になった。

 あいつらは今どうなっているんだ?

「ギサルム、何を言っているんだ? さっき、僕が全部説明したじゃないか」

「説明した?」

「君の記憶の中に人間のデータは、ラウンド、ランス、ブライト、レアン、ファング、バレット、レフシィ、バルドス、クリス、カレン、ブリッツ、シミター、ウォーデンしかなかった。だから、他の人たちは人形に色をつけて人間みたいにしていた」

 何を言っているんだ?

 あいつらは本物で……

「それがどうしたんだよ。あいつらは、人形たちと違って空間がおかしくなってもそのままだっただろ?」

「まだ、分からないの?」

 アシッグの意外という雰囲気の声が響く。

「奴らも、君の記憶から作り出された存在だよ。他のと違って僕がメンテナンスする必要がないから、変にならなかっただけだよ?」

 アシッグが発した衝撃の事実。

 ラウンドたちですら偽物?

「この空間にいる人間はギサルム、君一人だけだよ」

 アシッグは淡々と俺に事実を突き付けてくる。

「まあ、会いたいんだったら会わせてあげるよ。君の記憶から作られた偽物の人間“イミテーション”とね」

 白だけだった空間が一瞬にして黒くなった。

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