第10101話 0となり世界は動きを止める
「お、ギサルムが来た!」
朝、俺はいつも通りラウンドたちと合流した。
「おっす! ギサルム先輩」
「おはようございます。ギサルム先輩」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう……ございます」
ブライト、レフシィ、レアン、クリス、カレンが俺に挨拶をする。
「おはよう」
俺は全員に挨拶する
「そろそろ行かないと遅刻するぞ」
バレットが教えてくれた。
――どうせ、ずる休みだよ
――そうだそうだ
――昨日、普通にしてたのに休むか?
――しかも、2人揃って……
陰口が飛び交ったが、そんなことはどうでもいい。
ピリリリリリリリリリリリリ!!
「はい。ギサルムです」
「ギサルム、僕だ」
アシッグからの電話だ。
「今日は……今日だけは……」
「悪いが、日常の行動は取らないぞ?」
「……」
そのまま、アシッグは電話を切った。
ピリリリリリリリリリリリリ!!
「はい。ギサルムです」
「……」
だが、ブリッツは返事をしない。
「ブリッツ……」
「ブリッツか。どうした?」
「……」
ブリッツは再び黙ってしまった。
「どうした?」
「えっと、ギサルムに言わなくちゃ……いけないことがあるんだ……」
「そうか。俺もお前に言いたいことがある」
「え?」
「絶対に助けてやる……」
「え!? え!?」
ブリッツは驚いたまま電話を切った。
ピリリリリリリリリリリリリ!!
再び携帯電話が鳴った。
「はい。ギサルムです」
「あ、ギサルム?」
今度はシミターだった。
「シミターか。そうだ。お前に言いたいことがあるんだ」
「あのね……え?」
「お前も絶対に助けてやる!」
「何を言ってるの? まあ、気を取り直して……じゃあね……」
シミターはそう言って、電話を切った。
ああ、そうとも。
絶対にお前らを助けてやる……
すぐに走り出す。
「ギサルム!? どうしたんだ?」
途中でバルドスに会ったが、今あいつに構っているわけにはいかない。
昇降口まで勢いよく降り、急いで靴を履いて昇降口を出た。
そして、学校から飛び出そうとした。
「コラァ!! お前、何しに行くつもりだァ?」
豪腕の球体関節人形が現れた。
だが、答えている暇はない。
俺は校門を乗り越えようとした。
「待てェ!!」
豪腕の球体関節人形が校門を乗り越える途中の俺の脚を引っ張った。
ドスーーーーーーン!!
「すぐに職員室に運んでやる。……覚悟しとけよ」
豪腕の球体関節人形は、地面に落ちた俺を乱暴に掴み運んで行った。
そのまま、俺の意識は途切れた。
だが、これでいい。
別にここで、こいつを倒したりという余計なことは考えなくてもいいんだ。
これからの行動にかかっている!
気が付くとそこは保健室だった。
「あ、やっと起きた」
テディベアが俺の目覚めに気づき、こちらに向かってきた。
「全く何をやっているの君は」
そして、叱ってきた。
「すみません!!」
俺は急いで、走りだした。
「あ、ちょっと……」
テディベアが俺を止めようとしたが、一足先に保健室を出ることに成功した。
そして、昇降口に向かい、靴を履き、走った。
何の意味も持たない日常は終わった。
これからだ。
昨日、思いついたことを実行する。
そう思いながら、スクールバスに乗り込む。
スクールバスには、たくさんの人形が乗っていたが、今は気にしている場合ではない。
ブリッツとシミターの自殺を阻止せねば……
――化け物!
そんな声が聞こえた気がした。
周りを見ると、やはり人形たちが首を動かしながら歌っていた。
そしてやはり、その奥の壁には大量に『化け物』と書かれていた。
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
ちょっと考えれば、すぐ分かることだった。
自分のことを考えれば、すぐ分かることだった。
思い出さなくても、考えなくても、すぐに実行に移せるはずだった。
何故できなかったかと言えば、記憶を幾重にも封じられていたからだ。
何個も何個も記憶が復元されていき、全部の記憶が復元されたと思っていた。
だが実際には、復元されてない最後の記憶があった。
それは、普通に生活している俺には、どうでもいいことだった。
ただ知っていれば、それだけでいいことだった。
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
虐められるのには何かしらの理由がある。
気に食わない、蹴落としたい、馬鹿にしたい……
色んな感情が理由になる。
絶対にこいつには勝てないから、虐めて孤立させてやろう……
そんなことも理由になる。
そして、虐める側は虐められる側の些細なことを指摘して、虐められる側を悲しませる。
他にも、虐める側が一番苛立っているところを、負のイメージでアピールする。
俺は今まで忘れていた。
何故、自分が虐められているのかを……
何故、ブリッツとシミターが虐められているのかを……
自分の一番の負の記憶なのに忘れていた。
いや、何者かによって忘れさせられていた。
ウォーデンに言われるまで、ずっと気づかなかった。
自分がいったいどんな存在なのかを……
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
俺は背中に意識を集中させる。
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
――化け物! 化けも……
ズサッ!
グジャ!
バシュン!
俺の背中から灰色の物体が伸びる。
木々の枝のようにどんどん伸びて、人形たちを串刺しにする。
「そうだ……俺は“化け物”だ!」
俺が虐められている理由……
それは俺の正体にあった。
パリン!
パリン!
パリン!
灰色の物体はどんどん伸び、バスを破壊し始める。
どんどん伸びて絡まり、禍々しい翼を作り出す。
「ふん!!」
俺はその翼を羽ばたかせる。
バリバリバリバリバリバリ……
バスの上半分は、俺の翼によって粉微塵になった。
俺は更にその翼を羽ばたかせる。
そして、俺は床を蹴り、飛びたった。
バスはそのままコントロールを損ない、何処かへ落ちて行く。
これが俺の正体。
俺の醜き正体。
ブリッツとシミターが虐められていた理由は、“化け物”にくっついていたから。
全部、俺のせいだ。
何かが俺に猛スピードで突撃してくる。
紙飛行機だ。
だが、俺がちょっとだけ動くとそのまま墜落した。
他の紙飛行機も突撃してくる。
だが、俺が避けると全部墜落した。
下から突撃してきた紙飛行機は空に激突した。
激突した場所から火が出た。
空も地面も煉獄と呼ぶに相応しい様相に成り果てた。
そして、俺はあの場所に辿り着いた。
例のゴミ置き場……
周りと同様、空も地面も火を噴き上げていた。
俺はその中に入る。
中に入ってしばらくすると、何か硬い物を蹴った。
それは剣ではなかった。
真っ直ぐに加工された棒だった。
俺はそれを手に取る。
そして、奥に進んでいく。
俺は、あのゴミ山の麓まで来る。
そして、頂上を見上げた。
人影は見えない。
だが、油断してはならない。
棒を構え、目を凝らした。
空間がわずかに歪み始めた。
それを見逃さなかった。
俺は翼を瞬間的に飛ばせるように変形させた。
空間の歪みが激しくなる。
俺は地面を蹴り、ゴミ山の頂上を目指して飛んだ。
歪みがだんだん人の形を取り始める。
人の形がはっきりし始める。
モーニングスターを振り上げるブリッツと大剣を構えるシミターになった。
同時にゴミ山の頂上に辿り着く。
飛んだ勢いそのままに、棒を2人の武器に当てる。
ガギッ!!
金属と木材の擦れた音がして、2人の武器の動きが止まる。
「えっ!?」
「何で?」
ブリッツとシミターは、自分たちの自殺が阻止されたことに驚いていた。
俺はすぐに翼を消す。
これを2人には見せられないからな……
俺は空気を吸い、大きな声を出した。
「お前ら……どうして、自分たちを殺す? どうして、自分たちばかり責める? 悪いのは、お前らなのか? 違うだろ!? 悪いのは、自分たちをこんなにした奴らじゃないのか!? 他人の命を奪ってでも、生きろよ……。この世界の人間全員殺してでも、自分たちの命だけは捨てるな!!!!!」
俺の身体からどす黒い何かが溢れ出した。
ブリッツの身体からは青い稲光が出ていた。
シミターの身体からは灰色の閃光が出ていた。
秘力が覚醒する……
そう思った時、辺りを光が包み込み始めた。
そして、上から何かが落ちてきた。
自分の目覚まし時計だった。
時間はだいたい7時5分を指している。
時計に刻まれている楕円に丁度斜線を引くような状態になっていた。
“0”




