第10100話 機械仕掛けの神を求める
「お、ギサルムが来た!」
「おっす! ギサルム先輩」
「おはようございます。ギサルム先輩」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう……ございます」
「おはよう」
「そろそろ行かないと遅刻するぞ」
まだ、この日が続く。
あともう少しで、ブリッツとシミターの死を止められたのに……
どうやら、2人の死に合わせて妨害を仕掛けなければならないようだ……
だが、どうやって2人の死に合わせる?
構えているだけでは遅い。
時間を調節するという方法もおそらく通用しない。
2人が出現した瞬間に、俺は既に動いていなければならない。
ゴミ山を登った後にその余裕はない。
しかし、2人の死を止めるためにはゴミ山の頂上に行かなければならない。
せめて、山登りをせずに2人の元に辿り着ければ……
――どうせ、ずる休みだよ
――そうだそうだ
――昨日、普通にしてたのに休むか?
――しかも、2人揃って……
ピリリリリリリリリリリリリ!!
「はい。ギサルムです」
「ギサルム、僕だ」
アシッグからの電話だ。
そうだ、こいつに訊いてみよう。
「今日は……」
「アシッグ。訊きたいことがある」
「……」
「体力を全て使い切った状態で動く方法はあるか?」
「無いだろうね」
「じゃあ、山登りをショートカットする方法は?」
「ロープウェイとか、飛行機だとか……」
「機械は使わずに」
「じゃあ、人間には無理だね」
「そうか……」
電話を切る。
どうせ、『いつも通りの行動を取ってくれ』と言うだけなのだろうからな。
人間には無理か……
「はい。ギサルムです」
「……」
少しの沈黙。
「ブリッツ……」
「ブリッツか……」
「……」
「どうした?」
「えっと、ギサルムに言わなくちゃ……いけないことがあるんだ……」
「何だそれは? 別れの言葉を言いにきたわけじゃないだろうな? まさか、自殺なんて考えていないよな?」
「え!? えっと……その……」
ピリリリリリリリリリリリリ!!
「はい。ギサルムです」
「あ、ギサルム?」
「シミターか。どうした? 別れの言葉でも言いにきたのか?」
「え!? すごいね、ギサルム。何で分かったの?」
「不穏な空気を感じたからな」
「そうなんだ。じゃあ、改めて……バイバイ……」
すぐに走り出す。
「ギサルム!? どうしたんだ?」
昇降口まで勢いよく降り、急いで靴を履いて昇降口を出た。
そして、学校から飛び出そうとした。
「コラァ!! お前、何しに行くつもりだァ?」
今回も駄目か!?
「やんのかああぁぁ!!」
ドスーーーーーーン!!
「すぐに職員室に運んでやる。……覚悟しとけよ」
「あ、やっと起きた」
「全く何をやっているの君は」
「あ、ちょっと……」
さて、どうしたものか。
アシッグにも不可能と言われてしまった。
また、バスを使うか?
それだけではまた同じ結果になってしまう。
いったい、どうすれば……
「ギサルム……」
え?
誰だ?
今まで、この場所で話しかけてくる奴はいなかったはずだ。
話しかけられた方向を向く。
「ウォーデン!?」
目の前には2年前に失踪したウォーデンがいた。
「久しぶり。こうやって話すのは2年ぶりかな?」
「どうしてここに?」
「……」
「どうした?」
「その質問はしないでくれない? 答えられないんだ……」
困った顔を浮かべている。
本当に答えられないのか?
それとも分からないのか?
「ギサルム。久しぶりに一緒に歩いてみたいんだ」
「あ……ああ……」
ブリッツとシミターの自殺阻止が見つからない今、こいつに付き合ってやってもいいか……
「歩くのはいいが、何処に行くんだ?」
「うーん……」
「まあいいか。適当にブラブラしよう」
俺たちは校門の外に出る。
そういえば、ブリッツとシミターの死ばかりが気になって、最近あまり周りを見てなかったな……
空を見上げてみる。
未だにあの血のような赤と毒のような紫で彩られていたが、前回見た時とははっきりと違う部分があった。
「空があんなに……」
空の大半は、赤と紫以上に虚無のような黒に覆われていた。
残っている空もところどころで、もうすぐ落ちそうな空もある。
「どうかした?」
ウォーデンが訊いてくる。
こいつにもラウンドたちと同じで見えてないのか……
「いや、何でもない」
今度は地面を見てみる。
が、こちらもズタズタだった。
区切られた部分を境に地面が凹んでいたり、突き出ていたり、あるいは斜めになっていたり……
上に乗っている建物は無事なのに……
と思って建物の上を見ると、紙飛行機がビルを吊りながら支えていた。
更に上空には補欠であろう紙飛行機が旋回していた。
これが俺の破壊の結果か?
特に根拠はないが、そんな気がした。
「ラウンドたちの様子はどう?」
唐突にウォーデンが訊いてきた。
「そうだな。気が狂いそうな世界で、普通に生活しているよ」
ウォーデンに詳細を伝えてもしょうがなかったので、抽象的に言った。
「気が狂いそうな世界?」
妙な興味を誘わせてしまった。
「ああ……」
しょうがない。
言ってしまうか。
そう思って、俺は今までのことを思い出した。
人形相手に俺を助けてくれたラウンド、
人形を睨むバレット、
人形と喋っているバルドス、
人形に告白されたであろうランス、
その状況を何事もなく見たであろうレアン、
変色したお守りを大切にするファング、
兄と共に人形を恐れないレフシィ、
異様な空間で普通に生活しているカレン、
変色した世界で何も気にせず生活しているクリス、
サイケデリックな空間で笑っているブライト、
そして、人形に連れ去られるシミター、人形に襲われるブリッツ……
……
「ギサルム?」
思い出せる状況はどれも酷いものだった。
どうして、今まで何もしなかったんだ?
繰り返す日常が嫌で色んな日を破壊してきたが、本当にやるべきはあいつらに気付かせてやることじゃなかったのか?
自分のためにしか行動できなかったこと、そして何よりあいつらが一番苦しんでいるはずなのにあいつらのことを全然考えられなかった自分が許せなかった。
あいつらもこんな世界で気が狂いそうなはずなのに……
「うっ……うっ……」
悔しさから涙が出てくる。
「ギサルム!? 大丈夫!?」
ウォーデンが横についてくれる。
「俺は……俺は、いつまでこんなところにいなきゃならないんだ!」
今まで堪えていた思いをぶちまけた。
「どうして、こんなところであいつらの笑顔を見続けなければならない!?」
ウォーデンがいることもお構いなしに叫んだ。
「……これは何かの拷問か?」
そして、叫んだ後は言い様のない虚無感に包まれた。
いったい、俺はどうすれば……
「大丈夫だよ。だって、“化け物”じゃん!」
ウォーデンがそんなことを言い出す。
“化け物”?
「“化け物”はどんなところに行ったって大丈夫だよ!」
ウォーデンは無邪気にそう言った。
励ましてくれているのだろうが、喧嘩を売っているようにしか聞こえない。
「お前、何を言って……」
「“化け物”はこんなところでも生きているんだよ!」
いや、待てよ……
ちょっとだけだが、あることを思い出す。
「……そうか!! ありがとな、ウォーデン」
ウォーデンの励ましに俺は笑顔を浮かべられた。
「え? 俺、特に何もしてないよ?」
「無自覚なら別にそれでもいい。希望が見えた」
俺はその場から去ろうとする。
それをウォーデンは腕を掴んで止めようとする。
「だがな、ウォーデン。お前がこの場に現れるはずはないんだ。じゃあな」
俺がそう言うと、ウォーデンは無言で手を離した。
さあ、明日になれ……




