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第10話 幸福な登校、不幸な下校

“1”


「何!?」

ガバッ!!

 俺は布団を蹴飛ばして起きた。

 まずい、また寝坊した!

 ……いや、ちょっと待て。

 俺は右肩を下に寝ていたから……

 3時15分……

 早起きしすぎた……。


「おーい。起きてるか?」

 俺は携帯電話でアシッグを呼び出した。

「起きてるよ。早いね。何かあった?」

「何もない。早く起き過ぎた」

 アシッグに状況を説明する。

「珍しいね。用も無いのに電話するなんて」

「そうだな……」

 思えば、アシッグとは作業の話しかしてなかったか……

「ところで、作業は順調か?」

 そして、作業の話しかできない。

「まあね。面白いくらいに捗っているよ」

「それは良かった……」

 しまった……話が続かない。

「ところで、最近の現実はどう?」

 アシッグから質問が飛んできた。

「そうだな。昨日は、テロのせいで遅刻して登校したのにすぐに帰らされた」

 精一杯の怒りを込めて言った。

「ハハハハハハハッ。お気の毒に」

「笑い事じゃない。せっかく、走ったのに無駄になった」

 アシッグに笑われた。

「そのテロなんだけどね。闇属性の秘力使いが起こしたらしいね」

「またか……」

 テロの中でも特に厄介なのが、秘力使いが絡んでいるものだ。

 秘力使いとは、秘力と呼ばれる特殊な能力を使う人間のことである。

 戦闘くらいでしか役に立たないが、一般人が銃を持つより、一般人が秘力を持つ方が遥かに戦闘力が上がるため、軍は重宝している。

 また、秘力の発生条件が分からないため、人為的に発生させることができない。

 噂では、死に直面したり、絶望したりすると発現するらしい。

 ただ一つ分かっていることは、ライティーン王国人しか秘力は持てないということ。

 そのせいなのか、ライティーン王国では秘力使いの殺戮者というのが生まれてしまう。

 というよりは、殺戮者の大半は秘力使いだ。

「で、その秘力使いは捕まったのか?」

「うん。割とアッサリだったらしいよ」

「そうか……。ふわぁぁぁぁ……眠くなってきた。じゃあ、切る」

「おやすみー。今日は遅刻しないでよ」

「ああ。分かってる」

 俺は携帯電話を切り、布団の中に潜った。


「お、今日はちゃんと来たな!」

 ラウンドが俺の方を見ながら大声で言った。

 今日は遅刻せずにいつもの待ち合わせ場所に着いた。

「まあな。そう何回も遅刻してたまるか」

「ずる休みはよくしてたけどな」

 バルドスがからかってきた。

「しかたないだろ……。家庭科で持っていく物分からなかったんだから……」

 実は1年生の時、家庭科の調理実習のある日だけ休んだ時期があった。

 1回調理実習を風邪で休んだ後、先生が次の授業の内容を教えてくれず、次も調理実習だったと知ったのは前日だったため休んだ。

 それだけなら良かったのだが、それが何ヶ月も続いてしまったのが問題なのだが……。

 家庭科の先生は、どうも俺の事が嫌いなようだ……

「やーい、ずる休み~」

「何をー」

 バルドスが煽ってきたので、俺はそれに乗った。

「やめんか!」

 バレットが俺とバルドスの間に入ってきた。

「何だよ。冗談だって」

「お前らだと何が起きるか分からないからな」

 バルドスは笑っているが、バレットは真剣だ。

「ギサルム、大丈夫か?」

 深刻な顔をして、バレットが近づいてきた。

 俺は頷いて、肯定の意を示した。

「兄さん、かっこいいー」

 レフシィがバレットを褒めている。

「ん……うーむ、照れるなぁ~」

 ちなみにバレットは兄馬鹿である。

「ギサルム、おはよう……」

「おはよう、ギサルム」

 ブリッツとシミターも来た。

 後は、ランスとブライトとレアンとファングとクリスとカレンだ。

 あれ?

 ラウンドがいるのにその弟たちがいないとはどういうことだ?

「ラウンド。お前の弟たちはどうした?」

「あれ?」

 お前も知らないのか……。

 と思っていたところに、レアンが何故か走ってきた。

「やあ、レアン」

「あ、ギサルムさん、おはようございます。あの、ちょっと手伝ってくれませんか?」

「何を?」

「えーとですね。ランス兄さんが女子から告白されて、それを見たブライト兄さんは暴れだそうとするし、ファングは世界の終わりだとうわ言のように繰り返しているのを、僕とクリスさんとカレンさんで解決しようとしたのですけれど、無理でした……ので助けて下さい」

 あー、ランス死んでほしい……

「何だと……ランスが告白された……だと?」

 ラウンドが物凄い形相でこちらに向かってきた。

 ラウンドもそこそこモテているとは言え、ランスには遠く及ばない。

「ムッコロす」

ヒュッ、ドーーーーーーーーーン!

 人間とは思えないスピードで、レアンが来た方向に向かって行った。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 直後、断末魔が聞こえてきた。

 さらば、ランス。

 いい奴だった。

「うおおおおおおおおお!! 兄貴、落ち着け!!」

「兄さん! 落ち着いて!」

 ブライトとファングの絶叫が聞こえてきた。

 お前ら、絶望に打ちひしがれていたんじゃないのか?

「ランス、大丈夫なのかな……?」

 ブリッツが俺に訊いてきた。

「大丈夫じゃないだろ……ちょっと行ってみるか」

 とりあえず、ランスの無残な姿を見に行った。

 辿り着いてみると、野獣と化したラウンドがランスに襲い掛かっていた。

 予想通り酷い有様だった。

「ラウンド落ち着いて!」

「そうだよ! ラウンドが好きな人だって……いるはず……だもん……」

 クリスとカレンは、オロオロしている。

「……。バレットとバルドスを呼ぼう。このままじゃ登校できない」

 俺は携帯電話を取り出し、おそらく待ちぼうけ状態であるバレットとバルドスを呼びだした。

 この後、ラウンドはバレットとバルドスの力業によって沈黙した。

 尚、時間には割と余裕を持ってあるので、学校に遅刻することはなかった。


 放課後。

 いつもならラウンドたちがいるのだが……

「あれ? 今日はお前たちだけか……」

「うん……。ラウンドたちは用事があるから、帰れないって……」

「今日は、私たちだけで帰ろう?」

 下校時の集合場所にいたのは、ブリッツとシミターだけだった。

「そうだな……」

 俺たちは歩き出した。

「久々だな。お前たちと一緒に帰るのも」

「そうだね……」

「ギサルム。何か面白い話してよ」

「面白い話なぁ……」

 だが、何分か歩いたところで不穏な気配を感じた。

――わぁ、あの2人。ギサルムと一緒に歩いてる……

――何であんなキモい奴と一緒にいられるんだろうね?

 後ろから女子の集団が近づいてきた。

「ギサルム……」

「無視しろ。何を言われても知らん顔するんだ」

 ブリッツが不安そうな顔をこちらに向けてきた。

 俺はいつからか虐めに適応してしまったが、ブリッツとシミターは適応できてない。

――ねぇねぇ。シミターだけでも助けようよ

――あ、それいいね

ダッダッダッダッダッ!!

 後ろから走り出す音が聴こえた。

 その音がどんどん近づいてくる……。

「あっ!?」

 シミターが、後ろから追い抜いて行く女子連中に引っ張られバランスを崩した。

 女子連中に引っ張られたシミターはぎこちなく走った後に転んだ。

「おい。シミターに何をするんだ?」

 俺は女子連中を睨みながら言った。

「何するんだだって」

「まじ受けるわ~」

 女子連中は互いに笑い合っている。

「あたしたちは、嫌々あんたらと一緒にいるシミターを離してやったんだよ!」

 女子の1人が俺に向かって怒鳴る。

「そんなことは……ない。シミターは友達だから……」

 珍しくブリッツが言い返す。

「あのね……あたしたちとこいつはあんたらより仲がいいの。ね? シミターァ?」

「…………」

 女子の1人はシミターに都合の良い答えを求めるが、シミターは泣いたまんまだ。

「ね? あたしたち仲がいいよね?」

「…………」

「仲がいいでしょう? 私たち?」

「…………」

「仲いいよね?」

――ちゃんと答えないとどういうことになるか分かっているよね?

 女子の1人が小声でシミターにそう言ったのが、かすかに聞こえた。

「ひっ……仲、いい……です……」

 シミターが小さな声で言った。

「えぇ~? よく聞こえないなぁぁ?」

 女子の1人がわざとらしく訊き返す。

「ギサルム……たちよりぃ! 仲がいいっです!」

 今度は大きな声で言った。

「よく言えたね~シミター。さあ、一緒に帰ろう!」

 女子の1人はシミターの肩に手を回すと、フラフラなシミターを強引に歩かせた。

「そんな……シミター……」

 ブリッツは驚きの表情で茫然と立っている。

 涙目のシミターがこちらに振り返る。

 その目は「助けて」と言いたげだった。

 だが、

「シミター。気にしなくていいの。あいつら、ただのゴミだから」

 その声と共にシミターは女子の海の中に呑まれ見えなくなってしまった。

 くそ……。

 肝心な時に足がすくんでしまった。

 シミターを助けられなかった……。

 久々の幼馴染3人での下校は最悪な物となってしまった。

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