第10011話 突きつけられる不可能の文字
「お、ギサルムが来た!」
「おっす! ギサルム先輩」
「おはようございます。ギサルム先輩」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう……ございます」
「おはよう」
「そろそろ行かないと遅刻するぞ」
ここのところ、ずっとこの日が続いている。
何故だ?
ひょっとすると、あの日々は俺が壊してしまったから、もう来ないのではないだろうか?
何となくだが、そんな気がする。
だとすると、俺は自分の首を絞めるために行動していたということになる。
いや……
狂った世界での、友達が笑っている姿、人形たちの生活する姿……
とても耐えられたものではない。
そして、もしその日を壊したら二度とその日に行けないとすれば、この日さえも壊してしまえばいい。
――どうせ、ずる休みだよ
――そうだそうだ
――昨日、普通にしてたのに休むか?
――しかも、2人揃って……
ピリリリリリリリリリリリリ!!
「はい。ギサルムです」
「ギサルム、僕だ」
アシッグからの電話だ。
「今日は……今日だけは、日常の行動をしてくれ」
「……」
「いつも通りの行動を取ってくれ」
そういえば、この日だけはアシッグの行動が変化しないな。
「はい。ギサルムです」
「……」
少しの沈黙。
「ブリッツ……」
「ブリッツか……」
「……」
「どうした?」
「えっと、ギサルムに言わなくちゃ……いけないことがあるんだ……」
「何だそれは? 別れの言葉を言いにきたわけじゃないだろうな? まさか、自殺なんて考えていないよな?」
「え!? えっと……その……」
ピリリリリリリリリリリリリ!!
「はい。ギサルムです」
「あ、ギサルム?」
「シミターか。どうした? 別れの言葉でも言いにきたのか?」
「え!? すごいね、ギサルム。何で分かったの?」
「不穏な空気を感じたからな」
「そうなんだ。じゃあ、改めて……バイバイ……」
すぐに走り出す。
「ギサルム!? どうしたんだ?」
昇降口まで勢いよく降り、急いで靴を履いて昇降口を出た。
そして、学校から飛び出そうとした。
「コラァ!! お前、何しに行くつもりだァ?」
破壊してやる……
今度こそは……
「やんのかああぁぁ!!」
ドスーーーーーーン!!
「すぐに職員室に運んでやる。……覚悟しとけよ」
「あ、やっと起きた」
また、駄目だったか……
「全く何をやっているの君は」
だが、こんなことをしている場合ではない。
「あ、ちょっと……」
何の意味も持たない日常は終わった。
これからだ。
今までは何故か歩いてゴミ置き場に向かっていた。
だが、それではどう考えても間に合わない。
この学校には、一応スクールバスというものがある。
そのうちの1つは、例のゴミ置き場の前を通る。
今回は、それを使わせてもらう。
スクールバスには、たくさんの人形が乗っていたが、今は気にしている場合ではない。
ブリッツとシミターの自殺を阻止せねば……
――化け物!
そんな声が聞こえた気がした。
周りを見ると、人形たちが首を動かしながら歌っていた。
その奥の壁には大量に『化け物』と書かれていた。
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
人形たちを倒しても、このコールが鳴りやむはずがない。
人形たちは意地でも、自分たちの行動をやめない。
破壊したとしてもずっと続くだろう。
俺は化け物コールを聞きながら、ゴミ置き場まで行かなければならないようだ。
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
――化け物! 化け物!
早く……もっと早く……
思ったより時間がかかってしまった。
やっと、着いた……。
立入禁止の看板が掲げられているゲートを乗り越えて、中に向かう。
何か硬い物を蹴った。
足元を見ると、それは剣だった。
危ない危ない……
もう少しで脚を切断してしまうところだった。
奥へ進んでいっても、嫌な臭いはしなかった。
鉄のような臭い……
血の臭い……
そんなものは、一欠けらも感じなかった。
俺は、あのゴミ山の麓まで来る。
そして、頂上を見上げた。
人影は見えない。
俺はゴミ山を登った。
俺はゴミ山を登り続けた。
ゴミ山の中腹まで来たとき、俺はもう一度頂上を見た。
人影は見えなかった。
そのまま、俺は登り続けた。
そして、頂上にやってきた。
ブリッツとシミターはいない。
「間にあったのか……?」
ハァ……ハァ……ハァ……
必死に登ったため、身体が限界だった。
後は2人を止めれば……
ブォォォン!!
ブォォォン!!
目の前の空間が歪む。
突然、俺の目の前にブリッツとシミターが現れた。
モーニングスターを振り上げるブリッツと、大剣を構えるシミターが目の前に現れた。
驚きのあまり一瞬、行動が遅れてしまった。
「お前ら、やめ……」
グシャァァァァァァァァァァァ!!!
ズシャァァァァァァァァァァァ!!!
頭部が潰される音と腹部が貫かれる音が響いた。
目の前には、2つの『死体』があった。
片方の死体は大剣を持ち、もう片方の死体の腹部を貫いていた。
もう片方の死体はモーニングスターを持ち、片方の死体の頭部をグシャグシャにしていた。
また、2人の死を阻止することができなかった。
しかも、今度は阻止できたかもしれないのに……
いったい、どうすれば2人の死を止められるのだろうか?
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
俺は、自分が何もできなかった悔しさから絶叫した。




