第1111話 剥がれゆく偽りの仮面
「ふぅ……」
リュックサックを机に下ろし、ため息をついた。
「今日はこの日か……」
リュックサックから、ファイルを取り出しその中からプリントを取り出した。
「よっ! ギサルム!」
ラウンドがやってきた。
ダッダッダッダッダッ……!!
続いて、廊下から走る音が聞こえてきた。
「ギサルム!!」
走ってきたのは、バルドス。
2人は並び、口を揃えてこう言った。
「宿題、見せてくれ!」
「はい」
2人の争いを見るつもりはないので、手早く宿題を渡した。
「うおー!」
「やったー!」
2人はまるで子供のように喜び、宿題の書き写しを始めた。
1分もしないうちに……
「できたー!」
「ありがとな、ギサルム。おかげで助かった」
バルドスが俺に宿題を返しながら言った。
「じゃあなー」
そして、自分の教室に走って帰っていった。
それと入れ違いに先生が入ってきた。
「気を付け! 礼!」
バレットが号令をして、着席した。
「今日はまず宿題を回収しまーす。全員、自分で出してねー」
先生の声を合図にクラスの全員がプリントを持って、教卓に向かった。
教卓の上に積み重ねられた宿題の上に俺の宿題も置き、そのまま机に戻ろうとした。
「ギサルム。宿題どうだった?」
俺の横にいたブリッツが訊いてきた。
「どうした? 急に」
「いや、別に……」
「そうか。まあ、楽だった」
実際は宿題をやってすらいない。
初めから用意されていた……。
「そう……」
ブリッツは、特に何かを返すわけでもなく机の方に行ってしまった。
実際のところ、ブリッツは自分で宿題をやったのだろうか?
まあ、そんなことはどうでもいい。
日常を破壊しなくては……
パッ!!
前と同じく、また場面が一気に替わった。
「気を付け! 礼!」
「ごちそうさまでしたー!」
給食を食べ終えると、ブリッツがそそくさと教室から出ていった。
図書室へ行くのか……
時間を見計らって、行くとしよう。
ガラガラガラガラ……
いつも、図書室に入るタイミングで図書室に入った。
この直後に……
ガラガラガラガラ……
――ブリッツ、いるか?
――ああ。間違いないここにいる……
男子の声で喋る球体関節人形が俺の後から入ってきた。
――お、いたいた。
――本を読んでやがるな
そう言いながら、ブリッツがいるところに向かっていく。
「なあ、ブリッツ」
数人のリーダー格役の球体関節人形は、ブリッツに話しかけている。
おそらく、本来ならば『自分は友好的ですよ』とアピールしている顔で。
実際は、等身大の球体関節人形が人間の顔を覗きこむという奇怪な状況になっている。
「な、何……」
「お前、今日の宿題、親にやってもらっただろ?」
怯えているブリッツの声が聞こえてくる。
「じ、自分で……やったよ……」
「はぁ? 本当のこと言えよ」
「そうだぞぉー。本当のことを言いな」
「だから、自分で……」
「あ?」
「嘘ついちゃいけないんですよ~」
「そんなことも分からないのかな?」
どんどん球体関節人形が、ブリッツに寄って行く。
しかたがない。
俺は、勢いよく飛び出し、
「お前らぁぁぁぁぁぁ!!」
球体関節人形を突き飛ばした。
ドンッ!
鈍い音と共に球体関節人形は本棚に激突した。
「てめぇ……」
だが、飛ばし方が甘かったようで、球体関節人形はバラバラになっていない。
「あれれぇ~? 暴力なんてするんだ。成績優秀者が」
「しかたないですよ~。だって、あいつ“化け物”だし」
「社会のルールってのが分からないのかな?」
次の瞬間、他の球体関節人形が俺に襲い掛かってきた。
ドタン! バタン! ドン! ダン! ガス!
殴られ、蹴られ、叩き落され、踏みつけられた。
やっている奴らの顔は笑顔だ。
顔の部分に貼りつけられた笑顔で俺を見下している。
だが、すぐにあることを思い出した。
球体関節人形たちは、同じ日常ならば同じ行動しかとれない。
俺は人形たちの攻撃が一瞬止んだところで、人形たちの包囲から抜け出した。
球体関節人形たちは、俺がいなくなったことに気付いていないかのようにそのまま攻撃を続けた。
当然、空を切ることになるため、球体関節人形たちは勢いそのままに倒れた。
「ブリッツ、ちょっと貸せ」
俺はブリッツが読んでいた本を手に取った。
そして、依然攻撃をし続ける球体関節人形の下に向かう。
重なり合い、腕や脚の部分が蠢くその姿は醜悪としか言いようがない。
俺は勢いよく本を振り上げ、
ガスッッッ!!
球体関節人形たちに振り下ろした。
無論、球体関節人形たちはバラバラだ。
だが、それでも彼らは動くことをやめない。
「まだ、足りないか?」
ガスッッッ!!
ドスッッッ!!
ダスッッッ!!
更に関節ごとに破壊していく。
そして、遂に球体関節人形は、動きを止めた。
「大丈夫か?」
「うん……」
ブリッツは心底怯えていた。
何か言いたそうだが、怯えて言葉にできないようだ。
「先生、こっちです」
しばらくすると、知らない女子の声が聞こえた。
「お前ら、何やっているんだ!!」
先生は怒鳴り声を発して、向かってきた。
勿論、パペット人形だったが……
「何って、人ぶっ飛ばした奴を懲らしめているんですよ」
バラバラになった球体関節人形が、何かほざいている。
「とにかく、やめなさい!」
パペット人形の怒鳴り声がまた響く。
「は……はい」
もはや、暴力は終結しているというのにこのやり取りだ。
「大丈夫か?」
パペット人形の声に返事はしなかった。
「ちぇっ……こいつが、俺らの友達をぶっ飛ばしたってのに……」
球体関節人形がぼそっと言った。
「何!? それは本当か?」
パペット人形が俺に訊いてきた。
――何で、面倒臭いことをするんだ。
何も言っていないにも関わらず、そんなことを言われた。
パペット人形の怒りの視線が俺に向けられる。
「とにかく、お前ら絶対に暴力をするんじゃないぞ! いいな!」
そう言って、パペット人形は俺たちを図書室から強制的に出した。
――ちぇっ。せっかく楽しかったのに……
――もう昼休みも終わっちまう。帰ろうぜ
球体関節人形たちはそう言っているが、バラバラになったため動けない。
作られた日常に身を任せているのは、面白くない。
例え、友達がいたとしても……
いや、むしろ友達がいればこそ、彼らが苦しむところを何回も見たくない。
だからこそ、繰り返される日常を破壊する。
その決意を改めて自分に言い聞かせた時、窓の外が白くなっているのが見えた。
閃光が辺りを包み込んだ……




