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第1010話 人まねの人形の狂おしき宴

“1”


ガバッ!!

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「どうかしたの?」

 アシッグの声が聞こえてくる。

 携帯電話を繋げたまま、寝てたのか?

「なあ、アシッグ。俺は正常だよな?」

「どうしたの?」

「昨日、女子の声で喋る人形に遭った……」

 あの奇怪な状況をどう表現していいか分からなかった。

 だが、俺は確かに見た。

 シミターを連れ去る球体関節人形を……

「なあ、アシッグ……。俺はいよいよ頭がどうにかなってしまったんじゃないか?」

 自分でも信じられない。

 あんなことが現実で起こり得るはずがない。

「人間が人形に見えるなんて、どう考えてもおかしい」

 自分が見たものを信じられなくなった。

 何もかもが改変されて、目に飛び込んでくる。

 そんな感覚に陥りかけていた。

「この前はきつく言ったが、やはりあれも夢だったのかなあ……」

 ブリッツとシミターが死んだところを見たのも夢。

 昨日起こった出来事も夢。

 全てが夢……

 そう思いたくて、しょうがなかった。

「……アシッグ?」

 あれ?

 独りで喋っていて、アシッグの反応がないことに気付かなかった。

「……え?」

 珍しいな。

 アシッグが、他人の言葉をうわの空で聞いているなんて……

「……大丈夫だよギサルム。君は正常だし、頭もおかしくなっていない。僕とちゃんと喋れているじゃないか」

 アシッグは俺を励ましてくれている。

 だが、自分が正常であるという自信が持てない。

「ギサルム。今日は土曜日だ。外に出てリラックスした方がいいんじゃない?」

 そういえば、今日は土曜日か。

 時計が8時45分を指しているにも関わらず、こんなにも冷静でいられるのはそのせいか。

「そうだな。じゃあ、また後で……」

 携帯電話を切り、服を着替えた。

 本当は外に出ることはあまり好きではない。

 だが、俺の心の乱れが昨日のあの状況を作り出したのならば、それを治さなければならない。

 そう思って、俺は外に出た。


 空は、血のような赤色。

 雲は、毒々しい紫色。

 そんなものが扉を開けた瞬間、目に飛び込んできた。

 夕焼けのせいで……と言った生易しい色合いではなく、人工的な、人の頭を蝕むようなそんな色をしていた。

 毒によって、人の肉が朽ち果て、ドロドロに溶けていった末。

 そんな表現が俺の目の前に広がる空には、一番合っていた。

「あら。ギサルム君」

 近くに住んでいるお婆さんの声がした。

 俺は、声がした方向に向いた。

 だが、そこにいたのは、お婆さんではなく……

 猿の人形だった。

 目を見開き、口をだらしなく開け、シンバルを手に持った猿の人形だった。

「どうしたの?」

 猿の人形がどんどん近づいてくる。

 近づいてくる度にその姿はどんどん大きくなっていった。

「ねえ? 私に何かついている?」

 いつの間にか俺の目の前まで来ていた猿の人形はとんでもない大きさになっていた。

 そして、俺とほぼ同じサイズになった血走った目でこちらを覗き込んでいた。

「い……い……いえ……いえ……何も……」

 俺は後ずさりをしながら、そう答えた。

 どういうことだ!?

 人ばかりではなく、空まで変になった。

 怖くなって、下を見ながら全力疾走した。

 だが地面は、空の鏡であるかのように血のような赤と毒のような紫に染まっていた。

 そして、作り物であるかのように正方形に区切られていた。

 俺は目を瞑って走った。

 目から恐ろしさの余り涙が出てくる。

カタ……カタ……

 木材がぶつかる音が聞こえてきた。

カタカタカタカタカタカタ

 だんだんその音が増えていく。

カタカタカチャカタカチャカカタタカチャ

 その音は増えていくが、気にすることはできない。

 早く正常な世界を見たい。

カチャカチャカカタタコチャチャカシャリ

ガッシャーーーーーーーン!!

 遂に何かに衝突して転んだ。

 恐る恐る目を開けてみた。

 そこには……ばらばらになった木製の操り人形があった。

「いててててて……」

 ばらばらになった操り人形が喋った。

――危ねえな……急がなきゃいけないのに……

 糸もないのに独りでに立ち上がり、去っていった。

 手が頭に、頭が足に、足が胸に、胸が手になっているにも関わらず、何事もなく去っていった。

 いつの間にか、辺りは木製の操り人形に囲まれていた。

 手には同じ様なバックを持ち、縦横無尽に歩き回っていた。

 その向こう側には、カビが生えたような色のビルが立ち並んでいた。

グイィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンン

 紙飛行機みたいな格好の飛行機が飛来した。

 先端部でビルを持ち上げ、何処かへ持っていく。

 ビルが無くなったのに、木製の操り人形は特別な反応を見せない。

 まるでそれが当然であるかのように、俺しか気づいていないみたいに……

――ねえねえ見て見て!

 無邪気な子供の声が聞こえてきた。

 そちらを見ると、手足と胴体が紐で繋がれた人形が複数体いた。

バリッ!!

――あの人どうしたんだろうね?

――なんか、悲鳴あげていたけど何があったんだろう?

 手足を動かせない人形たちは、頭を傾かせて話しているポーズを取る。

――ひょっとして、化け物なんじゃない?

 どの人形から発せられたのかは分からないが、そんな声が聞こえてきた。

バリバリバリッ!!

――化け物?

――だって、フツーの人は絶対にそんなことしないもん

――そっかー! 化け物かー!

――やーい化け物!

 人形たちは俺を嘲笑う。

バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!

 人形たちの上に赤い物体が落ちた。

――化け物! 化け物!

――化け物! 化け物!

――化け物! 化け物!

 赤い落下物に気にも留めず、無邪気な声を出している。

バリバリバリバリバリバリバリ!!!!

 更に赤い物体が落ちる。

 俺は、落ちてくる先を見た。

 血のように赤いはずの空のその場所だけが黒くなっていた。

 黒と赤の境目近くの赤い空が先程から聞こえる音と共に剥がれる。

 ……空が落ちている。

グイィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンン

グイィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンン

グイィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンン

グイィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンン

グイィィィィィィィィィィィィィィィィンンンンン

 紙飛行機がビルを吊り下げながら、辺りを旋回している。

 更に多数の機影が迫っているのも見える。

 俺の目の前には、

 赤と紫で彩られた崩壊する空、

 区切られた鏡のような地面、

 カビの生えたビル、

 ビルを吊り下げる紙飛行機、

 そして人間のように動く無数の人形が蠢くという異様な光景が完成していた。

 俺が悲鳴を上げかけた時、全てを包み込むような閃光が辺りを照らし、俺は気絶した。


“1”


「リラックスできた?」

 アシッグが俺に訊いてきた。

 できるか。

 あんなのを見せられて……

「とりあえず、俺が見た人形が紛れもない現実であることは確認できたかな……」

 俺は呟くように言った。

 全てが夢であって欲しかったが、その希望は脆くも打ち砕かれた。

「そう……」

 アシッグは特別な反応はせず、ただ返事をした。

「ふわぁぁぁぁぁぁぁ」

 大きな欠伸をした。

 今日は疲れた……。

「おやすみ、ギサルム……」

「おやすみ、アシッグ……」

 時計の針は、6時30分より少し後を指していた。

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