表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

兆候の獄

scar/trace

作者:

 白い糸が張り巡らされた廃病院に〝それ〟は巣食う。


 灯りのないタイル張りの廊下。

 秒針に合わせて、まるで遊んでいるかのように這いずり回る。

 私は噛み千切られた肩から血を流し、脚を引き摺って〝それ〟から逃げている。


 身体に回る毒素。神経からじわりと侵されてゆく感覚。

 糜爛する皮膚が布に貼り付く。先の見えぬ不安に足が竦んだ。

 散乱した空瓶、針のない注射器。蟲に喰われたベッドは見るも無惨な姿だ。そしてそこに這う二つの眼光は──。


 朦朧とする意識の中で、私は考えていた。

 此処は、何処だ──?

 知らぬ間に迷い込んだ廃病院で、得体の知れぬ蜘蛛に噛まれ出口を見つけようと••••。



 暴力的な朝日に、私は目を開いた。

 白いコードが張り巡らされ、灯りの消された病室。ダニだらけのベッドで身を倒す私──。

 嗚呼、また怖い夢を見たようだ。


 秒針に合わせて動く看護師。注射器で瓶から液を吸い上げ肩に刺せば、彼女たちの仕事は終わりだ。僅かに出血したそこを消毒し、去ってゆく。

 私は彼女たちを呼び止める為、長年降りることのなかったベッドから転げ落ちる。しかし運動を忘れた足は、思うように動いてはくれなかった。

 タイル張りの床に腹を付ける。訪問者の無い床は、酷く冷たかった。

 僅かに残った腕の力で、廊下に続く扉を目指す。


 そう。あの廃病院をゆっくりと這う、大きな〝それ〟のように──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ