ハジマリ
才:生まれつき持った能力。才が無いと扱えない魔法や魔道具が存在する。例をあげると呪符や陣術。
武装召喚:才の一種。異次元から武具と【定義】された物を召喚、もしくはリターン(収納)する事が出来る。物を収納するには、収納するものをある程度熟練しなければならない。
【定義】:物、空間、人間、あらゆる物に規定された世界の理。一つの物質には何千何万と決められた【定義】が存在する。例をあげると剣は【柄】【刀身】【鉄】etcなどが定められている。
ビチャ……ビチャ……。
靴底が踏みしめた泥が粘着性を持って貼りついてくる……そんな沼地の様な森をを歩く一人の青年がいた。
「……ふぅ」
あまりの地理の悪さにバイクでの進行が不可能なため、仕方なく徒歩で歩くのはラスネイド・メルフ。世界中の観光土地を巡って旅を続けているが……流石にこれは精神に堪える。
ジメジメした空気。鬱蒼と茂った木は太陽の光を殆ど遮っている。横を見れば謎の菌類がウネウネとクネり、うっかり近づいた冒険者を絡め取ろうと待ち構える。
「…………」
苦労が旅の醍醐味ではあるものの、これは少々度が過ぎてはいないだろうか……そんな考えが頭をよぎっていく。
鬼人の領土……「デラブレム(未定)」を巡ることを目的としたラスネイドは魔界から出航している船に乗り、この地に降り立った。鬼人の首都「(未定)」や世界最大の火山等いくつかの選択肢はあったが、魔界で携帯魔肉などのストックは既に多く貯め込んでいるので、長丁場になりそうな《フェリダイル》を目指すことにした。
そして現在。
目的地の道中にあった沼地森林に時間を取られ、予想外に刻が過ぎていった。
携帯魔肉のストックはまだまだあるものの、早く通り抜けなければこの先の分が持つかわからない。
それより……この森はどこまで続くのだろうか。この森に入って既に3日が経とうとしているのだ。そろそろ出口が見えてきてもおかしくは無いだろう。
しかし……突然前方から何かの殺気を感じた。
暫くして、巨大な樹木の横から這い出してきたのは中型モンスター【ペドロ】。
泥の様な体を持ち、物理的な攻撃を吸収してしまう厄介なモンスターだ。魔法により泥を散らして、ペドロ体内にあるコアを壊さない限り死滅はしない。
この森に限らずこの世界には多くの生物が存在する。その多くは独自の生態系を持ち、時には人間を捕食する事もある為、戦闘職を除く人間は一人で街や村を出歩いたりはしない。ラスネの職はモンスタースレイヤーである為、出会った魔性動物を討伐しその証拠を一定の機関に差し出すことで少量の報酬を得る。
モンスタースレイヤーは偽装報告の可能性……例えば他人に狩ってもらった素材を証拠として持っていく等、そういう可能性がある為いくつかの制限があるが、信用を得たスレイヤーはその証として職紋という証明書を発行して貰う事が出来、それによって報酬の量が変わってくる。
……話が逸れてしまったが、ペドロは既に数メートル先まで接近してきた。
一瞬動きが止まり、泥の様な体から弾丸の様な泥が数発飛んできた。体をずらしてラスネイドはそれを回避する。
ペドロは再び弾丸を発射するため、動きを止め……次の瞬間ラスネイドの真横を閃光が3発通り過ぎていった。
ペドロに直撃し、閃光は大きく泥を散らしていく。
尚も後ろから閃光を飛ばしているのは……40代前半に見える男性。知った顔では無かった。
その男性は大声でこちらに声をかける。
「おい!そこの青年!気をつけてこちらに来なさい!」
……この程度の雑魚、一瞬で蹴散らせるが持ち癖のメンドクサ病を発病したラスネイドはそれに従って男性に近づいて行った。
その時、後ろで大半の泥を散らされたペドロが反撃を行おうと泥を飛ばす。それが男性に迫り……
ラスネイドの武装召喚で現れた巨大な盾がそれを防いだ。
男性は先程の攻撃に驚き尻もちをついている。
「な……君は何者だい…?」
ラスネイドはそれに答えず、盾を大きく振りかぶり……投げた。
それはペドロの体ごと吹き飛ばし、巨大な樹木に挟まれ爆散した。
「はっはっは!それは情けねぇなヤムナイ!」
「五月蠅いなぁ。襲われてた青年が強すぎただけだろう!」
ここは森をある程度進んだ先にあった村【ベンダイム】。助けて貰った男性が自分の住んでいる村に案内してくれたのだった。
村に着いた後ラスネイドは驚いた。他の鬼人の町からかなり離れているハズだが活気に溢れ、かなり発展しているのだ。
そして先程ヤムナイと呼ばれた男性が扱っていた弓……あれは━━━
「にしても青年……どうしたらペドロにあんな攻撃出来るんだ?色々規格外じゃねぇか」
ラスネイドはまず酒屋に連れまわされ、辺りの喧騒に慣れ合えず一人でコーヒーを啜っているとヤムナイがそう声を掛けてきた。
「どう……って普通に投げただけだが……」
「普通に投げてあんな威力出る訳ないだろう!」
村特製の酒なるものを飲んだヤムナイ達の顔は火照っていて、これはダル絡みされそうな雰囲気である。
「んじゃあ俺と腕相撲しようぜ!」
困った。
来たばかりの村で呑みに付き合わされた挙句、これだ。手加減したらいいのか、例え手加減したところでバレてしまうだろう。
「コラァ!せっかく来なすった客人を困らせるんじゃない!」
そこでタイミング良く現れたのは村長だった。
どこにでもいそうな普通の村長……そう思ったが失礼なので心にしまっておく。
村長が現れたことで呑みは中断。ラスネイドを連れ村長の屋敷でおもてなしまでするという流れになった。
ではでは風師の旅を物語を通して楽しんでください。