第六十八話
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昼間活動するモノはすべて寝静まり。
夜中活動するモノがうごめく夜の闇。
月はそれらをほろほろ照らす。
そんな静寂の中。
あたかもそこに居たかのように姿を現した黒いローブの者。
その者は目深にフードをかぶっており、足元には黄色く光る魔方陣。
これによって地面から数センチ浮いており、足音も衣擦れも聞こえない。
ローブを着た者はスッと、小さくも無ければ大きくもない、程よい大きさの家の戸口の前に行き、それを叩いた。
しかし、今は深夜。
出てくる者などいない。
ローブの者はこれを知っていたのか、口元に笑みを浮かべ、戸口の真上にある窓を見た。
「『浮かべ。飛べ。我の意のままに』……』
小さな呟き。
しかし、足元の魔方陣はこれに反応し、すぅっと上昇。
ローブの者は、目的の窓に手を伸ばし、触れるか否かで止め、クスッと笑った。
「……こんなの何の意味もないのに」
そう言ってローブの内側に手を入れ、紅く透き通った鍵を取り出し。
鍵の先を窓に。
すると、鍵が当たった場所がぐにゃりと歪み、窓枠の大きさに開き、窓の鍵も開いた。
満足げに握っている鍵をローブの内側にしまい、その者は窓を開け、ふわりと室内に侵入。
その後、スッと置いてある寝台に近づいた。
寝台には肩で切りそろえた、まっすぐな灰色の髪を持った優男。
彼を見て、ローブの者は足元に発生させていた魔方陣を消した。
そして、ローブの者は屈んで、彼の耳元で小さく囁く。
これと同時にローブから、するりと一房流れた、雪のように白い髪。
「……お・き・て…………?」
「ぅ…………。ん~……」
可愛らしい声で囁かれは方の男は顔をしかめて、顔をそむけた。
「くすっ……。こんなに無防備だと、悪戯したくなっちゃうんだよねぇ~。うふふふ……」
実に楽しげに静かに言い。
かぶっていたフードをとった。
現れたのは長い白の髪に、大きなアイスブルーの瞳を持つ、人形のような少女・クー。
彼女は左手の人差し指を唇に当て、小首をかしげる。
「なにしちゃおっかなぁ……。ぅ~ん、ウェルのおかげで『魔導師は何をしたら死にかけるか』ってのわかったし。今は実験してないから、実験体必要ないんだよねぇ…………。あ、そうーだ!」
何かひらめいた様子でにっこり笑うと、ウェルコットの腹にまたがり、軽く腰を下ろすと。
両手で彼の顔をつかんで顔を近づける。
すると何かをさっしたのか、ウェルコットがパチッと目を開けた。
それから、目を丸くしてパチパチと瞬きし――――。
「……?! ぅぎゃあぁぁぁぁあああぁぁ!!!!!!」
絶叫。
すかさず頭を置いていた枕をつかみ、接近してくるクーの顔に押し付けた。
そして彼の絶叫に驚き、血相を変えて駆け付けたシルヴィオたちはこの光景に絶句した。
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