第六十七話
その後。
毛長黒豚猫は完全に居付き、我が物顔で巨体を揺らして家の中を闊歩するようになり。
夜は寝台の上。
しかも、いじめかと言う程ド真ん中で手足を投げ出し、シルヴィオの寝床を占領するまでになった。
そのころの彼の日課は、軍での書類書きに加え、兵士たちの訓練を午前中に片付け。
午後は家はあるが、家族が居ない。
そんな者たちが集まるファバル国内各地の教会を、一日ごとに周り。
子供達に勉強と武術を教える。
そして一月に二度。
集まったご婦人方が手慰みに、と作った品々を受け取る。
受け取ったその日は子供たちの勉強と武術は休み。
各国を訪れ、販売。
ファバルのご婦人方が作った品々は、どの国に行っても飛ぶように売れ。
あっと言う間に無くなる。
こうしてシルヴィオは売り終わると帰国し、収益金をご婦人方に渡す。
しかし、彼の一日はこれで終わらず、帰宅後はフォードたち子供に勉強と武術を教えている。
もちろん外は暗いが、そこはウェルコットが家を建て直す際。
ファムローダでは主流の灯りを発する装置をリビングの天井に設置した。
装置は朝は光を吸収し、光を発し、室内を照らす。
光の強弱やオンオフは、彼が作る際に送り込んだ魔力によって、壁に設置されたボタンで行うことができる優れものだ。、
いっそこれをすべての部屋に取り付ければよかったのだが、彼の体力の都合で、リビングだけにしか取り付けが不可能だった。
子供たちはこの灯りの元。
シルヴィオとウェルコットは子供たちに勉学を教えた。
武術はもちろん外。
明かりは、ウェルコットが昔作り、ホコリをかぶっていた角灯をシルヴィオが風で浮かせて使用している。
ちなみにこの角灯。
発光力は蝋燭より上だが、リビングに設置されているものとは圧倒的に光の量が少ない。
その上、発光時間が一時間しか持たない代物。
ウェルコットはどうやらこれが気に入らないらしく、最近は部屋にこもったり、ファムローダに帰ったりして新たに外で使用する装置を作っている。
この日もシルヴィオは一日にすべきことを済ませ、寝室に戻った。
案の定、長毛黒豚猫は寝台を占領し、「すぴー……すぴー……」と寝息をたて、心地よさそうに眠っている。
「おい、タヌキ。占領すんな、隅に寄れ」
ぐったりした顔のシルヴィオがそう言うと、タヌキ猫は目をうっすら開け。
伸びをしたかと思うと、体をひねってころんと、手足を投げ出す方向を変えた。
この猫は彼がが保護を許した日の夜から、この通り真ん中をどかない。
ついでに、この猫。
タヌキ。
と、シルヴィオが名前を付けた。
「誰もベットから降りれとは言ってないだろ? ほら、あっちに行けって……」
彼はタヌキの背中をぐいぐい押して壁側に寄せた。
これにタヌキは不服らしく、壁側を向いていた顔と手足を、ころんと再度転がり、シルヴィオの方を向いてひと声。
「ぅぶぁあぁ……」
「…………頼むからだみ声止めろ。無理ならもっと猫らしくなけよ……」
「にゃぶぅぅ」
「いや、そこは「にゃ」だけでいいから……」
「…………ぅなぁぁ…ぁぁ…」
結果、だみ声と鳴き声は変化なし。
彼はこれにため息をついて頭を抱えた。
「……………………もう、知らん…………。寝る……」
そう言って布団をはぐって寝台にはいったシルヴィオ。
待ってましたと言わんばかりにタヌキは、腹を揺らし、彼の腹の上に陣取った。
これに、彼は体の向きを変え、横向きになる。
強制的に寝台の上を滑ることになったタヌキ。
しばし寝台の上にお座りの形をとっていたが、めげずにシルヴィオの上に乗り、彼の横腹に陣取った。
(…………この豚猫……!)
振り落とすことに、軽く意地になったシルヴィオ。
彼は今度はうつぶせになった。
だが、これはタヌキにとって好都合。
タヌキはすかさず彼の背中にドスドスと上がり、お座りした後。
彼の背中の上で手足を投げ出し、寝そべった。
これにシルヴィオは舌打ち。
タヌキは金の瞳を片目だけ開けたが、すぐに目を閉じた。
ありがとうございました。
明日に続きます。




