第六十一話
「…………?」
何かに座っている。
そんな感覚が伝わり、シルヴィオは目を開けた。
「あ、起きた。おはよ~」
彼の前にしゃがみこんだ顔にそばかすがある、見覚えのある男。
その男は、トルコ石をはめ込んだような瞳を細めて笑った。
(ルーフ……?! なんでこいつが? さっき見たときには寝ていたはず……)
シルヴィオは驚愕をしめしそうになったが、それを隠すため、表情を消す。
「すみません、本当にすみません……」
シルヴィオに頭を下げるウェルコット。
これにシルヴィオはまさかと言わんばかりに、頭を下げたウェルコットに目を向けた。
「なに驚いてんだよ。ロイド」
フッと微笑むルーフ。
彼の言葉にシルヴィオは目をみはり、絶句。
「…………ぅ……ん………………」
アンの小さな声と、寝返りに驚き、シルヴィオとウェルコットの肩が勢いよくはね。
これにルーフは小さく笑い、俺の部屋で話そう。
そう言ってシルヴィオの前から立ち上がり、扉を目指す。
シルヴィオはそんな彼をソファーに座ったまま見送っていると、ルーフが思い出したように、シルヴィオの方を向いて言った。
「あぁ。拒否権ないから。もしついてこなかったら、アンとニコ。それからノエル・ルイダスに報告する」
常にふざけている男が極稀に見せる本気の表情で、冷たく言い放つ。
これにシルヴィオはスッと立ち上がり、若干困惑しているウェルコットに「行くぞ」と声をかけ、彼の後を追った。
こうしてルーフの部屋へと移動した三人。
前室では見つかりやすいと言うことで、寝室に案内されたシルヴィオとウェルコット。
ルーフは燭台の蝋燭に火をつけて明かりを作ると、寝台の縁にドカリと腰かけ、足を組んでシルヴィオ達に適当に座るよう促す。
これにシルヴィオは苦笑し、一人掛けのソファーに座ると、その横に表情を消したウェルコットが立った。
「で。なんであんなふざけた真似をしたんだ。ロイド。いや……まず名前、教えろよな」
「…………シルヴィオ。シルヴィオ・レファニア・ファバル……」
小さく笑っていったルーフに、シルヴィオはため息交じりに言い。
めんどくさそうな顔で頭を掻いた。
「ふーん。シルヴィオ、ね……。で、そっちの人は?」
ルーフはそう言って、立っているウェルコットにニヤッと笑い、笑いかけられたウェルコットは無表情でそれを受け止め、シルヴィオはため息をついた。
「ウェルコット・オルバーナ。俺の部下だ……」
「へぇ~……。あ。言い忘れてたけど、アンを助けてくれてありがとう」
微笑みを浮かべ、ルーフはウェルコットに言うと、ウェルコットは表情を動かさずに口を開いた。
「いえ。私はシルヴィオ様の指示に従っただけです」
「…………まぁとりあえず、ありがとう。さてと、シルヴィオ。何故、あんなふざけた真似をしたのか。聞かせろよ」
そう言ってルーフは組んだ足に頬杖をつき、楽しそうに笑みを浮かべた。




