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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
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第五十七話

 シルヴィオは翌日から、一人で奪われている領地の返還をもとめ、領地を取り戻すことに成功したのは、本格的な冬になる前だった。

 ウェルコットはと言うと、ブタブッティの事が片付いてからこっち、ファムローダに帰っており、ファバルには不在。

 やることが無くなってしまったシルヴィオは、今。

 ラティたち幼い三人の子の面倒を見ている。

 さながら隠居した老人のようだ、と。

 ちらりと考えたシルヴィオは小さく笑う。

 この様子に、仲良く積み木をしていた三人が不思議そうに彼を見た。

「どーしたの? しーちゃん」

「なにか、たのしーことあった?」

 そういて小首をかしげるのはラティとテオ。

 イオルはつられるように、こてんと首を傾げ、シルヴィオを見上げている。

「何でもないよ。ただ、雪が降ってきたなと思ってね」

 シルヴィオはそう言って、窓の外に目を向ける。

 窓の外はすでに銀世界。

 そして、再び降り始めた雪が、その上に落ち、重なっていく。

 子供たちは、つられて窓に目を向け、楽しそうに笑った。

「またつもっちゃうね」

 ラティが笑顔で言うと、テオが目を輝かせて嬉しそうに笑う。

「うん。やんだら雪だるま、つくろ!」

「……雪うさぎも」

 テオのいった『雪だるま』に目を輝かせたイオルがはにかみながら言い、それにラティと、テオが大きく頷いた。

「うん。みんなで作ろ! もちろん、しーちゃんもね!!」

「そうそう、あそぼ!」

「あそんで、くれる……?」

 元気に笑ってシルヴィオを見る二人に、対し、伏し目がちにイオルは言った。

 この様子に、もちろん。と言って微笑むと、三人はまた嬉しそうに笑う。

「はやくやまないかなぁ……」

「うん、そうだね。そしたら、雪だるまさんと雪うさぎさんつくれるのにね!」

 テオの言葉に、ラティが大きく頷き、笑顔で言う。

 イオルはコクコクと小さく頷いて、「雪がっせんも……」と言うと。

 ラティとテオの目を輝かせ、積み木そっちのけで雪に見入って、やんだ後のことを楽しげに話し始めた。

 これに、シルヴィオは微笑み、ふとニコラだったらどのような反応をするだろう。

 そう考えた。

 エドレイは温暖で、雪は降るが積もることはない。

(あの子は、どうしているのだろう……。ルーフも、ウィル、レティ、アン。皆……元気だろうか…………?)

 シルヴィオの脳裏りに笑顔で笑う友や、家族の顔が浮かんで、彼は目を閉じた。

(そういえば、エドレイ王とルーフ。二人に盛られた毒……あれは、ザバオルだったな。しかも、この大陸を縦断する間に効果が無くなることなく、効果があった。あれはもしかして……)

 彼はそれを思い出し、頭を抱えた。

(くそ! フェドに聞いておけばよかった……。まぁ、顔見せにいったようなものだ。ここから話すこともできる。けどアイツ、声だけだとへそ曲げるんだよな……) 

「しーちゃ……。どうしたの…………?」

 げんなりとするシルヴィオに気づいたのか、イオルが首をかしげていった。

 彼の声にハッとして、いつの間にか俯いていた顔を上げ、シルヴィオは慌てて微笑む。

「あぁ、何でもないよ。ちょっと、お友達とお話しするけど、良いかな?」

「え? どうやってお話しするの!」

「ホントホント! しーちゃん、ラティたちにもおしえて!!」

 勢いよく振り返り、駆け寄ってきたテオとラティ。

 この間、イオルはシルヴィオを見て、きょとんとして、首をかしげていた。

 シルヴィオは三人の反応に、小さく笑い、少し静かにしていてね。と言うと、テオとラティは不服そうに頬を膨らませ、返事をし、イオルはコクリと頷く。

 これに、シルヴィオは微笑み、フェドが居る場所は遠いため、背中に方翼の翼を出す。

「フェド、おいフェド。お前に聞き損ねたことを聞きたくてな。それに答えてくれるだけで良い」

 彼がそう言っている間、風に揺れる葉の音がしている。

 シルヴィオに見えている景色は、うっそうとしたザバオル木々の葉が、風に揺れる光景だ。

『……相変わらず礼儀がなっとらんな。小童』

「そんなものは知らん」

『……………………』

「……手が離せないんだ」

『………………なんぞ……?』

 しばしの沈黙の後、フェドは口を開いた。

 これにシルヴィオはほっと息を吐く。

「実はな、お前の研究に来た者の中で、生きている者がいるか気になってな」

『……小童。お主は真、愚かだな…………』

 あきれた声でしみじみと言うフェドに、シルヴィオは苦笑する。

「知っている。で、どうなんだ……?」

『……皆、毒にやられた。と言うより、殺した。だが、死に場を求めて来た、どこぞの第三皇子で、その化け者だけが死んでおらんがな』

「…………そうか……。ということは、あれは俺が作った奴か……」

 フェドの忌々しげな声と、シルヴィオは、自分の仮説が正しかったことで自然と口元に笑みが浮かんだ。

 これをフェドは感じ取ったのか、『百篇、首を飛ばされるが良い』と言って、何も言わなくなってしまった。

「では、な」

 そう言って、シルヴィオはフェドと会話を終わらせ、背中の物をしまおうとした時。

 下から強烈な三つの視線。

 それに目を向けて微笑んだ。

「ありがとうラティ、テオ、イオル。良い子だったね」

 彼は背中の物を瞬時にしまい、三人の頭を一番右に居る、イオルからテオ、ラティの順に一撫で。

 これに三人は嬉しそうに笑った。

「あ! ねぇ、うーちゃんきょうはかえってくる?」

「あ、ラティもそれしりたい!」

「ぼくも……」

 そう言って期待の眼差しを向ける子供三人。

 どうやら背中に生えていた翼のことに気づいていない様子。

 シルヴィオは無邪気な三人に、微笑みを深め、聞いてみようか。と、問うと、三人はコクコクと頷き、ラティとテオは「はやく!」と急かす。

 これに彼は再び、背中に方翼の翼を出し、それから、ファムローダの地下。

 本の山の中心に居るウェルコットを見つけた。

「ウェル。おいウェル」

『? …………シルヴィオ様……あ。ぅわあぁぁぁぁぁ!!』

 ――――こつん。……バサバサバサ!

 突然聞こえたシルヴィオの声に、訝しげにきょろきょろと辺りを見渡したウェルコットだったが、その拍子に肘が背後に積み上げられていた本にあたり、崩れ。

 ウェルコットを襲った。

『……あ痛ぁ…………』

 そう言って積み上げられていた分厚い本たちの下敷きになっていた彼は、そこから這い出す。

 しかし、その拍子に目の前にあった本の山に頭をぶつけた。

『ハッ。あぁ…!!』

 驚きのあまり声が裏返っていたが、ウェルコットは揺れる本の山を必死に抑え、揺れを抑えた。

 ホッと一息付いた彼の頭上には、その揺れに耐えきらなかった、手のひらほど分厚い本の角が……。

「あ…………」

 シルヴィオはそれに気づき、声を上げ。

 ウェルコットは彼の何か言いたそうなの言葉に、首をかしげようとした時。

 ――ゴッ!

『? ……ふぐうっ…………』

 直撃した。

 ウェルコットはこの衝撃に耐えきらず、先ほど支えた本の山におでこをぶつけ、崩れる本の上に倒れこんだ。

『………………つぅぅ……』

 ウェルコットは崩れた本の上から身をお越し、ぶつけた顔面とおでこを片手で押さえ、もう一方の手で降ってきた本が当たったところを抑えた。

 シルヴィオは声を立てて笑い。

 少しして笑いを押し殺しつつ問う。

「おい、大丈夫、か……?」

『…………大丈夫、です……。笑わないでください』

 ウェルコットはそういって、本の上からどいて、ホコリを払った。

「すまんすまん。ラティたちがお前に話があるそうだ。ほら、ラティ、テオ、イオル」

 名を呼ばれ、促された三人は、先ほどの音とウェルコットの言葉に困惑しており。

 どうしたらいいのか解らないと言った様子で、シルヴィオを見上げた。

 シルヴィオは三人の反応に、小さく笑う。

「ほら、今日帰ってくるのか聞きたいんじゃなかったか?」

「そうだけど、さっきのおと。なに?」

 と、ラティ。

 続く、「なにかあったの?」と、テオ。

 イオルも、首を左右にかしげている。

「あぁ、大したことじゃないから、気にしなくていい」

 そういって、微笑む彼に、三人は困惑。

『……おや? 今、ラティとテオの声がしましたね。イオルはどこです?』

 ウェルコットはとぼけたように、穏やかな声で言うと、ラティとテオは満面の笑みで頷き、テオが首をかしげるのをやめた。

『イオル? イオルはいないのですか?』

「…………いるよ、うーちゃん」

『ふふ。これは失礼。ラティ、テオ、イオル。元気にしているようですね。フォードとルルク、ルルカは元気にしていますか?』

「うん、ふぉーどと、るるたちみんなげんきだよ! ね。てお、イオル」

「うん」

 テオがそう言って、頷き。

 イオルがつられるように頷いた。

『それは良かったです。ラティたちが待っていてくれるなら、夕方には帰ります』

「「ほんと?!」」

 そういって目を輝かせるラティとテオ。

 イオルは静かにとても嬉しそうに笑った。

「では、食事の用意もしておこう」

『お願いします』

「ではな。遅れるなよ」

 シルヴィオの言葉に、ウェルコットが返事をしたのを確認して、話を切り上げ、背中の物を消した。

 この間。

 三人は輪になって、手をつないで楽しそうに回っている。

「やったぁ! うーちゃんが帰ってくるよ、テオ、イオル!」

「うん、楽しみだね!」

「……また、やってくれるかな……?」

 シルヴィオはこの言葉で、子供たちの目的が分かった。

(あいつの十八番の手品もどきか…………)

 そう答えを導き出した時。

 彼はよろこぶラティたちが、何も知らず、純粋だった頃の幼少期と重なり、ふっと微笑んだ。

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