第五十一話 ①
(あのローブ……魔術師か? しかし、そういう奴らは基本的に国から出ないはず。となれば、考えられることは一つ)
そう考えたシルヴィオは、この場を少し離れ、外の映像に目を向けた。
映像に映った場所は、高くそびえたつ塀に囲まれ、高い建物のある光景。
おまけに、ここに映っている人間たちは皆。
さきほどの者たち同様、黒ローブを身に着けていた。
(…………ファムローダ、か。厄介だな……)
シルヴィオは今見ている映像を、先ほど見ていた牢の映像に切り替え、目的の人間を探した。
手がかりは、肖像画の廊下の終わり付近にあった絵。
銀髪金眼の紳士と、金髪に藍色の瞳の淑女。
淑女の隣に立つ幼い、銀髪に藍色の瞳の少年。
この三人だ。
肖像画に似た少年は見つけた。
しかし、該当する紳士と淑女はいない。
(おかしい。確かに公爵夫妻の気配は感じる。だが、いない。どういうことだ? 子供はこの子で間違いはない)
シルヴィオはしばし考えた結果。
閉じていた瞳を開けた。
同時に、先ほどまで見えていた映像が掻き消え、彼の目の前には、公爵家の窓。
シルヴィオは先ほど捕捉したウェルコットに向け、言葉を飛ばした。
「ウェル。ちょっといいか?」
『……今、宝物の回収で忙しいです』
「あー、そうか。まぁいいからちょっと来い」
だるそうなシルヴィオの言葉に、ウェルコットは『わかりました』と言い、その数秒後。
彼の前に姿を現した。
「どうしたんです? そんなものまで出して……」
ウェルコットは出てきてすぐに、シルヴィオの背中を見て、呆れたと言わんばかりの顔で言った。
これに、シルヴィオは苦笑する。
「色々あってな。まぁ、俺の事は良い。問題はルッティーフ公爵家の人間についてだ」
「あぁ。そういえば、オグダンの人間が我が物顔で闊歩しているのを見ましたよ」
思い出したように言うウェルコット。
シルヴィオはそんな彼に、また苦笑を浮かベる。
「それは俺も見た。だが、問題はそこじゃぁない」
「と、言いますと?」
「お前の故郷、ファムローダだ」
シルヴィオが言った国名に、ウェルコットが眉を顰める。
「……それが。何か…………?」
「お前が居たころ。あの国は何かをやっていたのか?」
「どうでしょう……。私は直接政治にかかわっておりませんので……」
「では何故お前はそう、執拗に狙われている? 何か、知っているからじゃないのか」
「皆目見当も付きませんが、ただ一つ言えることと言えば、私たちのような下の者には、『上の者が何を考えているのか解らない』ということでしょうね」
「……そうか。だが、ファムローダとオグダンがつながっていることは確かだろう」
ウェルコットはそういったシルヴィオの言葉に首をかしげた。
「何故です? 通常、ファムローダは魔術師や錬金術師など、人間であって人間でないものを正とし、その他は悪。もしくはモノとして扱うことが主です。それなのに、モノと手を組むでしょうか?」
「分からない。ただ、ルッティーフ公爵家の人間たちが、ファムローダに居ることは間違いはない」
「つまり、掴まっている。と……?」
「おそらくな。ただ、気になることもある」
「なんですか、その気になることとは……」
「ルッティーフ夫妻の気配はあるのに、姿がない。その上、ルッティーフ公爵の子を含め、大勢が牢に囚われている」
「姿がない上に、大勢が牢に……?」
「思い当たる節はあるか?」
シルヴィオの問いに、ウェルコットは緩く首を振った。




