第四十九話
教会内には、赤髪や、金の瞳を持つ人間達がおり、目立つのは女性と子供。
その中から一人の青年がこちらに出てきた。
「隊長。オグダンの様子は――」
「変わりねぇが、警戒は怠るな」
青年はラグリッドの言葉に、短く返事をし、出て行った。
「まぁ、座れ」
そう言っておいてある椅子をすすめる。
シルヴィオはそれに頷き、座った。
「ラグリッド。座ったらどうだ?」
「…………そうさせてもらう」
ドカッと音を立てて、近くの椅子に座るラグリッドをよそに、シルヴィオはエルセリーネに、ルッティーフに居たオバオンの人間たちおよび、オバオン王国の監視を命じる。
それに頷くように風が彼の周りを一周して、教会の扉を押しあけて出て行った。
この音に、奥に居た者たちに緊張が走る。
「安心しろ。今のはこいつがやっただけだ」
そうだな、と言わんばかりの目線を向けられたことに、シルヴィオは若干目を見開き、頷く。
「騒がしいやつですまない」
謝罪するシルヴィオに視線が集中した。
それらの視線から感じられたもの。
戸惑いが多く、嫌悪や憎悪の感情も交じっていた。
「今更、何しに帰ってきたの。どの面下げて戻ってきたの?」
沈黙の中に響いた冷たい声音。
声のした方に、憎悪をありありと浮かべた女性が居た。
「あんたのせいよ。あんたが、居なくならなければ……。あたしたちは誰一人として、家族を失わなかったのよ!」
女性はまるで何かにつかれたように、ふらふらとした不安定な足取りでシルヴィオの前にやって来て、彼の胸ぐらをつかんで語彙を荒げた。
「なのに。どうして、あたしたちを見捨てたのよ!」
見下ろす金の目には涙をため、悲鳴のような声を上げて、女性はシルヴィオを揺らす。
シルヴィオはそんな女性に、なんといえばいいのか解らず、目を伏せ、手に爪がくいむほど強く握りしめた。
「あたしたちは、あんたがあたし達を見捨てないって、信じていたのに……!」
女性はそう言うと俯く。
その拍子に、固く握りしていたシルヴィオの手の上に、こぼれた雫が落ちた。
シルヴィオはそれにハッとし、女性を見上げる。
そこには、先ほどの憎悪ではなく。
悲しみと、不安。
そして、痛みを耐えるような、後悔しているような、そんな顔をしていた。
「……どうして、どうして、あたし達を見捨てたの…………。守るって、守ってあげるって言ってくれたじゃない……シルヴィオ様………………!」
「…………すまない。謝っても何にもならないことは分かっている。だが、せめて。そなたらに心安らぐ、平穏なる生活を取り戻し、それを未来永劫守ることを、この命にかけて。誓おう」
涙を流す女性に、シルヴィオはゆっくりした口調で言った。
そんな彼が示した決意の言葉は、教会中に響き渡る。
「シルヴィオさ、ま……」
「だから、泣かないでほしい。大丈夫。もう、恐れる必要はない」
緩く頭を振ったシルヴィオに、女性は彼の胸ぐらから手を離し、顔を覆ってその場に座り来んだ。
それを見た彼は立ち上がった。
「どこへ行く」
「…………お前は関係ない。今からやることは私の独断だ」
「フッ……そうか。では、俺は俺の判断で行く」
「勝手にするといい。私は知らん」
そう言って姿を消したシルヴィオに、ラグリッドは口元に笑みを浮かべ、立ち上がる。
「俺は、主人を一人で戦地に送り出すほど、愚かではないさ」
ククッと笑って教会の扉を押しあけ、彼は外に出て行った。




