第四十五話
「…………確かにこれは怖い……」
元ブタブッティ王国・王都。
城下広場。
そこでシルヴィオが見たものは、馬も人もいないのに動く馬車。
ついでに鞭が浮かんで、何かにあたっている。
しかし、動いているものはそれだけではなく、物が浮かんで移動している。
そう。
何かに運ばれているかのように……。
おまけに、物音はしているが声は聞こえない。
人影もない。
しかし、気配はする。
シルヴィオはこのことに深くため息をつき、昨日作った物と同じ、この現象を引き起こした原因の小瓶の原料。
案外思い出すことは簡単にできた
だが、この原因を引き起こせそうなモノは皆無。
ほかに何か入れていないかを考え、しばらくして思い出した、小指の先ほどの小さな紫色の実。
(…………そういえば、これにはアガウの実を入れたような……)
最後の一つを思い出したシルヴィオの顔色が変わった。
(これは、ウェルコットが必要だな……)
一つ頷いたシルヴィオ。
彼はそれを報告するため、イルシールのもとへと移動した。
「失礼いたします、宰相閣下」
「おや、解決できたのですか?」
突如現れたシルヴィオに、イルシールは呼んでいた書面から顔を上げ、微笑んだ。
「いえ、解決はしておりませんが、解決策はあります。しかし、こちらへ被害が来ないとは言い切れません。なので、解決はウェルコットが戻り次第取り掛かります」
「そうですか。わかりました下がって良いです」
シルヴィオは納得した様子のイルシールの言葉に、素直に従い、部屋を辞した。
それから彼が向かったのはゼフェロスのもと。
彼の居場所はエルセリーネに探させた。
シルヴィオは、扉を叩く。
中から声がかかり、シルヴィオはそれを開けた。
「失礼します」
「シンディ……。どうしたんだ?」
ゼフェロスが座っているデスク。
その机上には山となっている紙、紙、紙。
このせいでゼフェロスの姿は見えないが、たまに見える手が彼がそこに居る証拠だ。
シルヴィオはもちろん戸惑った。
だが、気にしないことにして口を開く。
「はい。実は民のために行動することをお許しいただきたく、参じました」
「…………私はこの国の長。だが、人ひとりの行動を規制する権利は持たない。シンディ。お前は『人のために行動してはならない』と言う法律ができたと思うのか?」
「いえ。しかし、私は軍に所属することを願い、陛下に許しを得、軍に所属いたしました。なので、これからおこす行動が陛下への反乱ととられてもおかしくないことだと思いましたので」
「お前は私たちには傷つけはせんのだろう……?」
「当たり前です」
迷いなく即答したシルヴィオ。
書類の山の向こうで小さく笑う声が聞こえた。
「ま、まぁ、お前に任せる。私はこの山を片づけねばな……」
「自業自得と言う言葉をご存じですか?」
「知っている……」
「然様でございますか。ではこれ以上邪魔になってはいけないので、私はこれにて」
シルヴィオの言葉に、ゼフェロスが短く返事をしたので彼は部屋を出て、自宅へ戻った。




