第四十四話
「心当たりがあるようですね?」
「はい……」
シルヴィオは昨日のことを思い出し、目をそらして俯く。
彼の反応にイルシールはため息をついた。
「ブタブッティ王と、貴族についてはどちらにせよ死刑は避けることはできなかったでしょう。ですが、民に罪はありません。わかっていますね?」
「はい。一度現状を見たうえで、対処します」
「よろしい。では、私はこれで」
機嫌が直ったのか、イルシールは微笑を浮かべて出て行く。
シルヴィオはそれを見送ろうとして、ふと思い出した。
「兄さん。お粗末な帳簿の改ざんについてと、宝物庫からお持ちになられた小瓶は今どうなっているんですか?」
「帳簿については手を打ってあります。ですが、小瓶……? あぁ、あれですか。そういえばいつの間にかなくなりましたね」
廊下に一歩踏み出した形で、言ったイルシール。
「そうなんですか。ちなみに、その小瓶にラベルがあったと思うのですが、なんと書いてあったか覚えていますか?」
「そうですね……確か、【ザイル】。だったような気がします」
「…………【ザイル】……そうですか。ありがとうございます」
真剣な顔のシルヴィオに、イルシールは微笑み、扉の向こうに消えた。
(しかし、【ザイル】が人の手に渡っていたとしたら……厄介だな。だが、まぁ時間の経過でどうなっているかなんて、わからないからな……大丈夫だろ)
楽天的に考えることにしたシルヴィオ。
彼は一つ頷き、リビングに向かった。
「シルヴィオ。着替えがないことは知っています。ですが、せめて髪ぐらいとかしてきてください」
ウェルコットは呼んでいた本を閉じ、ソファーに座ったまま、ぐちゃぐちゃな頭のシルヴィオを見ていった。
しかし、言われた本人は気にせず、適当にまとめて近くにあった紐で結び、ウェルコットを見据えた。
「やっぱりお前、薄情者だよ……」
ぼそりと言った言葉。
それが聞こえなかったウェルコットは訝しげに顔を歪めた。
「何か言いましたか? シルヴィオ」
「いや、何も」
シルヴィオはそう言ってキッチンに入り、大あくびをして、朝食の支度に取り掛かる。
ウェルコットは彼の背中を見て、小さく笑い、閉じた本を開いて読み始めた。
そして、食事の用意が出来た頃には、程よく日が昇っていた。
「おいウェル。テファと子供たちを起こしてきてくれ」
シルヴィオの言葉に、ウェルコットは返事をして出て行く。
それを見送り、シルヴィオは食事を並べ始め。
ちょうどそれが終わった時。
廊下の方からパタパタと音が聞こえた。
そして現れたのはラティと、男の子一人。
幼い二人に少しだけ遅れて、ウェルコットが治療した男の子がリビングにやってきた。
そして、「おはよぉ」と挨拶。
しかし、三人いっぺんにかつ、ばらばらだったため、ひどく聞き取りにくかった。
シルヴィオは自然い笑みを浮かべ、三人の傍に行って屈んだ。
「おはよう、ラティ。それと、君たちの名前を聞いていなかったね。教えてくれるかい?」
男の子二人に問うと、濃い金髪の男の子が勢いよく頷き、治療をうけた子は控えめに頷いた。
「うん、僕はテオで、こっちが――」
濃い金髪の子が自分の胸に手をついて言い。
隣の男の子を指さした。
「イオル……」
控えめな声で言った男の子・イオル。
この二人をみたところ、ラティとテオは活発。
イオルは人見知りしているのか、それともただ単に大人しく、控えめな子だろうということがわかる。
シルヴィオはそんな三人に微笑み、「そうか。よろしく」というと、ラティとテオの声が聞こえ、三人は頷いだ。
ちょうどその時、フォードとルルカ、ルルクがやってきた。
後ろにはウェルと、眠そうなテファ。
「「おはようございます。シルヴィオさん」」
「……はよ」
「おはよう、三人とも。昨日は良く眠れたかい?」
ムスッとしたフォードに少し笑って言った。
そのせいでフォードがシルヴィオをにらんだのは言うまでもない。
「うん、とっても。わざわざベットまで用意してもらってすみません」
「あぁ。気にしなくていい。作ったのはウェルだ。俺は何もしていない」
「でも、ウェルコットさんがお礼はシルヴィオさんに言ってくださいって」
「そうそう。ルルクの言うとおりだよ~」
ヘラっと笑うルルカに、ルルクは小さく微笑み、頷いた。
(そうか、ルルカが青で、ルルクが黄緑っと……)
シルヴィオは二人のやり取りを聞いて、今日は着ている服で判断することに決めた。
「そうか。だが、気にしなくていい。やって当たり前のことを行っただけだ。さて。そろったことだし、食事にしよう」
シルヴィオの声で皆席に着き、朝食をとり始めた。
――その後。
シルヴィオはひとまず、人が消えたブタブッティ王国へ行き。
ウェルコットは宝物庫の中身の捜索。
テファは、子供たちの面倒を見ていることになった。
「では頼んだぞ、テファ」
「任せて。この子たちは私がしっかり守るわ」
そう言って笑ったテファは、シルヴィオとウェルコットを見送った。




