第三十六話
返事をしたフォード。
しかし、彼らはその場を動かない。
どうしたものかとシルヴィオが彼らに見つめると、フォードが口を開く。
「言っておく。俺はお前を信用したわけじゃねぇから」
「そうか。だがまぁ、飯はちゃんと食ってデカくなれ。毒なんざしこまねぇから」
不敵に微笑むシルヴィオに、フォードが顔をしかめ、リビングを出て行った。
「まったく、フォードは素直じゃないんだから!」
男の子をおんぶしているルルカが言うと、それにルルクが続く。
「ほんとにね。素直に『ありがとう』って言えばいいのに。でも素直じゃないから言えないか」
「そうだね。じゃ、素直じゃないフォードの分も含めてお礼言うね。色々ありがとう」
「ありがとう」
「気にするな。大したことじゃない」
双子はシルヴィオの言葉に顔見合わせた後。
シルヴィオの方を向き、笑って言った。
「「やっぱり変な人……!」」
双子は笑顔を浮かべ、『おやすみなさい』と言ってリビングを出て行った。
「ねぇしーちゃん。私たちの部屋ってどうなるのかしら?」
隣に座っていたテファが言った。
「そういえばそうだな。ウェルが戻ってきたときに聞くか」
「そうね、そうしましょ。で、どうやって服とかこの家の材料だとかを買ったの?」
「ん? あぁ。物好きに高値で売りつけた」
「え、何を?」
「これ」
そういって、シルヴィオは昼間の小瓶を取り出した。
「……大丈夫なの?」
「あぁ、即席で作った。効果は蒼く光るってだけのやつだ」
「…………しーちゃん。性格悪いわ……」
苦く笑うテファ。
シルヴィオはそんな彼女に微笑む。
「そんなことはないさ。あぁそういえば――――」
――――ドーォォオォン。
夕暮れ時の空を払拭するかのような、まばゆい蒼い光。
続く爆音。
それらは元ブタブッティ王国の方角だった。
「………………」
「?! ……………しーちゃん、まさか……」
「……回収し忘れた」
「嘘! 大丈夫なの?」
「さぁ……」
「さぁって、わかんないの?」
「あぁ。予測不可能だからなぁ……」
「もう、早く確認する!」
「大丈夫だろ。多分さっき光の色だと、爆発はしたものの、爆炎は上げてないだろうしな」、
「さっき『予測できない』って言っておきながら、何を根拠にそんなこと言えるのよ……」
めんどくさそうなシルヴィオに、テファがあきれ顔で言った。
「そうですよ。まったく、シルヴィオ。どうして回収しておかなかったんですか!」
突如リビングに響いたウェルコットの声。
シルヴィオはその声の方を向いた。
「…………お前はまたなんで子供に支えられてるんだ?」
「あなたのせいですよ!!」
フォードと双子の片割れが心配そうな顔をして、再び顔色が悪くなっているウェルコットを支えている。
支えられているウェルコットは、顔色こそ悪いが、言葉をしゃべることはできるようだ。
「いやまぁ、俺が回収し忘れただけだし、爆発の音はしたが、爆炎は上がっていないだろ?」
「……あなたという人は…………」
「なんだお前慌てて防御壁を張ったのか? ご苦労だったな」
「えぇそれはもう、効果を最大にしましてね」
「へぇ。こじらせたか」
「こじらせてません! いいですか。魔術の効果を最大にするには詠唱が必要不可欠なんです」
「いつも詠唱なんてしてないだろう?」
「私がいつもやっている詠唱破棄は、体力はあまり減りません。その代り、通常であれば魔術の効果を半分以下にさせる行為なのです。以前もそう説明しましたよね?」
「そうだったか?」
「えぇ。お忘れでしょうけどね!」
途中から徐々に顔色が良くなったウェルコット。
シルヴィオはいかにもめんどくさげで、それを隠そうともしていない。
「とりあえずしーちゃんも、うーちゃんも落ち着いて。しーちゃんは作った物の回収。うーちゃんは怪我をした人がいないか、もしいたら治療ね。はい、行ってらっしゃい」
二人はそういったテファにあっという間に掴まり、玄関へ連れて行かれ、外へと放り出された。




