第三十三話
その数秒後。
ウェルコットと子供たちはまとまって、光の柱から現れた。
そして、真新しい家の玄関先に座り込む、テファに声をかける。
彼の声は、風に乗ってシルヴィオの耳に入った。
「テファ。どうしたのです? テファ……?」
彼女に反応はない。
ただ、茫然と家を見ていた。
「…………うーちゃん、これ、どういうこと……?」
「テファ? なにか言いましたか?」
彼女の、蚊のなくような声はウェルコットには聞こえなかったのか、彼が問い返す。
その言葉に彼女は、先ほどまで茫然としていた事が嘘のように、俊敏に立ち上がると、勢いよく彼の胸ぐらをつかんだ。
「これはどういうことよ?! あのお家には、しーちゃんと奥様の思い出が沢山詰まっていたのよ!!」
「え、いや。シルヴィオの命令で――」
「しーちゃんがそんなこと望むわけないじゃない! 良い? しーちゃんはあのお家を私に守れって言ったの。なのに、なんで私に何も言わずに勝手なことするの?! 私、しーちゃんに顔向けできないじゃない!!」
テファは、ウェルコットの言葉を遮ったのと同時に、ガクガクと勢いよく揺らす。
シルヴィオはそれを見て、慌てて二人の近くに移動し、テファの腕を握った。
「やめろテファ。ウェルコットが死ぬ……」
「しーちゃん! もう聞いて、うーちゃんがぁ!!」
そういいつつ、白目をむいて気絶しているウェルコットを、再び勢いよく揺らした。
「いや、だからやめろ。この国唯一の人材が死ぬ」
「あら私ったら!」
正気に戻ったのか、テファが勢いのついたウェルコットを離した。
突き飛ばす形で離されたウェルコットの体は、重力に逆らうはずもなく、背中から地面へ。
「あ、ウェル!」
シルヴィオは慌てて彼を支えた。
「おい、ウェル! 聞こえるか、ウェル、ウェルコット!!」
「あれ、うーちゃん反応しないわね」
「当たり前だ。ただでさえ、ひ弱で、さっき大勢を移動させたせいで体力使い果たしてんだ!」
「あ、そうだったね。うーちゃん、体力無い雑魚だったわ。ほら、うーちゃん起きる~」
――――パン、パパパン!
素早い上に無慈悲なまでの平手打ちを、テファはウェルコットにおみまい。
それを受けたウェルコットの頬は、真っ赤に晴れ上がった……。
「あれ~? おかしいわね? ねぇ、しーちゃん。うーちゃん起きないよ? もっと叩いたら起きるかな?」
「止めろ。ウェルが昇天する……」
「あははは。しーちゃんは冗談が上手ね!」
切実なシルヴィオの言葉に、テファはコロコロとわらうのだった。




