第三十二話
微かな囁きは、突如として吹き抜けた風によってかき消され、微かに聞こえるだけだった。
「なんだよ? 聞こえねぇよ」
「……もぉよしなよ、フォード」
「そうだよ。この人にあたったって、何も変わらないよ……?」
好戦的な雰囲気を出すフォードに、顔を上げたルルカとルルクが、彼を落ち着かせるため声をかける。
しかし、彼女らの言葉に、フォードは眦を釣り上げた。
「お前たちまで?! 悔しくないのか!」
彼の言葉に、ルルカとルルクは同時に片手をだし、きつく手をつないだ。
「そりゃ、悔しいよ……。でも、この人はウチらを助けてくれたじゃん」
「…………初めて、ウチらに手を差し伸べてくれたんだよ?」
ふたりはそこまで言うと、決意を固めたのか、声を合わせて言った。
「「信じるんでしょ?」」
フォードはまっすぐに見つめてくる二人に、目を見開いた。
そして、すぐ後。
大きなため息をついた。
「……そうだった、ごめん。なぁ、あんた。俺たち、本当にあんたの世話になってもいいのか?」
「もちろんだ。俺の名はシルヴィオ。好きに呼べ」
「あぁ。わかった」
「「お世話になります」」
「なに、気にするな。ただの罪滅ぼしのようなものだ」
シルヴィオは小さく笑って、ウェルコットの方を向く。
「おい、子供達を」
「かしこましました」
ウェルコットはそういうと、足元の方に魔法円をだし、それを拡大後。
子供たちとともに光の柱となり、消えた。
シルヴィオはそれを見届け、自宅から少し離れた花壇の前に移動。
目の前は林だ。
彼はゆっくり振り返る。
「家が、デカくなってる……」
若干驚く彼の前にあるものは、今朝までの質素な小さな家ではなく、大きすぎず、かといって小さくもない。
そんな家だった。
が、そんな家の玄関前に座り込んでいるマッチョ……もとい、テファ。
目と口を大きく開け、茫然としている。
どうやら買い物帰りだったのか、持っていたであろう籠は、中の荷物が出てしまっていた。
(声を掛けるべきか? いや、めんどくさそうだ。よし、ウェルコットが来るのを待つ。それがいい)
シルヴィオはそう考え、まだ来ていないウェルコットたちを待つことを、迷わず選択し、そっと林に身を隠した




