第三十一話
手をかざしていたウェルコットの手から出た、淡い青の光が少年をふわりと包んだ。
「シルヴィオ。手を離しても大丈夫です」
「あぁ、頼んだ」
シルヴィオは言われた通り、少年から手をそっと放すと、少年体は淡い光に包まれたまま浮かんだ。
彼はそれを見届け、他の子供たちに目をやった。
この子のように、病を抱えている子供はいない。
だが、普通の子と比べると、どの子も痩せている。
中でも一番ひどいのがフォードと、ルルカ、ルルク。
この三人だ。
シルヴィオがそう考えたとき、彼は上着の裾を引っ張られた。
何事かと目をやると、淡い金髪に青紫の瞳を持った、小さな少女が裾を両手で握っている。
「あのね、ふぉーどとるるたち、たべてないの」
少女はシルヴィオと目が合うと、つたないながらにそういった。
シルヴィオは、スッと屈んで少女と目線を合わせる。
「それは、三人がご飯を食べてないってことかい?」
「うん。いつもすこししだけなの……」
「バッ、何言ってんだよ、ラティ!」
少女の言葉に、フォードが慌て、この少女の名前を呼んだ。
つまり、この子はラティと言うのだろう。
そして、フォードにとがめられたラティは、不思議そうな顔をして、言った。
「だって、ほんとーでしょ?」
「っ……」
「フォード、やっぱり、気づかれてたんだよ……」
「そうだよ。いつも一緒に居るんだから……」
何も言えず、俯いてしまったフォード。
そんな彼に、ルルカが俯き加減に言い、ルルクも、言いにくそうにしていった。
「だけど…………!」
「「だけどじゃないよ。そうするしかなかったんだもん」」
「…………っ……大体なんで、王様と宰相様は、ただの喧嘩に俺たちを巻き込んだんだよ……!」
俯いたまま、そう声を荒げたフォード。
ルルカとルルクも悲しそうに顔を歪め、無言で俯いた。
「おかしいだろ? なんで俺の父ちゃんも母ちゃんも、皆、みんな……! 内戦が終わったのに友達は殺されるし、なんなんだよ! 俺たちは生きてちゃいけないのかよ……?!」
「…………そんなわけないだろう」
「あんたに何が解る、あんたこの国の人間じゃないんだろ?! 部外者だろ。だったらさっさと居なくなっちまえよ、逃げたした第三皇子みたいにな!!」
シルヴィオが言った言葉に、涙を浮かべたフォードが声を荒げ言う。
これに、子供の治療が終わりかけているウェルコットの顔が、険しくなった。
そのすぐ後。
治療が終わったウェルコットが少年を抱きかかえ、口を開こうとした時、シルヴィオが自嘲の笑みを浮かべた。
「そうだな。だからこうして、戻ってきたんだ…………」




