第二十九話
彼は子供達が怯えない程度に近よる。
歩数的に言うと、十五歩程。
(さて。問題は、あの子供らの説得、だな…………)
どうするか。
シルヴィオはそれについて、顎に手を当てて考え始めた。
(ほ~ら、こっちにおいで~お兄さんがお菓子をあげるよ~。じゃぁ、お兄さんについて来てね~…………却下。じゃぁ、僕~。何してるの? 良かったらお兄さんとお話しない?……ダメだ。これじゃ完全に変質者だ!)
自身の発想を没にし、頭をひねるが、出てくるものはすべて、誘拐しようとしている人間じみた言葉ばかり。
シルヴィオはそんな自分に嫌気がさし、ため息をつく。
その時、風が何かを訴えるかのように、自分自身に向かって激しく吹いていることに気付き、ハッとして、風の訴えに耳を傾けた。
『キケン……シル、アブナイ…………』
シルヴィオはその言葉にハッとして、辺りの状況を把握。
言葉通り、辺りには弓や、剣を下げた大勢の人間達の気配があった。
(……こんなところに人? 援軍か?)
シルヴィオはとりあえず、相手のでかたを待つ。
念のためだ、そう考えた彼は、子供たちの周りをエルセリーネに守るようにと、声に出さずに命じる。
武器を手にしたの人間たちは、とても静かかつ速やかに距離を詰め、シルヴィオと子供たちをとり囲み、弓を構えた。
シルヴィオはその光景に、我が目を疑った。
(ファバル皇国軍?! それがなぜ、俺や守るべき子らに……)
そこまで考えたとき、兵士たちは、矢を放った。
「?! 動くな! そこに居ろ!!」
シルヴィオは、恐怖と絶望の表情をしている子供たちにむけ怒鳴り、その声に子供たちは反応するかのように、シルヴィオの方を向く。
「エルセリーネ! 俺は良い、子供を守れ!!」
シルヴィオはそういうと、矢を放つよう指示を出した男の背後に移動し、首筋に剣を突きつけた。
「誰の指示だ?」
「「「「?!」」」」
剣を突きつけられた男は、目を見開いて動きをとめ。
シルヴィオの存在に気づいた男たちは、矢を放つのを止め、一斉に彼に目を向ける。
そんな動きにつられ、矢を放つのがやむ。
同時に、子供らを守っていた風が動きを止めた。
「…………誰の指示だ。と、聞いたんだがな?」
「こ、皇帝、陛下から、ご、ご命令で…………」
剣を突きつけられた男は、向けられた剣と、怒気を纏った冷たい声音に怯え、震える声で言った。
これに、シルヴィオはすっと目を細める。
「そのような戯言で、私が納得すると思っているのか? 答えろ。誰の指示だ?」




