第二十八話
しばらくして、二人は国境から少し離れた、荒地となってしまった農村地帯に差し掛かった。
「そういえば、私。シルヴィオの事、人前でなんと呼べば良いのでしょうか……」
「お前が好きなように呼べばいい」
「そうですね。では、『シルヴィオ様』と呼ばせていただきます」
そういって、ウェルコットは満面の笑みを浮かべた。
「あぁ。…………しかし、子供が多いな……」
シルヴィオは痛ましげに、遠くにいる子供に目を向けた。
子供たちは、二人を物珍しそうに遠くから眺めている。
「……えぇ。内戦の後ですから、親を亡くした子が大勢いるのです」
「…………わかっている。だが、これから夏になるということが救いだな。短いが、ファバルの夏は過ごしやすいからな」
「え? えっと、シルヴィオ。今なんと?」
戸惑いがちのウェルコット。
シルヴィオはそんな彼を不審に思いながらも、気にせず言った。
「? これからの季節は夏だろう?」
「…………………………冬、ですよ……。そして、今は秋です」
「………………」
「シルヴィオが数日前までいた土地は南。ここは北。しかもこの大陸の端の、最北端でございます。何より、北と南では季節が真逆です」
「………………そう、か…………」
「えぇ。おまけにこの国の冬は、氷点下が当たり前の厳しい土地ですからね。おそらく……」
言葉を濁したウェルコットに、シルヴィオはなんとも言えない顔をして、あたりを見回す。
彼と目があった子供たちはパッと、顔ごと目線をそらした。
「……ウェルコット。俺は、この国の将来を支える子供たちを、一人でも多く救いたい…………」
「えぇ、救いましょう」
「だが、今の家ではここに居る子供ら全員に、暖かい場所を提供することは不可能だ。だから、あの家をつぶし、新たに家を建てる。力を貸してくれるな?」
「…………よろしいのですか? あの家は――――」
多くの思い出があるのでは。
そう言おうとしていたウェルコットの言葉を遮った。
「いいんだ。母上もお許し下さるだろう」
「……分かりました。早い方がよろしいですか?」
「あぁ。だからお前は先に帰って、家を作っておいてくれ」
シルヴィオの言葉に、ウェルコットは少しだけ悲しそうに頷き、光の柱となって消えた。




