第二十七話
いつの間に……、と。
誰かが口にした。
シルヴィオはこの場に表れたときから無表情だ。
彼は王の目の前を動かず、腕を組んで返答を待った。
「…………剣を……」
王の言葉に、動揺していた側近は慌てて居住まいを正し、そのうちの一人の若者が王に剣を差し出した。
シルヴィオはその様子をただ静かに見つめる。
(素直に自害するか、俺に剣を向けてくるか。どちらにせよ、死から逃れることはできない)
彼は王の動きを待つ。
しばらく、王は鞘に収まった剣をただ見つめた後。
意を決した様子ですらりと剣を抜き、奇声を発し、シルヴィオめがけ剣を振り下ろす。
が、無風状態だった室内に突如として風がふき、剣もろとも王は断末魔を上げ、切り刻まれて飛び散った。
これによって室内のあちらこちらに肉片と、血が付着した。
シルヴィオは王を切り刻んだ風とは別の風に守られ、一滴も血を浴びていない。
「…………無駄なことを……」
そうささやいたシルヴィオの言葉もろとも、先ほど交わされた言葉は、ブタブッティ国中に筒抜けだった。
「これより、ここはファバル皇国領となる。皇帝陛下にあだなすものは、私が直々に消す。それを胆に銘じておけ」
シルヴィオはそういって、エルセリーネに言葉を飛ばすことをやめるさせる。
そして彼は、ウェルコットが居る国境に戻った。
「終わりましたね。シルヴィオ様」
「あぁ。だが、問題はまだある」
「国家転覆をはかろうとした物の処刑と、盗まれた宝物、大胆な帳簿の改ざん。ですね?」
「そうだ。だが、帳簿は兄さ――宰相閣下にまかせるとして、そうだな。ウェル、お前は宝物の件を。俺は貴族を洗い出す」
「はい。お任せを」
微笑むウェルコットに、シルヴィオは小さく頷き、ゆったりとした足取りで歩き出した。
「殿下? お戻りになられないのですか?」
同じようにゆっくりと歩き、不思議そうについて来たウェルコット。
「あぁ。俺は少し、歩こうと思う。それと、『殿下』の称号は返上してきた」
「え…………? ……そうですか。でも、シルヴィオは昔からそういってましたね」
小さく笑いながらウェルコットは少し速度を上げて、シルヴィオと並んだ。




