第二十五話
「まぁ、過ぎたことだろう? ほら」
シルヴィオは少しだけ屈み、座り込んだままのウェルコットに手を挿しだした。
「あぁ、ありがとうございます。確かに過去の事ですが、私の中には根強く残っていますよ。……ですが今は、今できることを行うべきですね」
立ち上がりながら言うウェルコットに、シルヴィオはふっと微笑み、ちりじりになって逃げている敵兵に目を向けた。
「さて、仕上げに移るぞ。ウェルコット、さっきのをもう一度張れるか?」
「もちろんです」
「では、合図したと同時に始めろ。エルセリーネ。ブタブッティ王国中に繋げ」
シルヴィオの言葉を合図に、風がブタブッティ王国の方へ吹いた。
彼はそれを合図に、口を開く。
「ブタブッティ王国の者に次ぐ。ファバル皇国から兵を引き、降伏しろ。さもなくば、貴様らもろとも国を消す」
『な、なんだ?!』
『誰だ! どこに居る!!』
風に乗って聞こえた動揺したような声。
それを聞いたシルヴィオは、足元にある小瓶を一つ、風を操り手に持った。
「どうやら状況を把握できていないようだ。まぁ、良い。どうなるか、試してやろう」
シルヴィオはそういって、先ほど手に持った小瓶と足元に置いておいた小瓶を、ブタブッティ王国上空に飛ばした。
「さて、ブタブッティ王よ。降伏するか否か……。返答しだいでどうなるか、解っているな……?」
『……断ったら、どうなるんだ?』
「もちろんブタブッティと言う名の国がなくなる」
『そうか。だが、ファバル皇国の基礎。ファバル大帝国をつくる際、最前線に立った我が国をそうやすやすと消すことができると思っておるのか?』
自信に満ちた声音。
確かに、ブタブッティ王国は強敵。
しかし彼の敵ではない。
「たやすいことだ。信じられないようであれば空を見てみろ」
『空、だと……?』
『?! へ、陛下! 空になにやら小さな物体が浮かんでおります!!』
『何だと? …………はっ! まさか……!!』
「そう、今お前が考えたものだ。しかし、困ったことに、時間がたちすぎて性質が変化してしまっているらしくてな。私にもどうなるのか予測することが出来ない」




