第二十二話
――ドンドンドン。
シルヴィオの野菜炒めが残り半分になった時。
玄関の扉を激しく叩く音が響いた。
『第三皇子殿下! 第三皇子殿下!! こちらにいらっしゃいますでしょうか! 第三皇子殿下!!』
聞こえた声音は、酷く焦りを含んでいた。
この声にウェルコットが椅子から立ち上がる。
「私が行ってまいります。シルヴィオはゆっくりしていてください」
ウェルコットはそういってリビングを出て行った。
(確かテファが外に居たはずだが、応対していないということはいないのか?)
そんなことを考えながら、野菜炒めを完食。
使っていた皿を洗うため、再びキッチンへ。
そしてそれが終わり、リビングのソファーでくつろぎ始めたころ。
血相を変えたウェルコットとテファがリビングに来た。
「シルヴィオ! 王位を破棄したとはどういうことです?!」
「そうよ! だいたいそれだけでも大問題なのに、ブタブッティに宣戦布告するなんて!!」
「俺が王位を持っていてもしょうがないだろ? それに俺、宣戦布告なんてしてねぇし。事実を言ったまでだ」
「『しょうがない』って、なんという…………」
「しーちゃん……。王位の事もだけど、現実を突きつけたらダメな人もいるんだから、その辺も考えないとダメよ?」
頭を抱えるウェルコットとは対照的な明るさで、微笑むテファ。
「お前がムキムキじゃなくなったら考えておく」
「まぁ! 私はまだまだですわ!!」
「…………じゃあ、お前の基準でいいから、ムキムキって思える基準を言え」
「そんなもの、素手で岩を叩き割ることができるくらいよ? 当たり前でしょう」
自信満々に言ったテファ。
そんな彼女にシルヴィオは頭を抱えた。
「……それをできたらは化けもんだ…………」
「ん? なにかいった?」
「いや、何も……。で、ウェルコット。勘違い王国の動きはどうだ?」
「お気づきなのでしょう……?」
「あぁ。あいつらは大軍でこちらに押し寄せてきているな」
面倒だな、そうつぶやいたシルヴィオ。
ウェルコットは困ったように笑って、言った。
「では、いかがなさいますか?」
「っふ。そんなもの強制排除だ。ついでに奪われた国土も返してもらおう」
シルヴィオはそういってソファーから立ち上がり、玄関に向かう。
彼の後をウェルコットは静かについて来た。
リビングからすぐの玄関を出たとき、シルヴィオが口を開いた。
「あぁ、ウェルコット。お前先行ってろ。俺は用事を済ませて合流する」
「……かしこまりました」
「ぬかるなよ」
「はい。もちろんです」
ウェルコットはそういって微笑むと、光の柱になって消えた。




