第二十一話
そして、逃げるように消えたシルヴィオは、自宅の玄関先に姿を現し、中に入ると、彼は人の気配がするリビングに向かった。
そこには、今朝いた場所から動いていないウェルコットの姿。
彼はぼんやりと、手に持っている薄紫でガラスのように透き通った、短い棒のペンダントを見ている。
いつもはそのペンダントを肌身離さず見えないよう、首から下げているのだが、今日はそれを首から外していた。
(近いうちに夏だが、明日は大雪か?)
そんな考えがシルヴィオの頭に浮かぶくらい珍しい事だ。
「おい、ウェル。どうしたんだ?」
「?! シ、シルヴィオ?! 家の中に【移動】はしないのではなかったのでは?」
「馬鹿が。玄関から入ってきたに決まっているだろう」
「え……。ですが、物音がしませんでしたが…………?」
「お前が物思いにふけっているからだろうが」
「あ、あぁ。そうですね……すみません。おかえりなさい、シルヴィオ」
困惑していた表情から一変して、微笑みを浮かべたウェルコット。
シルヴィオはそんな彼に小さく返事を返すと、リビングの奥にあるキッチンに向かった。
その間、ウェルコットは不思議そうに彼を目で追う。
「あの、シルヴィオ? 何をなさるおつもりですか……?」
「飯」
「え…………?」
「だから飯作んだよ……」
ため息交じりにいいながら、キッチンで鍋を手に振り返ったシルヴィオ。
そんな彼にウェルコットは首をかしげた。
「え? 作るんですか? あなたが? でも朝食はティルファが――――」
「あれは人間が食べるものじゃないだろう……」
「? そうなんですか…………?」
そういってまた不思議そうにするウェルコット。
シルヴィオはそんな彼をみて、『食育は大切だ』その言葉が出てきた。
「……お前も料理禁止」
「あの、私、そもそも料理なんてできませんよ?」
「………………頭でっかちだもんな……」
シルヴィオは鍋を火にかけ、包丁片手に近くあったほうれんそうとニンジン、なんだかわからない空色の葉野菜(人体に影響はない)などを、短い時間で火が通るよう切り始めた。
「失礼ですね。知識が豊富だといってください」
「対して変わらねぇぞ?」
言いながら切った野菜を鍋へ。
味付けと、野菜の水けを出すために塩を少々。
「変わります。大いに変わります!」
と、なにやら力を込めていったウェルコット。
「あっそ。さて、他に何かねぇかな……」
「あぁ。それでしたら木箱にオーガルの肉が入っているはずですよ?」
ウェルコットに言われたように、キッチンの奥。
邪魔にならないとは言えないの大きさの木箱があった。
そしてこの時。
シルヴィオは野菜を炒めながらいった。
「それは今朝の足か……?」
「いえ。それは今日食べましたので、確か胸肉の方だったと思います」
「そうか、胸肉か」
一安心。
その一言がシルヴィオの頭に浮かび、シルヴィオは野菜炒めを皿に取り出し、火を消して木箱を開け。
固まった。
「……………………………………おい」
「はい、何か……?」
「…………残っているのは『胸肉』。だよな?」
「? はい。そのはずですが……?」
「これが胸肉か……?」
そういってシルヴィオが取り出し、ウェルコットに見せた物は、人の顔。
ちなみに、非常に苦しそうに顔(?)をゆがめている。
「はい。そうですよ? オーガルですから、当たり前じゃないですか」
「………………当たり前、ね……」
空白が……自分で作った空白の時間が口惜しい。
シルヴィオはそう思いながら、持っている顔(胸肉)を木箱にそっと戻し、野菜炒めとフォークを持ってダイニングテーブルへ。
そして、黙々と頬張り始めた。




