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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
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第十九話

「大体、昔と変わりすぎなんだよ……」

「何が変わりすぎですの?」

 背後から聞こえた、高飛車な女・クリスティアラの声。

 シルヴィオはその現実にげんなりして、ボソッと言った。

「……………………また出たか……」

「なんですって? それはあたくしの言葉ですわ。それに、あなたまだ王宮に居ましたの? ご自分で場違いと言う事に気づきませんの? 大体なんですの、その服。みっともない。そのような格好で王宮を歩き回って良いとお思いですの? ファバル皇国臣民たるもの、この国の服を身につけるべきですわ!」

 シルヴィオが口をはさむ間もなく、高らかに宣言するクリスティアラ。

 高飛車全開の彼女に、シルヴィオはめんどくさそうに振り返り、言った。

「その言葉。そっくりそのままお前にあてはまる事だと思うぞ?」

「まぁ!! 何てこと! あたくしとあなたを一緒にしないで下さる? あたくしは皇帝陛下からこの恰好を許されていますの。得体のしれないあなたみたいなのと一緒にしないでちょうだい!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る彼女。

 すると何かを思い出したのか、怒気を深めた。

「それに、あたくしの部下を手にかけ、殺そうとしたこと。絶対許しませんの! さぁ、朝は見逃して差し上げましたわ。ですが、皇帝陛下が第二夫人をお迎えになられる祝いの日。あなたのような不審な人物が王宮に居ては示しがつきませんの!」

 クリスティアラはそういうと、素早く抜刀し、切りかかってきた。

 もちろんこの間シルヴィオが口を挟む余裕などない。

「王宮での抜刀は緊急事態を除き、禁止されていたはずだが?」

 シルヴィオは軽く一歩下がって回避し、クリスティアラに向けた言葉を放つ。

 しかし、彼女はなんでもない顔をして言った。

「今が緊急事態ですわ! それに、あたくしにはあなたが危険人物以外に見えませんの!」 

「いやいや…………。だからって守るべき対象に剣向けたらだめだろ……」

 シルヴィオの言葉は、彼を危険人物とみなした彼女に届くはずもない。

 そのため、彼はクリスティアラの剣をよけることに専念した。

(ん? この女、さっき『皇帝陛下が第二夫人をお迎えになられる』といったな。どういうことだ?)

 しばらくクリスティアラに対し、呆れ果てていたシルヴィオだったが、彼女はこういう変な奴だと決めつけた時。

 その疑問がわいた。

「おい。お前今、皇帝が女を迎えると言ったな。それはどこの女だ?」

「?! このあたくしを『お前』、ですって? なんて無礼なの! あたくしの剣が当たらないし、少しの動作で躱すし、あなたなんなの!!」

 剣を振る手を止め、半泣きで怒鳴るクリスティアラ。

 どうやらシルヴィオは彼女の自尊心を酷く傷つけたようだ。

「そんなことはどうでも良い。私は『どこの女だ』と聞いたんだ」

「知らないわよ! ブタブッティの王女よ! もう信じられないわ!!」

 クリスティアラはそういって、剣をしまうと顔を覆った。

 そんな彼女に、シルヴィオは言っていることがめちゃくちゃだと言ってやろうかと迷ったが、あえて言わず、問う。

「では、それはどこで執り行われている?」

「…………王宮の神殿よ……」

 涙声の返答。

 シルヴィオはそれに一つ頷き、「そうか」と短く言って姿を消した。

 そして、彼が居なくなってしばらくして顔を上げたクリスティアラ。

 彼女の目の周りは真っ赤で、瞳は充血、まつ毛はしっとりと濡れていた。

「なんてデリカシーがなのかしら!」

 クリスティアラは吐き捨てるように言って、立ち上がり、どこかへ行った。




 クリスティアラから聞いたとおり、神殿では大勢の者に見守られ、結婚式が挙げられていた。

 新郎はファバル第十五代皇帝。

 ゼフェロス・アイラス・ファバル。

 新婦はファバル皇国の国土を無断で削り、我がものとしてきた隣国の、豚のようにまるまると超えた、豚に良く似た顔の女。 

 シルヴィオはそれを見て頭を抱え、神殿の出入り口近くの柱に寄りかかった。

(そうだった。俺今人間じゃなかった……。まぁ、それは置いといて。よりにもよって『ブタブッティ王国一の美人』と称される第二王女かよ…………。あれのどこが美人だ、豚じゃねぇか! 豚小屋に叩きこむぞ!!)

 彼の声に出せない絶叫。

 後半が実に失礼だ。

(あぁ。そうだ……)

 何か思いついたのか、ニヤリと笑うシルヴィオ。

 しかし、神殿に居る者たちは彼になぜか誰も気づかない。

「兄上。これはどういう言うことです」

 静かだった神殿に響いたシルヴィオの声。

 途端に神殿内はざわつき、誰もが振り返り、彼を驚愕の表情で見つめる。

 シルヴィオはそんなことはお構いなしに、一定の距離までゼフェロスに近寄り、笑みを浮かべ、ゼフェロスの隣に居る王女を一瞬だけ見て言った。

「私はこのように肥えた豚を、『姉上』などと呼びたくありませんよ?」

 彼の言葉によって神殿内は一瞬で静まり返った。

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