第十一話
とても無理やり納得したシルヴィオ。
百面相していた彼を、少年はただ無表情で見つめていた。
彼はそのことにしばらくして気づき、わざとらしくコホンと咳をする。
「と、とにかく、俺は変な人ではない。お前の母の知り合いだ」
シルヴィオの言葉に少年はしばし沈黙。
そして、納得したのかコクリと頷くと背を向け、てくてくと歩き出した。
(納得したのか……? いや、した。そうだ、納得したはずだ)
シルヴィオは安堵の息をついた。
(まぁ、餓鬼は純粋だもんな)
と。彼が腹の中で嘲笑し、目的地に向かおうとしたとき。
『変な奴が庭に入り込んでいる。追い出せ』
『は! ただいま』
先ほどの少年の声と、会話から衛兵と思われる男の声が風に乗って聞こえた。
(マジか……。エルセリーネ。お前は子供にどんな教育をしたんだよ…………)
シルヴィオは深くため息をついた。
「出てこい、エルセリーネ。お前に文句を言わねぇと気がすまねぇ……」
若干低い声音で言ったシルヴィオの体から、分裂するようにして、一人の女性が向き合う形で現れた。
波打つ金髪にアクアマリンの瞳。
優しげな目元。
シルヴィオと少しだけ似た顔立ちをしている彼女・エルセリーネだ。
「お呼びでしょうか。シルヴィオ様」
「あぁ、読んだ。理由は分かっているだろう?」
そういって彼女を鋭くシルヴィオは睨む。
しかし、それをものともせず、エルセリーネは遠い目をした。
まるで大切な思い出に浸るように。
「……あの子には、寂しい思いをさせましたから…………」
伏目がちに、エルセリーネは静かに言う。
シルヴィオはその様子に軽く苛立った。
(だから、なぜ俺が不審者扱いされんだよ。ふざけんなよ?)
彼は、必死に苛立ちが表面に出ないように抑えるが、雰囲気がピリピリしている。
「それは理由になるとおもっているのか……?」
低く唸るようにシルヴィオが声を発する。
が。彼女はそれをものともせずに、コロコロと笑った。
「えぇ。だってあの子はシルヴィオ様に似て、とても優しい子ですもの」
「……だが、初対面の相手を変質者扱いはどうかと思うが?」
彼女の言葉に苛立ちがつのったシルヴィオ。
それに気づいてか気づかないでか、上品な微笑みを浮かべた。
「当然ですわ。そう教えて育てましたもの」
「…………………………」
「いかがなさいましたの、シルヴィオ様?」
小首をかしげ、エルセリーネが聞く。
それに、シルヴィオはふかぶかとため息をついた。
「…………呆れてんだよ、この馬鹿女……!!」
この国に戻って来てから、蓄積していた苛立ちが限界に達した彼の声が響き渡った。




