第四話
シルヴィオはそんな周囲の反応など気にせず、廊下をひた走り。
宝物庫に着いた。
(あ、そういえば…………)
同時にあることを思い出し、宝物庫を守ろうと、武器を構えた兵士たちに問う。
「十年間の間に宝物庫に入った者の名は?」
「「「「……………………」」」」
兵士たちは誰一人として答えない。
シルヴィオは内心、厄介だなと思い、舌打ちしそうになった。
「はぁ……。わかったわかった。私が不審者に見えるのだな。そうかそうか。そうだよな…………」
まさか自国の兵士にまで警戒されるなんて。と、シルヴィオは酷く落ち込んだ。
「殿下。落ち込むのはせめて鍵を所持していてからしてくださいませ。彼らの警戒は当然です」
「ウェル? なんだもう終わったのか?」
シルヴィオが突如現れたウェルコットに問うと、彼は勢いよく片眉を跳ね上げた。
「たったの数時間で終わるとお思いですか?」
そういって彼は冷笑を浮かべるのに対し、シルヴィオは鼻で笑った。
「……【ファムロード魔法大陸一の魔導師】とうたわれ、引く手あまただったお前がか?」
ファムロード魔法大陸。
正式名称はファムロード魔法研究科学共和国。
そこは科学では説明ができない魔法を研究し、科学も同時に研究する一つの国だ。
ウェルコットは、その国で一番高位の魔導師だった。
「だからと言って私は、大量に壊れた大きなものを数時間で直せるほど万能ではありません!!」
「そうだったな。お前は周囲の過度の期待が煩わしくて、この国にきたんだもんなぁ」
「……………………別に良いじゃないですか。昔のことを引っ張り出さないでください!」
若干すねた口調でいうウェルコットに、シルヴィオは笑った。
「まぁ。お前のその力と目の色を恐れられて、退治されそうになったのも昔のことだな」
「…………ですから『昔のことを引っ張り出すな』と、言っているんです!」
語尾が荒くなったウェルコット。
武器を構えていた兵士たちは、ポカンと口を開けていた。
「さて、おふざけはこの辺にして、宝物庫の中を確認せねばな」
「……何か、見つかったのですね」
「あぁ。それと、一つ思い出したことがある」
シルヴィオは彼の問いに返事をし、表情を引き締める。
その様をみたウェルコットは訝しげに顔を歪めた。
「それは何か?」
「この宝物庫は猛毒やら火薬やらで私が作った、いろいろな危険物がわんさか眠っている」
満面の笑みのシルヴィオ。
ウェルコットはそんな彼の言葉を徐々に理解して、顔面蒼白になった。
「……………………………………爆発、しない……?」
「さぁな、行くぞ。ウェル」
引きつった顔でいったウェルコットにシルヴィオは背を向け、宝物庫を開錠した。
「え……私も、ですか?」
「当たり前だろう?」
シルヴィオは首をひねってウェルコットの方を向いていった。
「……………………お、お一人でどうぞ……」
「帰ってもいいか?」
「あはは! 喜んでついて行かせていただきますとも!!」
シルヴィオの一言にウェルコットは一息に返事をして、先に宝物庫に入った彼を追った。




