序章
見渡す限りの木々。
木漏れ日から、燦然と輝く太陽が射しこむ。
光は影を払い、同時に濃く、まばらに地面を彩っていく。
木陰で小鳥が羽を休め、囀り、それを狙う獣。
森の動物は人の気配に警戒し、距離を置いていた。
獣たちが警戒する先。
ひらけたところに十か、十一歳の少年。
左手で、黒い表紙の本。
右手には、透き通った薄い膜のような硝子玉。
中心に黒と真紅の小さく短い炎が、交わることなく寄り添い揺れる。
手のひらに収まるそれに、少年はしばらく目を向けて、再び本に向け。
薄く口元に笑みを浮かべ、手にある硝子玉から手を放す。
二色の炎の入った硝子玉は、重力に逆らうはずもなく、落下。
その後、薄い硝子が割れたような音が響き。
硝子玉は大小様々な大きさに砕け、散った。
小さかった二色の炎は、硝子が砕けたのとともに大きく燃え上がり。
少年を襲う。
だが、少年に火傷を負わせることなく。
砕け散った硝子のみを溶かし、吸収していく。
煌々と燃え上がる炎の中で、少年は口角を上げ、告げた。
「我、名をシルヴィオ・レファニア・ファバル。我が名において命ず。
汝、姿を現せ……エルセリーネ」
――刹那。
炎は彼の目の前に集まり歪み。
人の形へと代わり、鎮火。
現れた者は彼と同じ髪型と髪色で、瞳を閉じた、十四・五歳の愛らしい顔立ちをした少女だった。
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続きます。